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不可能世界と黄昏商  作者: ざらめ
第一章 醜い王子はもう泣かない
13/20

第13話 それは枯れたラベンダー

自由で奇妙な旅を、私の想像力が許す限り書きたいと思います。旅好き、魔法好き、冒険好きは是非、読んでいってください。

…そしてフィナーレを飾る最終日!

中央の噴水広場にて、最後の大イベントが行われます!毎年違いますゆえ、内容は予測不可能!

何があるか気になるって?

それは、見てのお楽しみでございますぅ。


―「ズンデルト花祭りのしおり」



―――

本日は快晴なり。

最終日ということもあって、中央の噴水広場には多くの人が詰め寄っている。

はしゃぐ若者の声、屋台から香るバターの香り、喧嘩騒ぎ、音楽隊の最終調整、風車をもって走る子供。

文字通り、華やかな花の祭典。

終わりがあるのは虚しいが、それ故にこの日だけはと、笑顔が街を埋め尽くす。

歓声は、市長の登壇とともに徐々に薄れていった。

白のスーツを身にまとった市長は、広場が自分に注目するまで、身だしなみを改めて見直していた。ネクタイをきゅっと締め、広場の指揮者は彼となる。大きく息を吸い、第一声を広場に轟かせようとした、次の瞬間、


ばん!


おもちゃの音ではない、クラッカーの音でもない、明らかに重火器の発する撃鉄の響きが、一瞬にして広場を占領した。

音の先は、舞台の後ろの家の屋根。

そこには、七色の衣装を身にまとった十人ほどの集団が、危なげな鉄の塊を肩に乗せ立っていた。背中には、さながらサンタのような白い大袋を背負っている。顔を覆うように全員が布を被っていたため顔判別できなかったが、中には()()()()()()()()()()()()()。非常事態にすぐさま警備隊が駆け付け、臨戦態勢に入る。

先陣を切ったのは市長。言葉の銃口を向ける。


「君たち、何をしている!崇高な祭の邪魔をするとは、何が目的だ!」


中央の長身の女が一歩前に進み、その銃弾を真っ向から受ける。


「私たちは、この都の悪しき風習を変えに来たテロリスト。望まぬ死を遂げた花たちの弔いと、これからの花たちの償いに来た」


市長は一瞬たじろいた。

ここに立っている理由。

ここに立っている()()の理由。

彼女の言葉が心をかすめ、治りづらい傷を残す。

だが、もう振り向けない。


「どこの誰だか知らないが!邪魔を続けるなら全力で排除するぞ!」


中央の女は、被った布の中で皮肉な笑顔を浮かべた。

市長に、今度は本物の銃口を向け、誰にも聞こえない声で嘆く。


「全く、ワタシの声まで忘れちまうなんて、

病的に、どうしようもない野郎()()


黄色の装束を着た女のか細い指は、何の躊躇いもなく引き金を引いた。


ばん!


市長は胸に弾を受け、舞台の上で倒れこむ。

平和ボケした警備隊。慌てて市長に駆け寄った。

白いスーツは、

想像に難くなく、


「…え?」


()()()()に染まっていた。


―――

「おいおい、一応言っておくがこれは夢の中じゃないぜ?お目覚めでないようなら水でもぶっかけてやるし、ビンタもしてやるし、コマも回すよ」

「私は現にいますとも。私が本当は蝶だとしたら話は別ですがね」


困惑の主に諭されたエルコは、半分呆れて彼に舵取りを任せることにした。


「花の墓場に、祭りのまだ途中だというのに、花が大量に捨てられていましたね。枯れたものやまだ蕾ののもの、時期が合わないといって満開の状態で捨てられているものもありました。私は、これが何かに使えないかと思ったのです」

