第4話 勝利の酒が降り注ぐ
自由で奇妙な旅を、私の想像力が許す限り書きたいと思います。旅好き、魔法好き、冒険好きは是非、読んでいってください。
雲島
…大界に存在する伝説の一つ。地上から見ると一見ただの大きな雲にしか見えないが、それは質量をもち、空に浮かぶ正体不明の物質の塊で、主に中層(2000~7000m)付近に存在するという。基本的に同じ場所にとどまることはなく、他の雲と同様風の向くままに各地へ飛んでいくらしい。
一部の伝記には雲の上に浮雲城と呼ばれる雲でできた城が建っているという記述があるが、雲島、浮雲城同様、未だ発見はされておらず、架空の存在と主張する科学者が大多数である。(大界大大辞典)
―――
「伝説、だろう、おとぎ話だ」
「おとぎ話だった、と言ってください」
民家の陰に隠れ、波乱をやり過ごす二人。作戦会議に、そう長く時間はとれない。
「この都の地上に、町長の家以上に大きな家はない。ユラさんが町長の家に着いた時、少し首をかしげていたでしょう。その反応は間違っていなかったんです。前にユラさんが来た時には、きっとあそこに、王様が住んでいた。しかし、何らかの拍子に雲島が現れ、そこに移住した」
「…兵士が王のエンブレムをしているところを見ると、その仮定は正しいのだろうね」
ユラは眉間を指でつまんだ。顔のしわが中心にあつまる。
「まあいきさつはこの際どうでもいい。問題はどうやって空まで行くかです」
「ん?そりゃ簡単な話だよ。船を奪えばいい」
「簡単に言いますね…操縦できるんですか?」
「多分大丈夫だろう。見た感じ、自転車と同じようなものだ」
「絶対違うけどまあユラさんならどうにかしてくれるとして、それじゃあ後はカモフラージュが欲しいところですね」
「というと?」
「あの兵士の白い服を着ていけば、この格好で行くよりは幾分かごまかせると思うんです。まあ、鉱山の住人でさえてこずる強さの兵士からどうやって服を奪うかって話ですが」
シェイルは兵士の服を指さしながらユラに話す。
「なるほど、んじゃ二着あったほうがいいね」
にやりと笑うユラは、しょっていたバッグからかなり大きめの壺をとり出した。シェイルが両手で持ち運ぶ程度の大きさだ。ユラは壺から液体を数滴を出して、ハンカチにしみこませる。
「『酒断酒』。禁酒をするために用いられる、かなりお酒に似た液体でね。そのままだと劇薬だから、大体百倍ぐらいに薄めて使うんだ。昨日の案内してくれた商人さんがレシピを欲しがっていたのはこれさ。原液だとどのくらい危険か、教えてあげるよ」
そういってユラは立ち上がり、白服の兵士二人に向かって歩いて行った。二人の兵士はユラに気づき、剣を大きく振り上げる。それをユラはまるで、風になびく洗濯物のようにするりと避け、ハンカチをぱぱっと、一瞬だけ兵士の顔に近づけた。
「くぅぅぅあああああ……」
悶絶する兵士達。焦点の合わない目は踊りを踊るかのようにぐるぐると回り、その場に倒れこんでしまった。ユラは平然とした顔でシェイルに向かって手招きをする。
「二日は起きないと思うよ。二日?三日酔い?を楽しむといい」
シェイルはユラの身のこなしにも驚いたが、それよりも鉱山に入るのになぜそんな必要もない危ないものをしょっていたのかはなはだ疑問だった。
二人は白い軍服を身にまとい、曰く空飛ぶ自転車に乗りこんだ。
「ほんほんなるほど、理解したぞ」
「お、さすがですね」
「とりあえず、適当に動かしてみる!」
