第四十話 似た者同士の自覚があるので若干距離を置こうとするも、結局は求めてしまう的な感情を炸裂させて出来たプリンに、何故か無限に牛乳を注ぐ
いよいよ明日、あの憎き魔王(国王)様に牙を剥きます。
なので今日は、お蜜柑を剥くことにしました。
クロムの為に、わたくしが直々に剥いてあげます。
手で。
本当は足で剥いてやろうかと思いましたが、如何せんクロムが「足ならこっち剥いて下さい」と、自然発火するどんぐりを露出してきたため急遽取り止めました。
剥いたら剥いたで、ムクムクともっこりとしてしまう可能性を考慮しての判断です。
しかしながら、そのせいでクロムはムッとしています。
わたくしの身体にペタリと、タコのようにへばりついて離れません。
吸盤は右肩に跡を残し、無抵抗をいいことに好き勝手しております。
性懲りも無く口をぱっくり開けて「あーん」と絶叫する偏執狂のクロム君は、わたくしの掌に花開くお蜜柑を眺めて微動だにせず、今日も今日とて元気いっぱいに衣服を脱ぎ散らかし、真白な肌をベールで包み、二人羽織を希望します。
絶対に嫌です。
死ねい。
「気色悪い事この上ナッシングトゥーマッチなので、離れて下さいまし」
「ナッシングトゥーマッチなら丁度いいじゃん。あとそのネタ、ちょっと古いよ」
「黙らっしゃい」
ご機嫌取りの、あーんタイム。
わたくしの指ごと食べる奴。
そんな奴。
「あまじょっぱい」
「気持ち悪いので帰って下さいません?」
「いいけど。帰ったらリネア様不味いんじゃないの?」
「……」
「まだ僕といる方が安全ですよ。荷造り、手伝いますね」
クロムは、変なところで優しさを見せてきます。
普段からこのぐらい従順なら、多少は考えましたのに。
「衣類と下着は一緒で構いませんか?」
クロムが、長耳対応の帽子を被ります。
あら、変わった帽子。
わたくしの下着ではありませんか。
「ええ。貴様も一緒に入れ」
こんな茶番に付き合ってる暇はありません。
早く出て行かねば。
あのクソ親父が帰ってきます。
「焦らず、図らず。それがリネア様の信条ではありませんでしたか?」
そう言って、クロムが肩を揉みほぐしてくれました。
小さいけど、まあまあの握力です。
「そんな話一度もしていませんが、当たらずとも遠からず。流石はわたくしの元ストーカー」
「恐縮です」
そこから10分程で荷造りは完了しました。
後は最終確認のみです。
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暗い暗い、それはそれは恐ろしい森にやって参りました。
日中は神秘的な木漏れ日を拝めるのですが、夜は冥界への入口に他なりません。
まあ、その辺に関しては諸説あります。
わたくしが勝手にそう思っているだけなので。
「そことそこに落とし穴があります。そんでもって、ここには転移トラップが仕掛けられています」
先へ続く林道には転移トラップ、脇道には落とし穴。
どちらへ向かおうと、何かしらに引っかかります。
あの方はわたくしを追ってくるでしょうから、可能であれば転移トラップを踏ませたい。
そこでクロムの出番です。
「貴方のお父上は、まず貴方を回収するかと思われるので、ここで待ち伏せて下さい。わたくしはその奥で、ぼけっと突っ立ってます」
「そんな頭、餅巾着で大丈夫?」
「無問題。楽勝楽勝」
だって、そこを伏兵に総攻撃させますもの。
転移トラップの行き先は、深海5000m。
地獄への片道切符です。
無理矢理にでも踏ませてやりますよ。
「んまあ、取り敢えず明日に備えて寝ましょっか。今日ぐらい、一緒に寝てもいいよね?」
「構いませんが、暴れるなよ?」
「わかってるって。このポッコリン」
盛大にお腹を弄られたので、今日は寝かせません。
ベッドの上にでも吊しときますか。
クロムなんて、所詮はインテリア用品くずれですから、多少ぞんざいに扱ったところでバチは当たりません。
そもそも、わたくしの方が偉いのだから、何したっていいんです。
全知全能ですから。