「…ほう」

「祭りの今の時期、ズンデルトの人々は全員白い服を着ています。街は綺麗に清掃され、家の壁も真っ白ときた。これって、あれみたいですよね?」


視線を投げられたエルコは考える。

たどり着いた一つの回答。


「キャンバス、か?」

「ご名答!89点です!」

「何点満点だ?」

「89点です」

「そりゃあ光栄だぜ」


エルコは、この少年の、場を自分のものにしてしまう力に気づいた。ユラも同じ能力に長けているので修行の成果かとも思ったが、生まれ持った素質かもしれないと考えると末恐ろしかった。


「絵をかくのに、額縁は木製である必要はありません。それでいうならキャンバスは白である必要もないですが。とにもかくにも、今私たちには大きな大きなキャンバスと、それを彩る絵具がご丁寧に用意されているわけです」

「なるほど、テロリストってのが読めてきたね」


さすがのユラも頭が冴えてきたようで、ソファーに座り脚を組んで、面白いことが始まる予感を感じ取っていた。


「あとは筆ですが。

暴力には徹しないとエルコさんは言ってましたが、自衛用の重火器ぐらいいくつかあるはずです。てかこの部屋の前にありましたよね。それを、明日までに改造します!」

「君にそんな技術が?」

「ないです!ユラさんとエルコさんがいればどうにかなるかと!」

「清々しいほどの他力本願だぜ…」

「大信頼とも取れるだろう?ここはひとつ協力しようエルコ。

葉や花から抽出した色素を柔らかい材質のものに包んで発射って感じのイメージだろ?カラーボールってのはどっかで聞いたことあるけど、あんな感じかな。そうすると弾丸が破けないように撃鉄とか弾薬も加減しないといけないし…」

「ちょっとちょっと。

阿吽の呼吸やめてくれないか?ついていけないし羨ましいし妬ましいしで悩ましいぜ…」

「「あーそかそか」」


返答の言葉とタイミングが一緒だったのが、余計にエルコを悩ませたのは言うまでもない。


「暴力には訴えない、しかし心に訴えかける唯一の方法はこれしかないと思います。

鮮やかな花たちが塗りたくられるところを見れば、何かが足りないと腕を組む批評家さんたちも心を動かしてくれることでしょう!華都の人々は伝統に侵されているだけだ。性根までは腐っちゃいないはず。私はその良心の花を咲かせたい!

明日の、フィナーレの朝決行しましょう!私たちは世の為人の為花の為に、美しきテロリストになるのです!」


いつからこんな謳い文句がうまくなったのかとユラはため息をついた。おおよそつい最近まで廃れた都の機織りだったとは思えない。経歴を疑いたくなるほどの大胆さとアイデア力。


―彼が苗字を隠す理由に通ずるのだろうか。―


こんな邪推をしてしまうほどだった。

ずっと気になってはいるが。

自分も色々隠している以上、簡単には聞き出せなかった。


作戦に関しては、その場の誰も、反対をするものはいなかった。

むしろ賛成、全会一致。

しかし、時間は限られ、決して楽な作戦ではない。

夢想に心躍らせても、とらぬ狸のなんとやらだ。


「ということで、腐都中から花をかき集めましょう!この都の人々にも手伝ってもらいましょう!

