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白蓮の結晶  作者: 紫雨
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第13話「クルイビト」

海沿いから、だんだんと山林へと入っていく。


「班長、今回の相手は?」


爽さんが眼鏡を拭きながら訪ねた。


「推定(レート)は6、まぁ双葉岬だから、岩混(いわまじり)だろうな。」


「……了解。」


「れぇと?いわまじり?」


聞き馴染みのない言葉だ。


「レートっていうのは、要するに危険度だ。基本は1~9の9段階で表される。詳しくは本部の奴らが決めてるから知らないけど、大体は触れた異光石の種類で決まる。次いで被害だな。」


「あの石に種類とかあるんですか?」


「そうだ。異光石の強さは石が生じる時に混じったモノで決まる。勿論何とも混ざっていない異光石が一番強いんだけど、純粋な異光石はほとんどないからな。岩混(いわまじり)っていうのは、その狂人(くるいびと)が触れた異光石が岩と混ざってるってことだ。ここから大体の性質は分かる。」


「ちなみに俺は多分潮混(うしおまじり)だぜ。海の中だったし。」


新島さんが肩に手を回してきた。


「ちなみに(レート)6ってどれくらいなんですか?」


「町一つ壊せるくらいだ。ちなみに相当高い部類だね。僕らが駆り出されてるくらいだし、タイマンだったら勝てる人桜花組でも10人くらいじゃねぇか?ぶっちゃけだいぶ緊急事態だろうな。」


そう言ってる割に銀ノ瀬さんから焦りの色はこれっぽっちも見えない。


「双葉岬はちょっと特殊な場所でね、普通岩混(いわまじり)(レート)6なんてありえない。でも、陰山(かげりやま)陽山(ひかりやま)って言う二つの山にそれぞれ異光石が祀られていて、特別陽山(ひかりやま)岩混(いわまじり)は純度が高くてね。俺らが来たってワケ。」


「ちなみに僕が触れた石って?」


「ん~……秘密だ。」


え~?ケチだなぁ~。


「別にケチケチしてるわけじゃなくて、大人の事情だ。」


銀ノ瀬さんって鋭いよなぁ。顔とかにケチって出てたのかな。


「銀ノ瀬さんって心でも読めるんですか?何かいつも僕の言いたいことを汲み取ってくれるような気がして。」


「心を読む?流石にそんなことはできねぇよ。少なくともお前にはな。」


はは、そうだよね。心なんて読まれたらプライベートも何もあったもんじゃないしなぁ。


「と~うちゃ~く!みんな気をつけて行ってきてね~。ワタクシはミニバス君でも弄って待っとくのです。」


「愛由は来ないのか?」


「いやぁ~、ワタクシの発明品(ぶき)は爆発で吹き飛んじゃったのでぇ~。」


「別にお前ロボットなくたって戦えるだろ。」


「アルティメットスーパーゴリゴリ君ロボ改が出来上がるまでまってよ~はんちょ~。」


「…………お前が吹き飛ばした船の修理費いくらだったっけ。」


「ふぇ?」


「それを本部に頭下げて経費で落としたのって誰だっけ?」


「はんちょー。」


「わざわざ新しいラボの機材を買ってあげたのは?」


「はんちょ。」


「……」


「……」


「…………」


「あ~っ!あんなところにUFOが~!」


振り返ることもなく、銀ノ瀬さんが豊田さんの袖をぐっと掴んだ。


「い”~や”~だ~。はだらぎだぐな”い”~~~。」


駄々をこねる豊田さんを銀ノ瀬さんが引きずっていく。





「……ここだな。」


そこには、凄惨な光景が広がっていた。


上から押しつぶされたようにしてぺしゃんこに潰れた家々がそのまま放置されている。大きな足跡がいくつもあり、田んぼはぐしゃぐしゃになっている。まるで巨人でも通った跡だ。


「今回の相手はやりがいがありそうでいいねぇ~。」


「そうっすね、姉貴!」


何であの二人はこの景色を見て闘争心を燃やしているんでしょうか。


「班長、分かってますよね。」


爽さんが眼鏡を指で押し上げ、銀ノ瀬さんに話しかけた。


「もちろんだ。陰と陽は表裏一体、だろ。」


「陽山の石って確か……純度が低い普通の異光石でしたっけ。」


「そうだね。」


「まぁ、先にそっちじゃないですか?」


「……爽と愛由、ヒバリは後ろ、2人は前。レイは……ちょうどいい。そこの岩の上で見てといて。」


「へ?」


キェェェェェと、不快な金切り音が(つんざ)く。


あれが、クルイビト……。


もはや人の形を保っていない化け物だ。体中から赤黒い触手のようなものが飛び出ていて、体だったと思われる部分はカクカクと、関節があり得ない動きをしている。体は紫の鱗のようなものでできていて、部分部分が膨張したり縮小したりして、輪郭がはっきりしていない。ぱっくりと裂けた口のような部分の周りには血がべっとりとこびりついている。


