表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不可能世界と黄昏商  作者: ざらめ
第一章 醜い王子はもう泣かない
10/20

第10話 慈しみの白い街

自由で奇妙な旅を、私の想像力が許す限り書きたいと思います。旅好き、魔法好き、冒険好きは是非、読んでいってください。


☆お祭りを楽しむコツ☆


お祭りの時、どこから見て回ったらいいか分からない〜と思ったそこのあなた!耳寄りな情報です!

パレードの開会式や閉会式、パレードなどのイベントは全て、ズンデルト街中央の大噴水が中心となって行われます!街道は大噴水地点から放射状に伸びているので、アクセスもバッチリ!集合場所にも最適!

「迷ったら大噴水」と覚えてくださいな!

あ、あとひとつ!









絶対に、絶対に、南の壁には近寄らないでください。


―「ズンデルト花祭りのしおり」



―――

金色に輝く金管楽器が、けたたましいファンファーレを響かせる。隊列を組んだオーケストラは、大噴水の広場の中心で年に一度の喜びを叫ぶ。

広場は手拍子と時偶聞こえる口笛に彩られていた。群衆は今か今かと祭りの始まりを待つ。


「すごい人ですね…」

「ああ。広場とその周辺だけで都の人口はとうに越えているだろうね。なんせ開会式さ」


人混みに紛れる2人。シェイルは手拍子そっちのけで、人生初の祭りの雰囲気を味わっていた。

ズンデルトの花祭りには簡単ながらドレスコードがある。「服は上下白を基調としたものにすること」。

主役は花。それを際立たせるための、言わば都ぐるみの演出故のものだった。

よって、2人は前日に街の服屋で購入した白のスーツを着ていた。

ユラは後ろの髪を低めの位置で団子にしてまとめ、いつもよりスマートな雰囲気を醸し出している。

シェイルはジャストサイズがなかったため少し大きめのサイズを着ている。袖がひらひらとする度に、シェイルは少し不機嫌そうな顔をした。


ザッ。

演奏は指揮者の合図で静止する。余りの緩急に、拍手は一切生まれなかった。一時し、その静けさを打破する足音が一つ。木製の階段を上がり、ステージの上に見えたのは、同じように白の衣装を着た、この都の長だった。


「お祭りのこの時期に、今年もお集まりいただき、誠にありがとうございます。本日は快晴中の快晴!透き通る青は唯一無二のキャンバスにございます」


中年の男だった。歳相応に出た腹と口ひげが印象的だが、純白のハットとその立ち振る舞いは紳士的な印象を見る者に与える。その都長は続ける。


「そこに描かれるのは間違いなく、色鮮やかな花たち!今年も億に近い数の花が、文字通り咲き乱れております。どうぞ、大界一の花の展覧会をお楽しみください!それでは!、ん?」


秘書だろうか。眼鏡をかけ革製の手帳を携えた細身の男が、都長に耳打ちをする。すると都長は少し嫌な顔をして、途切れた話を縫い合わせる。


「えー、最後に一つ。

祭りを楽しむために、南の壁には決して近づかないでください。そして、そのむこうの“腐都”には絶対に入らないでください。それでは、ズンデルトフラワーパレード、開催!!!」


気分を無理やり上げるように手を大きく広げ、フラワーパレードは始まった。




―――

「な、なんだこりゃああ!!」


まずは祭りを楽しもうと、パレードが行われる大通りに出た二人。

そこでシェイルは毎度お馴染みとなってきた雄たけびを上げる。


それは、人の形をした大きな像。

通りに面する三階建ての家と張り合うほどの大きさの像。

踊りを踊る少女を表現した作品で、躍動感が他の作品と一線を画している。目をつむりほほえみを浮かべる麦わら帽子の少女は、今にも動き出しそうだった。

なにより、シェイルはその像の全てが、本当に「花」でできていることに驚いた。流れるような金色の髪から、真っ赤なペンダントまで、あくるまで花であった。


「色だけじゃない。花びらの枚数から茎の性質まで、自然に潜む幾何学模様を見事に使いこなしている。職人のなせる業だね。いやあ素晴らしい。何かインスピレーションを受けそうだ」