枯れた花や草も使います。絵具だけがキャンバスを彩るなんてのはナンセンスです。あの褪せた茶色も魅力のひとつ!」

「はいはい芸術家さんよ。力仕事は任せな」


茶色の軍服の兄弟は、無茶ぶりには慣れている様子だった。普段からエルコの突拍子もない注文に東奔西走しているのだろう。


「君の案通り、僕たちは重火器を改造しよう。なに、似たようなものを作ったことがるから少しはわかるさ、おもちゃだけどね」

「ワタシもだ。面白いもん作るのは大好きだぜ」


商人二人も乗り気だった。

シェイルは準備の総指揮を任され、張り切って腐都中を走り回っていた。


――

暮れ方。

一番星は騒ぎを聞きつけた野次馬の如く。


シェイルはある頼み事をしに、エルコの家に戻ってきた。

部屋ではエルコが野暮ったいゴーグルをつけ、重火器の溶接工事を行っていた。ユラはその横で、弾丸の制作に力を入れていた。


「エルコさん、二つほど頼みがあるんですが」

「二つか。欲張りさんは好きだぜ。で、どした?」

「一つ目。当日の指揮はエルコさんがとって欲しいんです。

私は動くことの計画は得意ですが、実際に動くのはそうでもないので…腐都の長という意味でも、キャプテンはエルコさんがいいかと」

「賛成だね。僕もあんたがやるべきだと思うよ」


エルコはゴーグルを外し、


「そうか、そうだな、よし!任されたぜ!」


首を縦に振った。


「ありがとうございます。

で、もう一つなんですが、

明日描く絵の鑑賞者に最も相応しい人物を、特等席に招待しようかと思いまして」

「ん、招待?」

「そうです。まあおそらく自ら赴くと思いますが。芸術には見る者が必要です。商人に顧客が必要なのと同じように。光と影、月と太陽、チーズケーキにブルーベリーソース…」

「明らかに最後のは違うだろ。ついでに言っておくとワタシはイチゴソース派だぜ。もったいぶらないでくれ少年。大体予想はついてるが、

何が言いたい?」

「へへ、すみません。二つ目のお願いは……


―――

場面は戻って大広場。

想像通りの大惨事。

向けられるは銃口。放たれるは弾丸。

彼らの服は、壁は、街は、

優しく塗りつぶされる。

花の種類だけ、違う銃弾があり、違う思いが乗せられている。

弾丸だけではない。枯れた花や草が、背負った白い大袋から解き放たれる。目も眩むほどの量を用意したのだ。広場はすぐに、足の踏み場を失った。

逃げ惑う民衆、はしゃぐ若者、それを楽しむ子供。感情ごちゃまぜのサラダ状態。しかしぽつぽつと、歩みを止め、壁や服をじっと眺める人が出てきていた。

いや、鑑賞する人というべきだろうか。

広場にはそういう、魅せられた人たちだけが残り、

閑散が出来上がろうとしていた。

そして、

騒ぎの中、

誰にもしられず、広場に駆け付けた者がいた。


「…ス!どこだい!」


何を感じ取ったのか、何に呼ばれたのか、

吸い込まれるように広場にたどり着いた彼女は、

じっと白黒の惨状を眺めていた。


そこへ。

彼女を探す者より先に、彼女と邂逅したのは、

奇妙な装束を着た、二人のテロリスト。


「きっと来ると思っていたよ」

「お兄ちゃん、昨日の?」

「人違いじゃないかな」

「そう、」

「ねえ、お嬢ちゃん」

「ん?」

「上を向いて、目を大きく開けてごらん」

「うん」




「お探しのものは、これでしたか?」




―「二つ目のお願いは、

あの少女に、イリスちゃんに、

私たちが描いた絵を、どうか見せてあげて下さい」―



ぽたん。ぽたん。

小さなガラスの瓶から落ちた二粒の雫が、

少女の二つの目に落ちる。



―『ノミキノミ』と呼ばれる実の果汁をろ過したものを絶妙に配合することで、『素澄涙(スパロア)』と呼ばれる不思議な目薬になるんです―

―その目薬には“しばらくの間だけ、色の盲目から自由にする”効能があるらしい―



その雫は、少し沁みながら、少女の目を潤した。

瞼をゆっくり開けると、そこには、



色の叫ぶ世界が広がっていた。


力強くあったかい色。弱々しく悲しい色。

森の心地よさを感じる色。帰り道の寂しさの色。

太陽のまぶしさの色。夜の怖さを教えてくれる色。

人の二の腕の色。生まれたての赤ちゃんの色。

時計の針の色。瞳の色。晴れの日の色。

もぎたての果物の色。土のにおいがする色。

