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白猫は怯える

いつものように、「青い猫の店」に裏口から入り、こっそり人の姿をとる。

今日は、お世話になった人たちに挨拶して、違う仕事をみつける事になっている。

シリウスの条件だったから、仕方がないと思いつつ…

(嫌だなあ。)


「若い女の子がいたら、酔ったお客さんとかに襲われるかもしれないよ?その気もないのに、無理やりとか…!!」

他の場所よりも、その危険が背中合わせなのは認める。

でも、私はこの店の人たちが好きだった。

耳も尻尾もしょんぼりしている。

だめだよ。ちゃんと説明して、お別れしないと…


「おう、アイリス。今日は早いな。なんか、昨日は訳アリっぽかったけど、大丈夫か?」

気さくに声をかけてくれる料理人マシュー。

「はい。ご心配おかけしました。」

笑顔を作って返す。

「…どうした?なんかあったのか?」

(これからあるんです。)

心配そうなマシューに心では言えるけど、なかなか言葉にはできない。

だって、辞めたくないんだもの。


「あのね、マシューさん。」

意を決して言おうとした、その時だった。


「いやあ、可愛い娘いるじゃないですか!俺、この娘がいいなあ!!」

「お待ち下さい!ここはバックヤードです!」

「バックヤードにまで青猫を配置するなんて、この店はさすがですね~。」

ドタドタ!

二人の男たちが厨房前で攻防戦を繰り広げていた。


1人はスカウトのジェイさんだ。

彼は貴賓の応対や娼婦のボディーガードなど、いろんな役割を担っている。

もう一人は…知らない男。


(身なりは、この辺りの男たちより上等。チャラい感じだけど、身ぎれいにしていて育ちはよい。綺麗な顔してるからモテそうだけど…なんか、いや。)


観察していると、不意に目があった。

ゾワゾワした感覚が全身を走る。

尻尾の先まで走り抜けてから改めて見ていると、その男は話しかけてきた。


「ねえ、今日は君が相手をしてよ。まずはお茶でもどう?ジェイ、一室部屋を…」

「…何してるの?ジェイ。」

そのままこちらに伸びてきた手を包み込むようにやんわり止めながら、声の主はジェイさんに、冷たい声をかけた。

「ミルル…。」

ミルルさんは、それから男に振り返り美しく笑う。

「店の裏側は、見せてはいけない秘密の場所です。こんな場所に案内して、失礼しました。彼女は青猫ではありません。料理人をしている従業員ですの。お相手はできませんわ?」

「ふーん。で、いくら出せばいいわけ?」

男はこともなげに言う。

明確な拒絶が通じていない。


「…帰っていただけます?これでもかなり譲歩していますのよ?」

ミルルさんの声色が低くなる。

「店のバックヤードを暴き、従業員に手を出そうとし、色を売らないと言っているのに、お金を積めば買えると当たり前に思っている。最低限のマナーもしらないお子様のお相手をする青猫は、この店にはいませんわ。お引き取りを。」

目もそらさずにはっきり告げる。


「へえ…。」

男はにやりと笑い、また視線を私に向けた。

「まあいいか。この子が青猫じゃないのは知ってるよ。君は、白猫だもんね。」

「?」

!?

気の所為だろうか。

嫌な予感がする。


まさか…知ってる?

「帰るの、手伝いましょうか?」

黙っていたマシューが、ついと男に近づく。

「おっと。そんな顔で迫ってこなくても帰るよ。…白猫ちゃん。俺、カインっていうんだ。覚えといてよ。…またね。」

名乗りながらカインは、軽い足取りで店を出ていった。


「ジェイ。ちょっと来なさい。」

ミルルさんが睨みつけると、ジェイは青くなる。

「ミルル!今の人はしょうがない。彼は第三王子のカイニール様だ。さっきの会話、一歩間違えたら不敬で首がとぶぞ。」

第三王子!?なんでそんな人がいきなり?

「…なんとなく分かってたわよ。あっちだってお忍びなんだから、ここで権力ちらつかせるのは問題のはずよ。」

「あとから問題になったって遅いんだ。離れた首は戻らない。慎重に相手しないとだめなんだって!」

「それでもアイリスちゃんを守るのがあんたの仕事でしょう?首の一つや二つ、かけなさいよ。」

ミルルさんが、カッコいい。

ジェイさんの言うことも、正しい。

ただ、あのままだと、私はかなり危ないところだったと思う。

それにしても…

(第三王子って…。)

彼が言った白猫という言葉。

単純に、娼婦を表す青猫という言葉をいじった言葉遊びだったらいいんだけど。


(嫌な予感は大概あたるのよね。)


バレたら、とんでもないことになる予感しかしない。


「目をつけられた可能性が高いし、しばらく、店に近づかない方がいいと思うわ。」

「そうだな。」

「ああ。俺もそう思う。」


その場にいた大人たちの満場一致で、「辞める」話ができないまま、一ヶ月の「休み」に入ることになってしまった。

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