「な!もうちょちょちょい慎重にいきましょうって!うわ!」
ユラは目の前にあるレバーを思いっきり手前に引っ張った。行き当たりばったりが功を奏したのか、飛空艇は上空へものすごい勢いで上昇した。船は二人の商人を乗せ、大きな雲へと誘う。
「ううっ」
「あーユラさん、もしかして高いところ苦手?」
「うるさい!人の本能だ!」
ユラはぎゅっと目をつぶっていた。確かに、この高さは誰もが命の危機を感じるだろう。もう下の人間の動きは見えなくなった。怒号はまだ少し聞こえる。それももうじき、風の音にもみ消されるだろう。本当に消えてしまう前に、なんとかしなければ。
「この雲の上が…」
地上から見えていた大きな雲にかなり近づいてきた。近づいても、それは依然として普通の雲にしか見えない。ただの水蒸気の塊で、この飛空艇ですり抜けることもできるんだろう。架空の存在なのであれば。大きな雲を通り過ぎる。まだ上昇する。雲の上が見える。
その伝説は、
いま、ほんとうとなった。
「ユラさん…見てください」
「ん、なんだ、こりゃああ…」
まず見えたのが、並べられた飛空艇。地上に降りていく準備をしているようだった。船はしっかりと、その雲の上に乗っている。その奥に、いくつか小屋のようなものがあった。それらは見た事のない材質、空想に言葉を透かすなら、“雲”でできていた。ふわふわとしたその建材は、どう加工して、どう組み立てて、どう固定しているのか予想もつかない。
そしてその奥。その小屋の何百倍の大きさにもなる、雲でできた城。白以外の色は見当たらず、レンガも窓もついていない。ただ作りは一般的な城と変わりはなかった。手前の小屋とは違い、その浮雲城はえらく頑丈そうに見えた。
「絵本の中にいるみたいです」
シェイルは、下で起きていること、上で自分がすべきこと、それが一瞬、どうでもよくなってしまった。あまりに白く眩しい景色に、鳥肌が立って、武者震いがした。伝説とされていたものが今、目の前にある。どこの本にも記述のない情報が、ここに浮かんでいる。
そう、好奇心が根底にある限り、こういうことが起こりうる。他など意に介さない。
英雄には程遠い。
「そうだな。そんで、気づいたことがあるから簡潔に言おう。この雲が、この都にとどまっている理由。ここから見て雲島の右側と左側を見てくれ。やれやれ、こんな単純な仕掛けだとはね」
シェイルは雲島の両端に目を凝らす。そこには、大きな送風機?のようなものが。
「風に飛ばされないためには、そう、風に左右されないほどの風を人の手で起こせばいい。あの送風機が同じだけ、もしくは風向きに応じた風量を調節し島の外側に送ることで、動かぬ雲にしている。単純とは言ったが、すごい技術だ、で、ムカつくのは、その風量調節に一役買ってるのが
この都の地下で採れる水晶ってわけ」
クウォーツ時計。水晶の振動子を用いた時計で、ごく最近の発明だ。シェイルはいつかよんだ新聞の内容を思い出す。その仕組みを利用して、正確な調節をしているということか。この都だからこそできたことなのだろう。ユラは、偶然の皮肉に少なからず怒りを抱いた。
「こりゃあ、一杯食わせないと気が済まないね。さ、着陸だ」
いつの間にか操作に慣れていたユラは、飛空艇の並んでいるところに同じように停めた。
「シェイルくん、僕に合わせて」
戦闘中に一隻引き返してくる船があれば、目立たないわけがない。すぐに見張りの兵士が駆け寄る。
「どうした?負傷者か?」
