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不可能世界と黄昏商  作者: ざらめ
第一章 醜い王子はもう泣かない
6/20

第6話 ずれた笑顔の少年は

自由で奇妙な旅を、私の想像力が許す限り書きたいと思います。旅好き、魔法好き、冒険好きは是非、読んでいってください。


魔法

…呪文、魔法陣、儀式、魔具など、様々なものを用いて意図的に発動させる超常現象の総称。いくつかの規則性があり研究も進んでいる分野だが、同時に科学的な面においての研究は全く進まない分野でもある。(大界大大辞典)



―――

疲れた空間。

人の出入りと会話、金と商品の往来。活気は今日の終わりとともになくなり、明日に備えて眠る。緩やかに時間の流れるこの場所に、まち針を刺すような出来事。

「爆弾」「1億」。意味など分からなくとも、シェイルはその言葉だけで、なされている会話の闇の深さを感じる。


「理由は基本聞かない主義だが、どうも気になるね。なぜ欲しいんだい?なぜそんな大金を出す?」

「ではその主義を貫いてくれ」


お世辞にも快いとはいえないその笑顔で、彼女は答える。

ユラは大きなため息をついて続ける。


「…商売やってると、いやでも人を見る目ってのが養われるんだ。アンタには、売っちゃいけない気がする。そういう目をしている」

「人を見た目で判断するとは、商人の審美眼ってのはそこまで信用できるものなのか?」

「観察眼と言ってほしいね。まず、星のついていない魔法帽の色はその人間の属する組織の属性を表す場合がある。紫の場合、『夜』だね。んまこれだけじゃ根拠としては弱い。次にそのポーチから微かにガラスの擦れる音がした。ついでにシラカベ草特有の枯葉を煮込んだような匂い、アンタ達が店に入った時からだね。さしずめ毒物の研究でもしてる組織なんだろうと推測する。ネックの深いローブはマスクの代わりかな?」

「…お見事」


女は少しだけ顔を上げ、ゆっくりと拍手をする。新たに見えた顔の一部には、大きな傷が入っている。


「伊達に情報屋やってないんだ。よからぬこと企んでるなら、このやかましいおばさん含む都の住人全員を敵に回すことになるけど、それでも取引続行かい?」

「ふーむ。やめておこう。ここは居心地がいいからな。他をあたる」

「みんな同じ事言うと思うよ。どうしてもっていうなら、アンタもその道の専門家なら自作してみるといい。ま、できないからここにきたのか」


シャンデリアは小馬鹿にするように鼻を鳴らし、退店を促した。女は動じる様子もなく、黒ずくめを引き連れ、緑色の目を光らせて玄関へと向かった。

途中で歩を止め、玄関に向かったまま口を開いた。


「私はベノ。近いうちに、また会うことになるよ。その時はよろしく」


意味深な言葉は静寂が空間を満たすまで、店の壁をはね続けた。また、ドアベルは鳴らなかった。




―――

シェイルは、晩御飯を昨日ほどおいしく感じられなかった。料理の腕が落ちたわけではなく、気分が落ちたのだ。昨日はあつあつのうちに平らげたスープも、今日はすっかり冷めてしまっていた。


あの集団が帰った後、ユラは彼女をどこかで見たことのある顔だと二人に話した。やはり闇の情報屋、日の光の当たらないところには、日の光を嫌うものが集まる。また面倒ごとに巻き込まれなければいいんだけれどと、シェイルは残りのスープを平らげ、皿を洗い、寝室へ向かった。


精神を削ることが多々あったのが祟り、シェイルはすぐに眠った。


…どれくらいたっただろうか、まだ夜も深いときに、シェイルは目が覚めてしまった。部屋の明かりは窓から差し込む遠くのランタンの光だけ。あれには発光性の魔法が封じ込められている、ということを、昔読んだ本の記憶から呼び起こした。

部屋の中には胞子のようなものが舞っており、シェイルが動くたびにそれらは体を避けるようにして飛散する。

しばらくは寝れないモードだとシェイルは確信し、いったん部屋の外にでる。

ふと、シャンデリアが、屋上につながる梯子が二階から伸びていると話していたのを思い出した。少し二階を歩き回り、梯子を見つけ、興味本位に身を任せ登った。

屋上にはどうやら、先客がいたようだ。威厳を思わせる、大きく幅の広い年輪の上に寝転がり、大木の間から月を眺める人影。


「おや、眠れなかったのかい?」

「そんなところで寝たら、風邪ひきますよ?」

「あーいや、かくいう僕こそ寝れなかったんだよ、だから横になってるだけさ」

「そうなんですか?お疲れでしょうに。まあ私もですが」


シェイルはユラの横に沿う形で寝そべる。小さく響く虫の音。葉の間を風がかいくぐる音。よい子は知ることのない、夜のコンサート。


「あのね、

ひとつ、君に言ってなかったことがあったんだ」


シェイルが寝そべって少し経った時、ユラは改まった様子でつぶやいた。

どんな顔をしているのか、薄暗くてシェイルからはよく見えない。


「なんです?」

「実は、僕は、自分勝手な理由で、

君を一度見殺しにしようとしたんだ」


見殺し。

比喩的な表現としても用いられる言葉だが、言い方の重みから、自らが手を下すのではなく、殺人行為を黙ってみているという、そのままの意味なのだろうとシェイルは分かった。


「それで?」


それで?

