第三十一話 親子三人の話
森の奥の更に奥。
奥方様の奥の細道。
絶望的に発音しにくいニュアンスですこと。
特に、奥方様あたり。
おくがたさま、って言いづらくありません?
一生の内に一回も使いませんもの、そりゃそうですわ。
ところで話は変わりますが、皆さま、牛肉はお好きですか?
わたくしは大好きです。
生でもいけます。
嘘つきました、ごめんなさい。
牛肉と言えば赤、赤と言えばフランボワーズ。
フランボワーズ…?
「リネア様…ふく…水…垂れてる」
コルナがわたくしの麗しい顔を覗き込んできました。
コップの水が下着まで染み込んでいます。
これは着替えるしかありません。
たかが水と侮るなかれ。
角砂糖マシマシ紅茶と考えろ。
「あーもう、めんどくさいですわね」
指パッチンで早着替え。
身体の汚れも綺麗さっぱり。
転移魔術、神。
「うお…凄い。リネア様…さすが」
コルナから送られる羨望の眼差し。
「んもうっ!可愛いんだから!」
木陰に妙な人影を感じつつ、抱き締めてやりました。
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午後になって。
泣く子も黙る、国王様のお通りで。
わたくしの肩に触れる生易しい手は、いつにも増して卑しくて。
悲鳴を堪えるのに必死でした。
「確約された快いお返事は、まだ頂けませんか?」
見るな。
わたくしの顔を見るな。
耳に触れるな。
「現在わたくし、昨今の不審者大量発生事件の対応に追われておりまして、絶賛、脳内麻薬ドバドバドーパミンミンゼミなんですの。このような状態では、とてもとても、正常な倫理でお答えできません」
「フッ……強情な人だ」
国王は嘲笑い、護衛を引き連れて王宮を後にしました。
戻ってこないでくださいま死ね。
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夜になり。
クロムの自室に、明かりが灯り。
許嫁と戯れるマセガキが、わたくしの悪口を口ずさむ。
蹴るぞ。
「ねぇクロム。次いつ会える?」
クロムの許嫁、セーナですわ。
メーテル公国をメジスチナ王国に献上した売国奴で、元はメーテル公国の第二王女?だったかな。
さっぱり興味無いので、記憶があやふやです。
でも、クロムより一つ二つ、歳下だったはず。
あらやだ。
こっちもあやふやですわ。
「えー、わからないなー」
やることやっといて、冷たい。
賢者タイムクロムクロックタイム。
「じゃあ来週末また来るね!あの阿婆擦れにもよろしく言っといて!」
「うん。リネア様にちゃんと伝えとくよ」
……あ、わたくしの事か。
死刑だ、死刑。
ぶん殴るぞ。
「あ、リネア様」
ようやく気が付きましたのね、この生意気王子。
「うわぁ…全部丸聞こえだったかな。やば」
服を着た人間っぽい何かが、女のフリをしていますね。
「去ね」
「はーい。じゃ、待ったねー!」
セーナが、あっかんべーをしながら光の粒子と共に消えていきました。
クロムは少なからず、この女の影響を受けています。
百害あって一利なしの、国王様の愛人です。