「はぁ~、やっぱり純度の低い石の狂人(くるいびと)は、気味悪いものですねぇ。」


爽さんが呟く。


「銀ノ瀬さん、あれが、狂人(くるいびと)なんですか?」


「そうだ。運が良ければ俺達みたいに異光石が物体として体内にとどまるんだが、残念なことにあいつの細胞にはうまく入れなかったから、狂人(くるいびと)となって力の源のまま暴れまわる。何故かは知らないけど、狂人(くるいびと)は人を襲う。迷惑なもんだ。」





「う~ん。あんまりこういうタイプ相手は私らの仕事じゃないんだけどねぇ。」


「まぁまぁ、姉貴、ウォームアップに丁度いいじゃないですか。」


2人は高速で四方八方に放たれる触手を軽やかなステップでよけながら話す。


「まぁ、爽たちのアシストと行きますか。」


「あいよ。」


響が腰を落とし拳を強く握る。その時間で、拳二が瞬時に横へ周り、跳躍した。


ドゴォン


強烈な一撃が狂人(くるいびと)の腹部へ入ったかと思うやいなや、狂人(くるいびと)はトラックにでも跳ね飛ばされたように吹き飛んだ。


そこにすかさず飛んでいた拳二のキックが突き刺さり、狂人(くるいびと)は大きく横へ吹っ飛ばされた。


2人の遠くにいた、ヒバリが、狂人(くるいびと)を視認した。ヒバリの視界の中で小さく見えている狂人(くるいびと)を覆い隠すように手を広げ、つかむような動きをした。その途端、手には、紫色の靄がかかる。


「………………止まれ。」


狂人(くるいびと)が何かに縛られたように空中で静止する。


「うん。流石あの2人とヒバリちゃん。……バッチリだね。」


爽は眼鏡をそっと地面に置き、弓をゆっくりと引き始める。


……グワッと左目を開く。そこには紫色に染まった禍々しい目玉が入っていた。


左手を放す。特殊な矢じりの大きな矢が猛スピードで射出される。


「……完璧。」


ヒューという矢が空気を切り裂く音だけが響き渡る。


パァンと小さな音がして、狂人(くるいびと)の頭と思しき部分が撃ち抜かれ、破裂した。


もう、狂人(くるいびと)は動かない。倒れこんだ狂人(くるいびと)の体のいたるところからシューと物体が蒸発していくような音がした。


「さっすが爽ちゃん、夜だろうと百発百中だね。拳ちゃんもナイスアシスト!」


「姉貴の一撃のおかげっすよ。」


さっきまでが嘘みたいな静寂が走る。





「……すごい」


本当にこれしかこれしか思い浮かばない。


「まぁ、見てだいたい分かっただろうけど、一応S班のみんなの能力を教えといてやろう。」


銀ノ瀬さんは木に寄りかかって言う。


「まずは、響。有名な武闘家の弟子で、パンチやらキックに衝撃波を乗せられる。」


通りで狂人(くるいびと)をあんなに吹っ飛ばせたのか。


「拳二は、単純に身体能力が強化されてる。その気になったら20mくらい跳べる。ヒバリは、冥利の家系でな、視界に入ったモノの動きを止めることができる。爽も、冥利の家系だ。特殊な目を持っていて、本人曰く、すべてがはっきり見える、らしい。……で、そこに隠れてる馬鹿は無機物に憑依して自由自在に動かせる、ハズなんだが。」


「バレてたんですかぁ~!?」


「バレバレだ阿呆。まぁ、こっから働いてもらうけどな。」


「ふぇ~。もうですか~。みんなを待ってからの方が……。」


「レイ、そこをどいて。」


「え?」


とりあえず岩から降りる。ちょっと高くて怖い。


銀ノ瀬さんがその岩に向かって、火の玉のようなものを投げつけた。


「かくいう俺の力は、火を操るもんでな。」


ゴゴゴゴゴゴと地響きが聞こえる。


「生憎、相性最悪だ。」


座っていた石は、立ち上がり、大きな岩の巨人となった。


「ラウンド2と行こうか。」











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