白猫はご主人を気に入っている
性懲りもなく連載始めてみました。
楽しく書いていけたらと思います。
よろしくお願いいたします!
雪が、降っていた。
はらはらと、上から積もってくる雪。
視覚以外ないのか、音もなく、ただただ幻想的に降ってくる雪を見つめていた。
その視界も徐々にあやふやになり・・。
気がついたとき、私は異世界にいた。
猫として。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「にゃあ。」
甘えた声で足元にすり寄ると、およそ、前世では出会えなかったであろう美形男子、シリウスがかがんで私を抱き上げる。
「どうした?姫さん。お腹空いたのか?」
…声も、無駄にいい。
(お腹が空いたわけじゃないけれど)
飽きもせず、いそいそと食事の準備をしようとするシリウスが、私を降ろしたところで、再びシリウスの腕に飛びつく。爪で傷つけないようにして。
「わあ!?」
バランスを崩して寝台に尻もちをついたシリウスのお腹のあたりに丸くなって陣取った。
「にゃ。」
「あー、えーと、甘えたいだけ?」
「にゃん。」
肯定の一鳴きをしてすりすり。
「はあ。しょうがないなあ。」
シリウスは私を優しく抱き上げると、椅子に座り、膝の上に乗せて頭を撫でた。
大きな温かい手が、行ったり来たりするのが心地よく、なされるがままにする。
身体の中が、温かい力で満たされていく。
シリウスは、私を撫でながら、書類を読み始めた。
仕事の顔も、なんだか、無駄に、カッコいい。
(ほんとに、もったいないわよね。)
これが、普段から見せられれば、間違いなく恋人の一人や二人や三人や四人、すぐにできると思うのだが。
コン、コン
ドアがノックされるやいなや、ビクっと体を震わせたシリウスは、眼鏡とマスクを素早く装備して、手袋をはめた。
「は、入ってます!」
(トイレじゃないんだから。)
上ずった声。全身にみなぎる緊張。
「いるって聞いたからきたんだよ。悪いな、久しぶりの休みの日に。」
そう言って入ってきたのは、シリウスの上司にあたるラグザである。肩書は、騎士団長。
明らかにシリウスの緊張が解ける。
それでもマスクも眼鏡も外さないのは、シリウスのある特性によるものだ。
シリウスの特性は、テンプテーション。
インキュバスが得意とする『魅了』の力を何故か持ち、しかも制御できずにたれ流し続けてしまうシリウスは、哀れなことに、特性と相性が非常に悪い性格をしていた。
内気で、あがり症で、会話が苦手。
シリウスは生まれつき、人見知りが強く、対人恐怖が強い。そんな彼にとって、訳の分からぬ好意は、それはそれはおぞましいものらしい。
愛妻家で、魔法への耐性が並外れて強いラグザでも、直視はかなりきついと言う。
シリウスの素の姿は、人前では見せられないのである。
とまあ、ここまでの事情は、私を拾い、一緒に暮らし始めてから、初めての『魅了』が効かない相手に感激したシリウスが、自ら私に明かしたものである。
猫相手に、延々と身の上話をした、あの時のシリウスは、色々限界だったのだろう。
(さみしかったんだろうな。)
まあ、何はともあれ、ラグザが来てしまっては私は暇だ。
「にゃん。にゃあ。」
シリウスの足のあたりをカリカリ優しく引っ掻いてドアを尻尾でたしっと叩くと、気がついたシリウスが、ラグザとの会話を続けながらドアを開けてくれた。
私はすっとドアから出て、街に向かう。
構ってくれないシリウスよりも、大事なことはたくさんあるのだ。
5回くらい連日連載、それ以降は不定期連載です。
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