ユラは人込みをうまくかわしながら、評論を述べていた。高度に専門的な分野であっても、商人の眼は曇らない。

パレードは、どんちゃん騒ぎというよりは、遊園地のような落ち着いた娯楽の雰囲気を漂わせていた。ルールのコルセットをきつく締めるわけではないが、モラルを上手に着こなす。品のある高揚感に、シェイルは心地よさを感じていた。

そこに水を差す、素朴な疑問。


「ユラさん」

「言いたいことはわかるよ。中途半端な説明はよくないが、もやもやが解消されないのはもっとよくないね。南の壁について、少し話しておこうか」


近くのカフェに入った。レモネードがおいしい店ということで、二人はレモネードを注文した。甘酸っぱい黄色で喉を潤しながら、少しだけ、お祭りに似つかわしくない話をする。


「華都フロウィーラの南の壁。その先には、こことは相反して観光客がめったに近寄らない都がある。

“腐都デクエイ”。最近できた都だから、図書館の本にも『閉本記』にも記述がないはずだ。僕も行ったことがないから実際は知らないが、聞くところによると、華都を光とするなら腐都は“闇”らしい」


話に没頭し、シェイルのレモネードはなかなか減らない。氷はみるみる小さくなり、鮮やかな黄色は薄くなっていく。


「なんでも前は一つの都だったんだけど、ごたごたがあって分裂したとか。あっち側にはこわーいギャングが住んでいるとかいないとか。話に尾ひれがつきまくって、もはや深海魚さ」

「なるほど…歴史はどうあれ、印象を悪くするものは遠ざけなければって感じなんですかね」

「そんなところだろうね。ま、純粋に祭りを楽しむ分には問題ないさ。気分上げていこうぜ」

「…そうですね!さてと、そろそろ今日の露店の準備をしますか!」

「そうだね!忙しくなるぞ~」


切り替えが少し上手になった少年は、氷の完全に溶け切ったレモネードをぐいと流し込んだ。




―――

「…で、どうしてこうなるんですかね!」


少年は夕方、馬車を細工した露店の前で、踊っていた。

…やや飛ばしたページをめくっていこう。

露店の準備をしていた商人は、ふとアイデアが降ってきたらしい。


―緑都で手に入れた魔法草を原料にしたポーションは、動作に反応する性質を持ったものが多い。これを黙って陳列させておいちゃ商品が泣いちゃうね。

かといって毎回瓶を振るのもなんか違うな。

そだ、

うちの従業員にポーションを少しふりかけて躍らせよう!

パレードで見た、麦わらの少女の像のように、ね!―


そして、現在に至る。


「激しい踊りである必要はないよ。我流でいいし、休憩も好きに挟んでおくれ。ただ、踊り続けるんだ!」

「んー私の目指しているものって、商人で合ってる?」


首をかしげながらも、大き目の服で花冠をかぶり踊り続けるシェイル。腕や、足や、頭を振るたびに、光り、音が鳴り、かぐわしい香りが漂った。見世物にしても珍奇が過ぎるその実演販売には、多くの人が詰め寄った。


「これ、光るだけではないのです!まるでランタンのごとく明るいこの草には世にも不思議な性質がございまして…」


ひきつけた人々を、今度はユラががっちりと捕らえる。仕入れた品物は予想をはるかに超えるスピードで売れていった。


―奇妙な出会いは露店の醍醐味だからね。大丈夫、踊り子は君だけじゃないさ―


すっかり暗くなった通りで疲れはてたシェイルを見るユラ。


「いやあ、踊りの才能あるかもね!ずっと見ていたが飽きなかったよ」

「…お褒めに預かり光栄、ですが明日もやるんですか?このきついの」

「ああ、その心配はいらないよ」



次の日。

シェイルはその言葉の意図を理解した。


―まさか、店長直々に表舞台に出るとは―


袖や裾に余裕のある服を着て、花冠を付け踊っているのは、今度はユラだった。

体力がないのはシェイルも知っていたが、踊りとなると別らしい。緩やかに、それでいて決してパターンではない舞を、観衆の前で舞っていた。玄人?本業の人?ユラの腕前はそう疑われてもおかしくない程のものだった。『うたたね』の露店の前は、ある種の催し物の会場となっていた。

