第五話 超過密集合室の蜜な話
地獄ですか?ここは。
超過密どころではありません。
まあまあ広い執務室ぎっしりに兵士が詰め込まれております。
わたくしが通る一本道より外側には一歩も踏み出せそうにありません。
そのぐらい詰まってます。
警備が厳重とはいえ、些か、とち狂ってますわ。
「お、やっと来ましたかリネア嬢」
爽やかなベビーフェイスであらせられる新王様です。
顔だけは爽やかです。
「お待たせしてしまい申し訳ありませんわ」
わたくしは礼を尽くした挨拶をしたのですが、新王はえらくご機嫌ナナメ。
あークソかったるい。
帰りてぇ。
なんなんですのこの男は。
「リネア嬢。今日呼ばれた理由についてわかりますか?」
「皆目見当もつきませんわ」
「そうですか。全知全能である、あなたが」
「ええ、全くもって」
「国家転覆。クロムがそう言いました」
おお、なんと気迫のある顔でしょうか。
今すぐ貴様を噛み殺してやろうかとでも言いたげな表情です。
「わたくしは生まれてこの方、生涯、国王様に忠誠を誓う身でありますれば、決してそのような愚挙は致しませんことよ」
「では、クロムにしている仕打ちについては?」
「あれは…」
なんと言いましょうね。
マズイですわ。
あの野郎、ここまで話していたなんて。
つくづく頭にくる駄犬ですこと。
「あれは…クロム王子が先に手を出してきたのです…」
「何…?」
新王が下を向きながらペンをへし折りました。
激おこですわ。
わたくしが言い逃れをしようとしていると思っているのでしょう。
狙い通りもいいところです。
「昨晩。わたくしはクロム王子に夜這いされました」
くたばれクロムッ!
などと思いつつ、虚偽を供述。
驚いたろ?なあ?
こんな話をされたら、誰だって頭空っぽになるよなぁ?
何とか言えよ新王様ァ!
「なっ…!?そ…それは本当か!?」
新王は焦りに焦った様子で立ち上がりました。
そりゃそうですわ。
古くからこの国を支えるクレイアル公爵家、その令嬢であるわたくしが襲われたんですもの。
嘘ですけど。
動揺をかけるならこのくらいしないと。
新王は異常発汗、わたくしは気分上々。
どんどん演技に磨きをかけていきましょう。
「はい…それはもう毎晩のように…」
「毎晩!?」
「昨日なんか何回戦まで付き合わされたことやら…」
「いや…!ク…クロムに限ってそんな…」
「酷いです…あんまりです…」
ここでわたくしは泣き崩れる演技をしました。
新王は発狂しながら机に頭を打ち付けています。
チラッと兵士達の顔色も伺ってみました。
あらあら、皆さん。揃いも揃って殺気立っておりますわねぇ。
頼もしいですわ。
「このままでは…きっとわたくしは壊れてしまいます…」
「あ…ああ…」
新王に向けられる視線は刃より鋭く、闇よりも黒い物。
へいへーい。
同調圧力!同調圧力!
「国王様!リネア様にあらぬ疑いをかける前に、まずはクロム王子を罰するべきでは!?」
「我々からも失礼ながら申し上げまする!クロム王子は以前からリネア様を邪な目で見ておりました!ここに居る第三部隊全員が目撃しております!」
「なんなら下着も盗んでいたぞ!」
「何!?それはいかん!いかんぞ!」
「あ、僕定時なんで帰ります」
和気あいあいとしていて感心感心。
一人だけ帰った奴いますね。
後で調べ上げてクビにしましょう。
これだけ大勢の人が束になってクロムを袋叩きにしているのですから、流石に新王様もわかってくれるでしょう。
わたくしは無実だと。
「リネア嬢!すまなかった!」
新王様が誠心誠意の土下座をしてくれました。
可愛らしいウサギが震えているようです。
「国王様。顔をあげてください」
「いや…しかし!」
「此度をもって終わるのであれば、わたくしはそれで十分救われますわ」
クロムはぶち殺しますわ。
「そうか…本当にすまない。未来ある淑女に…あいつはなんてことを…」
「コロ…もう、気にしておりませんから。ささ、公務に戻られてくださいな」
よし、切り抜けた!
ざまぁみろですわクロム!
新王が終わったから次はテメェだ!
首を洗って待ってろよ。
「パパー!リネア様はいつ処……えっ?」
あ、駄犬。
ふふっ。
ふふふふふふふっ。
クーロームーくーん。
「あら」
「…え?」
「あらあらあらあらあらあらあら、あら」
「な…なんです?」
クロムを壁際に追い込みました。
今わたくしは、素晴らしい兵士達がバックにいますから無敵です。
まあ元々無敵ですが。
「パ…パパ?」
絶望に満ちたクロムのその表情…たまりませんわね。
「クロム。お前は人として許されないことをした。暫く牢屋の中で反省していろ!」
新王の怒鳴り声が響き渡る中、兵士達は血相を変えてクロムを縄で縛りあげます。
「なんで僕がッ…!リ…リネアァァア!」
「言霊の力。学びましたね?」
「てめッ…絶対!絶ッ対に戻ってきてやるからなぁあああ!」
かくして。
クロムは二週間の牢屋生活を言い渡されたのでした。