相手が提示した具体的内容にまだ次があると考え、それを催促する言葉。シェイルは顔色一つ変えず、間違いなく、そういった。

どんな顔をしてそう言ったのか、薄暗くてユラからはよく見えない。


「…それっきりさ。罪の激白、のつもりだったんだがね」

「…ユラさんが決定的な判断ミスをしたところを、私は見たことがないです。いつのことかよくわかりませんが、その場においてそれが最良の選択だったのでしょう。現に、いま私は生きている。これ以上ない証拠です」

「…君は僕を買いかぶりすぎているよ。そんなにできた人間じゃない。もちろんその場において最良の選択だったさ。僕にとってね。利己的な判断だ。全くもってひどい話だ」

「そうですか。そうだな。ユラさん。

次は、助けてくれますか?」


周囲のランタンが突然、不自然に強く発光した。

ユラから、シェイルの顔が見えた。

笑っていた。屈託もなく。

まるで、笑い話でも聞いているかのような――


「ああ、もちろんだよ」


ユラは、自分が人とずれていることを自覚していた。何気なく言ったことに苦い顔をされたり、怒られたり。昔からそんなことばかりだった。シェイルからもそういう反応をされることがしばしあったため、シェイルもそっち側の人間だと思っていた。激白はある意味()()()だった。が、

てんで見当違い。

思えば、突然職を捨て、素性の知れない商人についていく時点で、気づくべきであった。

あまりに強く脆い、硬度三半以下の好奇心。

ユラは安堵と、その十倍以上の不安に押しつぶされそうになった。だからその二つとも、使命感と決意で潰し返す。


僕が守らねば。



―――

次の日、二人は屋上で目が覚めた。そのまま寝てしまっていたらしい。ご察しの通り、二人そろって風邪をひき、シャンデリア調合のにがあい風邪薬を飲む羽目になった。とても呑み込めたものではなかったが効果は抜群。完治した二人とシャンデリアは早速予定会議。


「シェイル君、聞くまでもないが、魔法草に興味はないかね?」

「ああああああるに決まってますよね!魔法草!文字通り魔法に使われる薬草の総称!ああ、なんて胸躍る響きなんでしょうか」

「だよねえ~。都のはずれに魔法草がそこら中に生えている森があるんだ。ちょうど欲しい魔法草がいくつかあってね。リストアップしてるんだ。行ってみないかい?」

「名案ですね!」

「あんら~!いいじゃないの~!私は店の番をしとくから、二人で行ってきなさいな!」


シェイルは足早に空っぽのバッグと手袋を持ち、店の玄関で足踏みをした。


「はやくはやくユラさん!」

「ちょっと待ってくれ…昨日屋上で寝たのが軽い腰痛になっちゃって…」

「つばでもつけときゃ治りますよ!それじゃ、行ってきます!」

「民間療法だし用途間違ってるし…行ってきます…」

「行ってらっしゃい!」


かたやスキップ、かたや腰痛。

愉快な二人組は今日も行く。



―――

「そういえば、魔法の都と言ってはいますが、ほうきに乗った魔法使いをまだ見てませんね。あれは過去の遺物なんですか?」

「いや、ただ単にこの都ではあまりほうきに乗る文化がないだけさ。その上ほうきの操作はかなり難しい。遺物は言い過ぎだが絶滅危惧種だね。あ、シャンデリアは乗れるよ」

「え!そうなんですか!見せてもらおうかな~」

「言ったら見せてくれると思うけど、まあ随分とふくよかにおなりだからな~ほうきが折れないといいが。なんて言ってるうちについたね」


大木の都のはずれ、普通のサイズの木が生い茂る、色鮮やかな広い森。足元は膝まで草が生い茂っている。これは決して管理が行き届いていないわけではなく、やや背丈の高い草が多く、下手に手を加えると生態系が崩壊しかねないからである。枝の葉は何十にも重なり、昼でも森を暗がりにする。懐中電灯が必要な暗さだが、それを不要にしているのが、


「これだね、お目当て。“フラスライト”。自分は光っているくせに草に埋もれた薄暗いところでしか育たない緑の蛍光色の魔法草。大釜に入れて弱火で一日煮た後、発色がなくなるまで天日干し。それをすりつぶしてカンキツガエルの油と混ぜ合わせれば、魔法の瓶の封の完成。」