コンセプトはしっかりしているが、見せる顔をころころと変える。“裏の顔”を抜きにしてもなんて謎めいたお店なのだろうと、シェイルは楽しそうに踊るユラを眺めて考える。


今日の分はほとんど売れてしまい、逢魔時。お客もほとんど掃けたところでユラがウイニングランよろしく舞っていると、

とことこと、

白いワンピースを着た、麦わらの少女が、ユラに近づいてきた。

その少女は麦わら帽子から顔をのぞかせ、ユラの顔をじっと見つめる。


「ねえ、お兄ちゃん」

「どうしたんだい?もうすぐ夜だよ、お嬢ちゃん。おうちが君を待ってる」

「踊りが上手だね」

「あら、ありがとう。お嬢ちゃんは見る目がある」

「ここは、どんなものを売っているの?」

「不思議なもの。君が、見たことのないようなものさ」

「へー。じゃあ、お兄ちゃん。



わたしに、色をみせてよ」


その少女は、

きれいな金色の髪と、無垢な青い目を持っていた。

胸には赤いペンダント。

既視感は、その寂しい目の中に溶けていく。


「君は…」


「……ス!…イリス!」


遠くから走り寄る、くたびれた声。

声の主は少女に近づき、しゃがみこんで目線を合わせた。


「だめじゃないかはぐれちゃ…夜はおててをつないでおかないと」

「…うん。ごめんなさい」

「すまない…この子がなにか余計なことを言わなかったか?」


お爺さんだった。力ない白髪で、頬は痩せこけている。貧相というよりは、老いを感じる容姿だった。


「いえ、素敵なことを言っていましたよ。

…色がみたいって、ね」


かくんと、そのお爺さんは肩を落とす。


「……どうしようもないことなんだ、きっと」


少女を抱きよせ、老翁は呟いた。

暗くてわからないが、悲しい顔をしていることだけはわかる、そんな声だった。


「余計なお世話覚悟ですが、

詳しく聞きたい。

そしてあわよくば、叶えてあげたい。

小さなお客様の、お願いを」


一度目を見ただけ。

一度呟きを聞いただけだった。

何も知らない。何をしてあげられるかもわからない。

それなのに。


―全く。うちの店長ときたら。

あ、そういうとこに、私も惹かれたんだっけ―


シェイルは、予想通りの返答にため息を漏らす。

お爺さんは、希望を捨てきれない諦観の目で、ユラを見てこう言った。


「…イリスはね、色盲なんだ。

七色のお花畑も、白黒に見えるんだよ」




―――

またまた知らない屋根の下の夜。

シャンデリアの別荘と家の作りはほとんど同じだが、家具の年季が明らかに違っていた。

机の白のペンキは剥がれ、本来の木材の姿が見え隠れしている。扉のノブは錆び、開閉のたびに弱々しい金属の音がした。

ひときわ目についたのは窓の外。全方向ガラス張りのサンガーデンだった。茶色の鉢の中にはよく手入れのされた花や草が植わっている。天井からぶら下がるランタンだけが、哀愁の腰掛けるロッキングチェアをやさしく照らしていた。

それを横目に、シェイルとユラはお爺さんの淹れたコーヒーを飲んでいた。


「もうイリスは眠ったようだ。待たせたな」


暖炉の近くの椅子にに老翁は座り、マグカップを両手で握った。


「俺はノーク。もちろんこの子のお父さんではない。かといってお爺さんでもないんだ。端的に言うと、この子の父親から預かってほしいと言われてね。一緒に生活をしてる」

「なるほど。その父親とはどういったご関係で?」

「まあ年の離れた友人ってところさ」

「ふむふむ…そして本題ですが、」

「突然の甘い勧誘に希望を抱いて、その余熱で俺の家まで来てもらってしまった。わざわざ申し訳ない」

「とんでもないですよ」

「…先天性の全色盲でね。あの子は生まれてこの方、この美しい都の花の色を見たことがないんだ。学校にも行っていたんだが、それが理由で一人ぼっちになって、今じゃ校門をくぐることもなくふさぎ込んでしまってる」

「…そうですか」


コーヒーからは、まだかすかに湯気が立ち込めている。シェイルは砂糖とミルクをふんだんに入れたそれを、話を聞きながらちまちまと飲んでいた。


「単刀直入にお願いをする。この先短い老人の、きっと最後の願いだ。どうか、あの子に一度でいいから、色鮮やかな花たちを見せてやってくれないか!

金なら出せるだけだそう!