「いや、伝令だ!町長が王に大至急伝えねばならぬことがあると!」
「そこをあけてくれ!機密事項なのだ!」
「お、おうそうか!急ぎたまえ!」
二人はそうしてなんとかやり過ごした。シェイルはユラの“寸劇”にずいぶん慣れてきたようで、アドリブもお手のものになってきた。
しかしまだ幕は下りない。見せ場はここから。
二人は水でできた綿のような、はたまた雨に濡れた羊の毛のような、そんな心地の雲を踏み、城を目指す。と、ユラが立ち止まり、シェイルに笑いかける。
シェイルはこの主演の癖を理解し始めていた。この笑みは、
「なにかよからぬことを考えていますね?」
「失礼だな。奴らをぎゃふんと言わせるための策さ。手分けをしよう、黄昏商見習いのシェイルくん」
「雇用被雇用の関係を明らかにしたからってなんでもいうこと聞くわけじゃないですよ」
「まあそういわずにさ。どっちかってと僕の任務の方が難易度は高いんだ」
「…それで?」
「僕が城内で騒ぎを起こす。雲島中の兵士を城に集める。その隙に、君はここから近い島の右の送風機をぶっ壊してほしい。双方のバランスでうまくとどまってるんだろうから、片方を止めればきっとこの雲はどっかに飛んでいくだろうよ」
「ふーむ、わかりました」
「おお、なんだか呑み込みが早いね」
「“どうせ”は冒険の始まりなんでしょう。どうせ時間はないし、どうせそれ以外方法も思いつかなそうだ。んならやりましょう。ただし!」
シェイルは人差し指を立てる。ユラはそれを見つめる。
「無理はしないでくださいね。幸運を、祈ります」
「そか。了解した。君もだぞ。左側の送風機で合流しよう」
そう言ってユラとシェイルは一時の別れを告げた。ユラさんって案外目立ちたがりなのかもしれないと、シェイルは心の中で考えていた。
―――
ユラさんが送風機を止めてほしい、ではなく、壊してほしいと言ったのは、機械的な停止ではすぐに復旧してしまうからだろう。この都ではないところに飛んでいく、というのに意味があるのだろうから。雲島もきっと、それを望んでいるはずだ。雲は自由であるべきだ。
シェイルはそう思いながらも、自分の背丈の何倍はあろうかという送風機をどう壊せばいいのか、模索していた。
「なにか硬いものを放り込むか?確かに難易度は向こうの方が高いとはいえ、こっちはこっちで難題だなあ…」
そうこう嘆いているうちに、シェイルは送風機の前にたどり着いた。一旦物陰から様子をうかがう。やはり、大きい。剣の一本や二本突っ込んだところではじかれて終わりな気がした。正確な動作は水晶のおかげとして、この大掛かりな装置の動力源は何なのか、全くわからない。
兵士が三人と送風機の担当をする科学者?のような人が二人。計五人。ユラさんが騒ぎを起こしているので手薄になっているとはいえ、全員相手にするのは無理がある。しかし、それ以外に方法が…?
「頭を働かせるんだ、シェイルよ…目に入る情報すべてをかみ砕け。成功につなげるのだ…」
任務遂行のための視力検査。目はいい方だ。
シェイルは、送風機につながっている太い管のようなものに目を付けた。管をたどると、その先にはかまどのようなものが。あれが、動力源か?かまどの近くには、水晶が積まれていた。また見た事のない種類の水晶だ。黄色く発色しているように見える。
動力源が、あのかまどとして、燃料が、あの水晶だとしたら、一つ案がある。
かまどの火が強すぎれば、中身は焦げてしまうだろう?
