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第三十七話 お前とわたくしは違う

 啖呵をきって以来、国王の監視がキツくなりました。

 頻繁にわたくしの書斎に出入りしてきます。

 そのため、計画を練る時間を潰されました。


 あと四日。

 四日でわたくしの運命が決まります。

 食うか食われるか。

 あの方は、本当にわたくしを食べたいんですね。

 えらいこっちゃ。


 クロムを盾に隠密を心掛けておりますが、如何せん国王の目が光る。

 それにもう一人。

 ロリアバズレックスが行く手を阻みます。

 国王の愛人セーナのことです。

 こいつだけはマジでヤバい。

 地雷。

 話し出したら魚雷。

 嫌われ者特有の自慢話が多い女です。

 また、国王の策略に加担してお零れを預かろうとする意地汚い面もあります。


 「あらぁリネア。今日は一段と不細工なのね」


 セーナがニマニマとムカつく顔で笑います。

 お前より数百倍麗しいわ、ボケ。


 「寝てないんですの。あっち行って下さいます?」


 「えー、どうしよっかなー。真の誠意を見せてくれたらなぁ…!」


 神経逆撫でオールインワンジェル。

 これが怪獣であれば、血管浮き彫りで第二形態突入してましたわ。


 「目的はなんですの?ああ、お零れを…ほうほう。今日は五人ですか」


 「あったりー!どいつもこいつも酸っぱくてクソまじだったけど、焼いたらそうでもなかったよ。羊肉って感じぃー」


 「あらまあ、脳みそスッカスカの批評家ですわね。もしよければ、あちらの窓から楽しい石積みエブリデイに移行して頂けますか?」


 「渡んのはリネアだけどねぇー」


 「お前ですわ。このひょっこりロリ」


 またしても、セーナは光となって消えました。

 ヘンテコな転移魔術ですこと。

 

 「何時までベッドの下に隠れておいでで?」


 「あちゃー、バレましたか」


 クロムがベッドの下で本を読んでおりました。

 夜目が効くのか、真っ暗闇で読んでおりました。

 さては光源がありますね。


 「我らがリネア様に喧嘩売るなんて、セーナも能無しですね」


 「貴方だって裏切り者から下僕に再就職したでしょうが。元を辿れば一緒です」


 「何を言いますか。僕はつんつるてんの潔白ですよ。生来リネア様一筋、牛すじ100g600円です」


 「そんな小売価格してたら潰れますわ」


 ちょっぴりすけべなクロム君の、お腹マッサージが始まりました。

 デリカシーの欠けらも無い、超絶快楽な揉みほぐし。

 眠くなってきました。

 

 「あぅ…」


 全身の力が抜けるようで、蕩けるようで。

 力加減も去ることながら、ぽっかぽかになります。


 「おいしくなぁれ。おいしくなぁれ」


 ぞわりと、背筋が凍りました。

 

 「貴方…」


 不覚にも、愛でられてる気がします。

 頬に口付けを、肩に指を。


 「二通りの意味がある夢。一つは架空の未来、一つは脳が作り出す幻影。願う内は恋しい時間でしょうが、どちらもいつか覚めます。無謀ですよ。はっきり言って馬鹿です」


 クロムがギリと奥歯をかみ締めました。

 強い力で、背後からぎゅっと。

 体温が近い距離で、啜り泣く音を響かせました。


 「相も変わらず、甘えん坊さんですね…」


 主導権はわたくしが握るんですの。

 何時だって、あの時だって、ほら。

 優しく慰めたでしょ?

 最後の夢は、とても甘美な時間で。

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