決して大きくはないがうちの自慢の花畑も手放したって良い!

だから、どうか、どうか」


熱を帯びた拳は、テーブルを揺らす。三つの黒い水面は同じ方向に波打った。

激しく頭を下げるノークに、ユラはそっと手を差し伸べた。


「頭を上げてくださいな。お気持ちはよくわかりました。

結論から言いますと、微々たる可能性ですが、

できないことはないですよ」

「本当ですか!」

「私が商品にしている小瓶の中に、『涙紅(ルイコウ)』というものがありましてね。それだけだとただの目薬なんですが、『ノミキノミ』と呼ばれる実の果汁をろ過したものを絶妙に配合することで、『素澄涙(スパロア)』と呼ばれる不思議な目薬になるんです。まあここら辺は専門的な話ですが、簡潔に言うと、その目薬には“しばらくの間だけ、色の盲目から自由にする”効能があるらしい」

「『ノミキノミ』…見たことも聞いたこともないな。どこに行けば手に入るんだ?」

「それが問題なんです。ノミキの木自体幻といわれるほど珍しい木で、それの実となるともっと希少だ。ここの気候帯での目撃情報はゼロに等しい」

「それじゃあやっぱり…」

「だからこそ、コレクターや珍し物好きの商人に愛されているんです。もしかしたらが、あるかもしれない。この都の近くに、商人や、コレクターの知り合いはいませんか?」

「んーぱっとは思いつかないが、いや、一人いる。だが…」

「だが?」

「やめておいたほうがいい」


一進一退の希望。かろうじて視認できる細い糸を手繰り寄せるように、しかし決してちぎれないように、ノークとユラは言葉を交わす。


「知り合いではない。だが根っからのコレクターで、色んな地方のこれまた様々なものを蒐集しているとか。だがその所在が、

腐都なんだよ。

それも都のドンときてる」


耳を傾けていたシェイルはドキッとする。

腐都。ここと相反する闇の都。そこのドンということは、、想像するに軽い恐怖を覚えた。


「名前はわかりますか?」

「エルコ。そう聞いてる。それ以上の情報はない。

そして、俺は君たちをそこまで危険にさらすつもりはない。

やめておきなさい」

「…その情報を僕たちに伝える必要はなかったでしょうに」

「そ、それは…」

「わかっていますよ。良心と渇望の瀬戸際なんです。

それ以上、葛藤しないでください。

苦しまないでください」


動揺するノークを落ち着かせるユラ。

夜に似た暗い液体は、とうに冷めてしまっていた。


「こう見えても、僕は強い。そして僕の部下であるこの少年は、それはそれはとてつもなく強い!」

「はあ!?」


突然の誇張表現に、シェイルは椅子から落ちそうになる。


「またまたご謙遜を!ということですノークさん。心配はいりません。代金は、商品をご用意できた際に代引きということにいたしましょう」

「い、いいのですか、本当に」

「『うたたね』はお客様の笑顔第一!お任せください!」


そう言って胸を張るユラ。

涙を流さんとばかりに喜ぶノーク。

唖然とするシェイル。

しかし、雇用主への信頼は言いようのない安心感を産んだ。

なんとなく、シェイルにはわかっていた。



ぱたん。

少女の夢の邪魔をしないよう、小さく玄関の扉を閉めた。腐都へ行く準備をするため、別荘に戻る二人。


「で?今回はどんな秘策があるんです?」


ユラは誇張はするが、できない約束はしないことを、シェイルは知っていた。層都で身をもって、風を切って知っていた。

夜の街、活気の薄れた路地で、にやりと笑いユラは返す。


「秘策というより、思い当たる節があってね。

エルコ。僕の認識が間違っていなければ、知っている名だ。

エルコは偽名。本名はエルス=ノーマ。

“元”黄昏商で、今や悪名高き闇の売人さ。

一応知人でもある」

「なあるほど」

「…驚かないんだね。やるじゃないの。

ま、続きはおはようの後にしよう!まずはおやすみなさいだ」


シェイルとユラは力強く、それでいて軽やかな足取りで歩く。

少女の願いは老翁の願いとなり、商人の決意となった。

真っ黒の花畑を見て、少女の見る世界を思う少年は、

“とてつもなく強い”という冗談を真にしたいと少しだけ思った。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