シェイルは立ち上がる。ツルハシを持つ。
偉大なる革命家に倣おう。
そして次の瞬間には、
「私は革命家、シェラルドだ。」
かまどに向かって走り始めていた。
「おう、何の用だ小僧」
兵士が気づき、剣を抜く。格好は軍服なので、対応は警戒にとどまっているようだ。
警戒が攻撃に変わる前に、シェイルはかまどのそばに行き、
かまどのそばの水晶を、あるだけかまどの中に放り込んだ。
「貴様何をしている!」
「私は革命家。この街の階層構造を、壊しに来た!」
「何をしてる!そいつを早くとめんか!」
科学者の焦り。思った通りだ。近づく兵士を阻止する方法はただ一つ。
シェイルは放り込むのを一旦やめ、ポケットから水晶を取り出し、地面に置き、
持っていたツルハシで粉々に砕いた。
「何だと!おい!お前ら口を布で覆え!」
とっさに軍服をつかんで口元に持っていく兵士。慌てて遠ざかる科学者。だれも、シェイルに近づくことなどできはしなかった。
「お前らが、さんざん差別し、迫害してきた病の元凶が今ここにある。そら近づけねえだろな。なんてったって、これを避けるために、ここに移り住んだのだろうから。」
シェイルは、すでに病に対する恐怖などなかった。あんなもの
体がちょっとゴージャスになるだけだ。
最後の水晶をかまどに入れ終わった。送風機のプロペラは顕著に回転が増加している。
「それでは、浮足立ってるお前たちに告ぐ」
プロペラは計画通り、限界を迎えているようだった。
シェイルはうろたえる兵士に背を向け、歩き出す。
「地に足付けな」
革命家の少年は無事、任務を遂行した。
―――
そのころユラは、あろうことか、王様の御前で商品を並べ、実演販売を行っていた。
「さあさ!おつぎに取り出しましたのは世界七大奇石の一つ、『一匹兎の瞳』でございます!おっと、本物の目玉ではもちろんございません。この宝石、このどこまでも深く続く赤もさることながら、奇石と呼ばれる所以はこの材質にございます」
王様も兵士も、ユラの話を真剣に聞いている。先程まで変装した侵入者だったはずなのに、一体どういう手を使ったのか、島中の兵士が、雲間の出店に釘付けになっていた。
「手を離しますよ、よおくご覧ください」
「おお!なんじゃこれは!」
ユラが手を離したビー玉サイズの宝石は、手の上でぷかぷかと浮かんでいた。
「これは手品ではありません。この宝石はありとあらゆる物質に反発する性質を持っているのです。そのため細かい加工は困難を極めると言われており、同時に奇石の理由でもあります。名前の由来でもある何にも寄り添わない孤高の姿!ひとつ、王のコレクションに加えてみてはいかかでしょう?」
「すばらしい!鉱石の都である我が国でもこんなものは出土したことがない!」
「…さて、そろそろかな」
ユラは王様が手を伸ばしたその宝石をポケットにしまい込んだ。ポケットは不自然に膨らむ。
「確かにこの宝石は貴重ですが、それよりももっと綺麗なものがあるのです。王様、あなたはそれを、一体何年その目で見ていないのでしょうか」
「何を言っているのだ?早くさっきの宝石をださんか!」
「この雲は、もうじき自由になる。どうか、二度とこの雲の自由を奪わないでくれ。地下に住む人々の自由を奪わないでくれ。心からの願いだ」
「なにをいって、
どん!がらがら。
何かが爆発し、砕ける音がした。それは、シェイルの向かった方向からだった。雲島は大きく揺れ動き、軽い地震が起きる。
「わかりやすい合図だ。それでは王様。僕はここいらでお暇させていただきますよ」
「こら、ま、待て!」
そう言ってユラは地震をもろともせず、兵士の間を縫い、合流場所へと向かった。
足音のしない、白く長い渡り廊下。隙間から入る太陽光が反射を繰り返し、城内の灯りの代わりとなる。この壁のかけら一つ、高値で売れるのだろうなと考えながらも、ユラはその足を止めなかった。悪を追い立てるためではない。正義に追われているからでもない。
彼が待っている。
「ユラさん!こっち!」
少年は、当たり前のように難題をこなし、城の外で待っていた。
「君はすごいよ。ほんとに」
シェイルのそばに駆け寄り、任務の成功を祝して、ハイタッチをした。
「それで、ここからはどうするんです?」
「もう一方も壊すよ。壊す算段はついてる。飛空艇に乗って!」
「え?あのプロペラは水晶が動力源になっていてですね…」
「いいからいいから!」
せかされるまま、飛空艇にのったシェイル。操縦士はもちろんユラ。
後ろから追手が来ていたが、間一髪のところで上昇した。
「それで!どう壊すんですか!」
「僕のバッグに入ってる壺をとって!それを投げ入れる!その壺頑丈だから!」
「え!でも中身は劇薬でしょう!下の人たちにかか、
ああ、
そういうことですか」
繋がった。点が線となった。
ユラさんがしたかったのはさっきまでのことじゃない。
このための前座だったんだ。
シェイルはバッグから壺を取り出す。
両手で抱える。少しフラつくが頑張って耐える。
「今だ!」
ユラの合図と同時に、シェイルは壺を落とす。落とされた壺はうまく落下し、送風機のプロペラに衝突した。
プロペラを破壊するには全部の羽根を破壊する必要はない。全部の羽根が揃っている状態で初めてバランスをもって回転するため、一枚でも欠けてしまえば作動しない。満開を終え散ってゆく花のように、バラバラと散ってゆくプロペラ。そして、爆散する『酒断酒』。
それは霧状になり、地上に降り注ぐだろう。
え、みんな酔っぱらうなら暴動は終わらないじゃないかって?