「ただの瓶だと魔法を封じ込められないですからね。この魔法草が必要と。しかしユラさん光ってるものばっかり収集しますね、カラスかなんかですか?」

「人を鳥類スズメ目カラス科呼ばわりとは。別にこれだけじゃないんだよ。ここは魔法草にとって絶好の土地。今日はこれをこれだけ探すよ」


そういってユラはシェイルに収集するものを集めたリストを渡した。


以下内容

――――

フラスライト  20本

オネキカット・キング  10本

ネクモアイオ  10本

カガリビ  4本

十六夜草  5本

月下鈴(1本に子房が6つ以下のもの)  3つ

月牙鈴(1本に子房が4つ以下のもの)  2つ

加羅万蛇  200本

庭蝕草(確実に根ごと引き抜くこと)  3本

偽黄金(ドルゴー)(球体に近いもの)  5個 

ステンドホッパー  10枚

ラコメンダケ  両手いっぱい

クロネコダケ(シロネコダケと一緒に置かない)  5つ

シロネコダケ(クロネコダケと一緒に置かない)  5つ

アザキノコ(素手で触らない)  5つ

オオアザキノコ(絶対に素手で触らない)  5つ

晩餐華  5輪

デズニエールの心臓(三秒以上見続けない)  3輪

デズニエールのあばら骨(三秒以上見続けない)  1輪

シルバーマンドラゴラ(引き抜く時は耳栓をすること)  2つ

クレイモア  3束

魔女の贄(ウィッチウィール)  2輪

堕天歯(絶対に素手で触らない)  3本

握手花(シェイクフルー)  2輪

アオアオユリ(空より青い色のもの)  1輪

トウトウユリ(夜より暗い色のもの)  1輪

マヨイ薔薇(動いているものには近づかないこと)  1輪

虹向日葵(レイザンフ)(七色揃っているもの)  1輪

カオユガミ  ひとつまみ

化け猫の尻尾(匂いをかがないこと)  2本

簪花(マーダーメイド)  3分の1輪


⚠捨目玉(見るな触るな近づくな)


――――


これはなんとも…

シェイルは、半分魔女のレシピを見ている気分だった。怪しい注意書きの数々。何より、思い付きの提案にしては多すぎる。これが黄昏商の実力かと、少しだけ目がくらんだ。そして最後の怖。

ほとんど知らないものだったので、シェイルはユラに聞きながら手伝った。途中何度か草に襲われそうになったが、ユラに間一髪のところで助けてもらっていた。

そうしてほとんど集まったところで夕暮れ。大収穫だった。


「いやー大量大量!当分魔法草にはこまらないね」

「ですね!私もいい勉強になりました。って、あれは、シャンデリアさんですか!」

「え?店番をしてるはずでは?」


夕日の落ちる方向から、ほうきに乗って飛んでくる、少しだけふくよかな人影。


「あ、ほんとだね。ほうき乗れたんだ。って、なんか言ってないかい?」


いわれてみればと、シェイルは耳を傾けた。確かに何かしゃべっている。いや、

何か叫んでいる?


「二人とも!!!そこから逃げて!!!

あいつらがきている!!!」


「「あいつら?」」


疑問に思ったのもつかの間。この都であいつら呼ばわりされる輩など、一つしかない。

危機感、とっさに後ろを振り向く。


どん。


こもった爆発音とともに、紫色の煙が散る。

奇襲に呼吸は整わず、思い切り煙を吸い込んだ二人は、みるみる意識が飛んでいく。


「これは、、『夢爆弾』か、、、なぜ、、レシピは知らないはず、、、」


そういってそのまま、なすすべもなく、気を失った。










「…ラ」

「ユラ!!!」


はっ!と、ユラは起き上がった。まだ頭はくらくらする。

シャンデリアに声をかけてもらって意識を取り戻したが、もう一人、いるべき仲間が、いない。


「シャンデ!シェイルは!」

「…おそらくあいつらに、、」


そう。

ずれた彼は、

もちろんだと言ったはずだった。

必ず守ると誓ったはずだった。

そう、

誓ったその日のうちに、


ずれた笑顔の少年は、連れ去られてしまった。




―――


「…起きたか?」


少年は目を覚ます。

見知らぬ場所で、見知らぬ集団の中、見知らぬ器具に縛られて。


「ここは、どこだ…」


殴られた後のような脳内で必死に言葉を絞り出す。

見覚えのある紫髪の魔法使いは、冷たい笑顔でこう言った。


「ここは魔術教団、『毒喰皿(ベノムカルト)』のアジト。目的には何の関係もないあなたには申し訳ないけど、

今から、苦しい苦しい毒によって、

ゆっくりゆっくり死んでもらうわ」









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