第三十四話 小手調べ未満、純恋以上。
楽しい楽しい社交界。
の名簿にバツを付けました。
誰が行くか、こんちきしょうめ。
「バツ印に僕が丸しといたんで、おへそマークになってます」
「おへそマークは草」
試しに、最近覚えたばかりの少し古い言葉を使ってみました。
「草」とは「www」という侮辱的微笑を表しています。
ロイドが教えてくれました。
「ところでお腹でっかち様。昨晩はコルナの部屋で何をしてたんですか?」
「日課の物色です」
「僕のは気にならないんですか?」
「無興味。貴方のは盗品ばかりで面白味がありません」
「返して欲しいものがあればお返ししますよ」
「結構です」
クロムが洗濯バサミを取り出し、わたくしの横っ腹を挟みました。
最近お餅ばかり食べていたので、少しモチっとしてますね。
自画自賛自虐。
「パパのおままごとに何時まで付き合うおつもりで?」
「向こうがくたばるまで、ですわ」
「無理だと思うけどなぁ…」
クロムがバルムンクを手に取りました。
いざ、尋常に勝負。
「てやッ…!」
クロムの抜き足は王国随一。
初見殺しの快速で襲いかかってきます。
わたくしには通じませんが。
「咆哮火炎」
わたくしは、お得意の火弾で視界を消し飛ばしました。
地獄の業火に焼かれて眠れ。
とは、ならず。
クロムが懐へ。
「もらった!」
「のは、わたくし」
クロムの剣刃を弾いて、拳を突き出す。
咄嗟に躱したクロムは体幹バランスを失い、足をくじきました。
ぶん殴ってやるぜ!
「ちょっ、タンマ」
クロムより休戦協定のご案内。
からの一太刀。
だから、通じねぇつってんですわよ。
「悪戯な落とし穴」
半歩先に突如として出現した大穴に、クロムが吸い込まれていきます。
クロムは、あわあわと可愛く抵抗。
首から下は地に埋まり、剣はわたくしの手中にございます。
あらまあ、滑稽滑稽。
「溢れんばかりの全能を解き放つ喜び。何物にも勝る快感です」
「だろうな。知能ねぇもんな」
クロムはムスッとしています。
怒ってんのー?怒っちゃってんのー?
生意気ですわよー!
「あ、見えた」
馬鹿め。
そんなに短い筈がありません。
「新調したドレスですもの、見えるわけが……」
あらら、ショートスカート。
わたくしの下はショートスカート。
ベリーアルティメットエクストラバージンオリーブオイルショートスカートですわ。
短いという概念を疾うに通り越し、もはや刺激物物産展です。
なんです?それ。
「よっこらせ」
クロムの頭部は、座り心地が抜群に悪いです。
艶々過ぎて、ツルツルです。
このハゲ。
では無いのですが、まあ、しっちゃかめっちゃか。
意味不明の滑らかさです。
「幸せ…」
多幸感を獲得しないで頂きたい。
「これでは先が思いやられますね」
「ご心配なく。やる時はやるんで」
「そういう奴は大抵何もやらないんですよ。お前みたいな絶倫よだれマンは特に」
「人聞きの悪いことを言いますね。なんですか?喧嘩売ってるんですか?」
「売ってるのは貴方でしょう。他人の、それもレディーのスカートを破るとか頭おかしいんじゃないの?ですわ」
「僕とリネア様は、血の繋がりを超えて繋がっていますよ。他人じゃないです」
クロムが一丁前に諭してきました。
怖い口説き方です。
でも…ちっとも嫌悪感はありません。
どころか、変に意識してしまいます。
風邪気味だからでしょうか。