ご安心を。
ユラは『酒断酒』が地上に降り注ぐ前に下へ飛んでいき、リコンの居る三階建ての館付近で、こう叫んだ。
「みんなあああ!!マスクをつけろおお!」
リコンは理解した。ユートはきっと決定的な偉業を成し遂げ、ここに戻ってきたのだと。そしてこの伝令にも、何かわけがあるのだと。
「おいみんな!マスクをつけろ!俺らは全員持っているはずだ!後ろの奴ら全員に伝えろ!」
リコンは伝令をリレーした。次々にマスクをつける人々。
マスクは、彼らにとって戦化粧のようなものであった。仕事の時にはいつもつけていたため、この暴動を起こすときも最初は全員付けていた。しかし、やはり呼吸はつらくなる。だからみんな外していた。
マスクを持っているのは、地下で働いていたものだけ。そう、この『酒断酒』の雨が降り注げば、労働者以外の都の人間全員が、
酔っ払いと化すのだ。
「勝利の酒を飲むのが敵なんてのはおかしな話だが、まあ戦いの後にたらふく飲めばいいさ。おっと、イルくんは未成年だから飲んじゃだめだぞ~」
「飲みませんしその呼び方やめてください」
最後に、ユラは地上に手を振って、
「それでは!さらばだ諸君!!君たちは今!
輝いているぞ!」
大界で最も眩しい都市に、別れを告げた。
その勝利の飛空艇は、
行き先不明の難破船。
―――
数日後、層都カトロアの王座は陥落した。次代の長には、リコンが選ばれたという。浮雲からの行軍という馬鹿げた目撃情報が多発し、捕まった白服の兵士も二日酔いのような症状に悩まさされながら浮雲城について証言したが、肝心の雲島がどこにも見当たらなかったため、調査の余地が残された。革命の指導者とされるユートとその助手シェラルドは、暴動が終わったころにはどこにもいなかったため、周辺地域を捜索中とのこと。
話は戻って、都を離れた直後のユラとシェイル。
彼らは、空の旅を楽しんでいた。
「いやーあのあと都がどうなったのかが気になるところだが、きっと笑えただろうなあ」
「まあそれも気になりますが、どうするんですか、商売道具が載ってるあの馬車は」
「ああ、それは心配いらないよ」
「?」
「それより、指名手配の意味でも、革命人の意味でも、あそこから遠く離れたところに逃げるのが得策だね。どこにいこうか」
「…そうですねえ、この飛空艇の燃料がどれくらい持つかわかりませんが、“緑都”とか、方角的にちょうどいいんじゃないですかね?」
夕焼けに、ユラのこめかみの水晶がだいだいに照らされる。
シェイルも左肩に水晶が生えたのだが、それに気づくのは数日後。
少し考えた末に、ユラは結論を出した。
「いいね、そうしよう。人里離れてるし。次の目的地は、緑都サーナだ」
森に囲まれた隠れた都、緑都サーナ。
ドレスコードは大きなローブ。
言わずと知れた、魔法の都だ。