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第二十六話 白と黒

 クロムの自室に監禁されました。

 鍵を没収されました。

 転移魔術を使えないように魔力霧散装置なるものを部屋に置かれました。

 オワタ。

 このままだとわたくしが淫獣の毒牙にかかってしまいます。

 と、思っていたら違うようで、今日はクロムの誕生日でした。

 あ、やべ。

 用意してない。


 「リネア様!今日は一体何の日でしょうか!」


 「可燃ゴミの日です」


 「はい違います!僕の誕生日です!用意してるよな…?」


 「……」


 「な?」


 「はい。用意しておりますわ」


 「いやったぁああああああああああぁぁぁああ!」


 クロムは虚言に大喜びです。

 いきなり抱きついてきたかと思えば頬にキッス。

 お返しを期待する素振りで押し倒してきました。


 「さあ頂戴!」


 「あー…」


 無い。

 本来なら転移魔術を使用して、適当な装飾品でも引き出しから持ってくるんですけど、今回は無理。

 退路も断たれ窮地。

 

 「まさか無いの?」


 「……」


 「じゃあリネア様の全身に鍵盤描いて演奏するよ?」


 「あるある。めっちゃある」


 「じゃあ頂戴」


 「……」


 「何その間。脱がす?」


 「ありますってば」


 だからそう感情が読めない真顔を近付けるな。

 気持ち悪くてたまりませんよ。


 「プ、レ、ゼ、ン、ト!」


 「ちょい待ち」


 やむを得ません。

 わたくしはクロムをぎゅううと強く抱き締めました。

 これがプレゼントだ!と、内心高笑いしながら。

 縮こまるクロムは少しだけ震えていました。


 「…最低です」


 落胆にも似た声がクロムから。


 「ごめんなさい。貴方の誕生日は忘れていませんでしたが、プレゼントはすっかり忘れておりました」


 「酷い…」


 「なので明日でもいいですか?明日、一緒にプレゼントを買いに行きましょう」


 「え…いいの!?」


 あ、機嫌戻った。

 ちょろいちょろい、甘っちょろい。ロイド君。

 は、関係無い。


 「いいですとも。ペアルックでも何でもいいですよ」


 「やったー!」


 これは頭痛が痛い。

 でも、クロムの助力が無ければ作戦は進みませんからね。

 こまめに近状報告してくれるのは彼だけですし、なんだかんだ忠実ですから。

 切るタイミングは考えねばなりません。


 「その前に一つ。貴方のご両親、最近不仲だそうで」


 「そうなんですよねー。まあ、遅かれ早かれバレるだろうとは思いましたよ。ママの不倫」


 「でしょうね」


 「お陰で僕は宙ぶらりん。離婚したらどっちについて行くか聞かれる始末。あー嫌だ嫌だ」


 「して、貴方はどちらに?」


 「ん…?僕ですか?僕はリネア様です」


 「答えになっておりませんわ」


 「だってどうでもいいですもん。両親なんて、よく知りませんし」


 「はい…?意味がわかりません」


 そう言うと、クロムはわたくしの肩を強く引きました。

 自身の膝に、わたくしの頭を乗せて。

 膝枕をしてくれました。

 今現在、上下逆転するクロムの顔だけが視界に映ります。


 「僕は昔から、リネア様しか見ていませんよ」


 クロムが意地悪な笑みを見せて言います。

 混じり気の無い夢心地の声です。

 わたくしの腕を擦る手は小さく、暖かく。

 唇をなぞる人差し指は、ほんのりスズランの香りを撒いておりました。

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