お祭りの色。おなかがすく色。胸が高鳴る色。


今まで見えていて、見えなかった、その名も知れぬ色たちがひしめきあっている。

花畑や、祭りで見た花たちとは違う表情。


「笑ってる」


まるで時が止まったように、その色たちは激情を瞳にたたきつける。気づいた頃には、二人のテロリストはもういなかった。



少女は、膝から崩れ落ち、

泣き出してしまった。


「大丈夫か!」


少女に駆け寄るのは、

息を切らす、全身が彩られた市長。


「どこかケガしたかい?」

「…きれい」

「…きれい?」


「お花さんたちが楽しそうで、とってもきれいなんだもの」


その少女は大粒の涙を流しながら、

笑っていた。

嬉し涙だった。

その瞳には、見覚えがあった。

昔どこかで、見覚えが、


―ああ。そうか。

昔、ボクの愛したものだ。

いや、

今も愛すべきもののはずだ。―


沢山のことに気づいた。悟った。

市長は少女の頭を軽く撫で、立ち上がる。

何かに気づき始めた民衆は、大広場へ戻り始めていた。

それをかき分けステージに上がり、


「君たち!全員で私を撃て!」


テロリストに、一斉射撃を要求した。

言葉の意図を理解したテロリストたちは、

四方八方から、

弾がなくなるまで市長を撃ち続けた。


だだだだだだだだだだ!


もはや白の部分などとうにないスーツ。

静粛に、などという言葉はいらなかった。

その様だけで、多くの人間が理解を示した。

最後の一発まで撃ちきると、広場は静まり返っていた。

少し強い風の音と、噴水の音が、かろうじて聞こえていた。

市長は叫ぶ。


「そこにいた、泣いていた少女に、ボクは話しかけた!

その少女は答えた!

花が楽しそうだから!とってもきれいだから!

だから泣いていると!

少女は、先ほどまで色が見えない目をしていた!

その少女が美しいと言ったのは!

綺麗に揃えられた花畑ではなく、花で作られたオブジェでもない!

花びらの散った花だ!蕾だ!枯草だ!

私たちは、はき違えているのだ!

美しい花とは何かを!

花の一生とは何かを!

薄々わかっていたはずだ!

賑わいに溺れ!栄成に毒され!

散っていった人の心!

この少女が!

証明してくれた!

そして機会を作ってくれた!

これを無駄にしては!

この先ずっと機を逃す!

今こそ!

和解のときだ!

変えていこう!少しずつ!」


そこへ、

遅く、歓迎されぬ登場。

本物の弾丸が詰まった重火器を持つ、過激派の一派が広場に到着していた。数十人の集団が銃を構え、市長を狙う。

市長はそれを、じっと睨む。


「やれるものならやってみろ。

前の市長の様にはいかない。

これだけ()()を受けても、私は死ななかったんだから。

もう、やめにしないか」


彼らに向けて発された言葉は、

乾いた土に降り注ぐ雨のよう。

重火器を握る力は抜け、

もう誰も、攻撃の意志を見せる者はいなかった。


「君たち!」


市長は振り向き、屋根の上の()()()()()()に語り掛ける。


「ありがとう!そしてすまない!

不甲斐ないボクだが、もう迷わない!

きっと変えていくと約束する!

そして!」


中央の人物を指さし、


「君には誰よりも迷惑をかけた。

あの時の様にはならない。

だから、ボクを信じてくれないか」


手を伸ばした。

被った黄色の布は取らないまま、

そのアーティストは何かを投げた。

それは花びらと同じ速度で、

市長の足元に落ちた。


「気づくのが遅いんだよ。

全く、どうしようもないやつだぜ。

あんたへの贈り物だ。

好きに解釈すればいいさ。

じゃあな」


それは、枯れたラベンダーだった。

市長は屈んで手に取り、もう一度見上げた。

屋根の上には誰一人としていなかった。

手に残るラベンダーを見て、ふっと笑った。


「叶わない空想をしてしまうよ。

いや、それこそボク次第かもしれない。

あの時と同じように、

もう一度って。」





その後、都がどうなったのか有名な話だが、

ここで全てを語るのは無粋というものだろう。

ただ、このおとぎ話の結末について、これだけは言える。



めでたし、めでたし。



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