第四十一話 後は待つだけ、その前に
翌朝、身支度を整え山の中へ。
国王様の狙いはわたくし一人なので、単独行動で構いません。
ですが、クロムが許しません。
「僕がいないと、リネア様ってダメじゃん?的な感じでここに居るので、お構いなく」
「あっそう。とりあえず落とし穴に落ちて下さる?」
妄言犬は放っておきましょう。
時間も限られていますから、手短に、国王様暗殺作戦についておさらいしておきます。
全部言いましたわね。
1.わたくしが国王様を誘引する(クロムの馬鹿が誘導を誘引に誤変換しました)
2.隙を見て、スルカが国王様を捕縛する。
3.伏兵かつ切り札を召喚。これはハインクルスです。
4.全知全能たる所以の未来視を使い、ハインクルスの剣を国王様の首に届けます。
5.コルナ王子どうしよう問題勃発。まあ、わたくしがその場で逆〇するでしょう。
と、ちょっとお待ち下さい。
クロムが恐ろしい形相で、わたくしのお腹を握り始めました。
冷やし中華みたい。
これでは、いけませんね。
「コルナは放置。いいですね?」
「はぁ…仕方ありませんわね」
これ以上はわたくしが○○○されかねませんので、話を戻します。
大切なことなので、一度しか言いません。
と、義務教育が足りてないであろう証を、みすみす露呈する教師の話は一旦置いておきます。
6.ロイドが用意してくれたカボチャの馬車に乗り、ポメラニアンに向かいます(意味不)
7.ハインクルスの親戚の家にお邪魔。
8.我が家の敷地は絶対に跨がせん!跨ぎたくば股を開け!と脅されたなら、一回ぐらいなら抱かれてやってもいい。
と、ここでクロムに平手打ちを喰らいました。
「いいわけないだろ」
「後半は冗談ですわ」
最後になりますが、残り二つ。
お付き合い下さい。
9.万が一、国王様を仕留めきれなかった場合、わたくしの第二の転移トラップを発動して“ジ・エンド”とします。
10.後日、国王様の墓を用意します。
以上。
ご清聴ありがとうございました。
「はあ……最後の最後まで、リネア様は本当に甘い」
クロムが深くため息をつきます。
「はて、何がでしょう?」
「命を狙われてるっていうのに、どうして後始末を穏便にしたがるのか。どうせなら、晒してやればいいのに」
クロムは、己の父を完膚無きまでに叩きのめしたいご様子。
あら不思議。
わたくしと一緒ではありませんか。
「国王様には色々お世話になりましたし、救われたこともありますから」
「そんなの、王宮に来てからの話じゃん」
「そうですね。格好の居候先だったと言えるでしょう」
「パパが狂わなければ、僕達はもう少し一緒に居られたのかな」
「……あの方は、初めから狂ってなどいませんよ」
人の感性は、成熟してから決まります。
それ以前は記憶も曖昧で、思い出すことすら叶わない通過点。
それらを積み重ねた先にあるのが、今の自分です。
だから、国王様は昔からそういう人間で、そういったものが積み重なって出来た怪物なのです。
引き返すことも出来たでしょうに、敢えてその道を選んだ彼は、今尚わたくしに固執している。
あの日の優しさは、紛れもなく善意だったのですね。




