第十四話 最近物騒な事件が多いのに、背後に立つ存在に気づいたもんだから
反射的にスルカを殴ってしまいました。
「はン!?」と情けない声を出して涙目になる空虚な瞳をお持ちの、いい所のお嬢様エルフ15歳。
わたくしはひたすらに謝りましたが、許してくれますかね。
「リネア様!酷イ!許さなイ!」
許してくれないっぽい。
「許しなさい。この解体新書具現化型二足歩行者」
「アー!アー!リネア様は言っちゃいけないこと言っタ!もう怒っタ!次の標的はクロム王子に決定だかラ!」
「あらやだ、願ったり叶ったり」
クッソ優秀ですわ。
でも今クロムを処断されても困るんですよね。
なぜなら、意外にも、クロムは人心掌握術に長けているので、誰かを丸め込もうと思ったのであれば尖兵並の活躍をします。
特に女性相手だと百発百中。
マジで何を百発百中してんのかは存じ上げませんが、まあ、翌日の女の変貌と言ったらない。
雌猫の発情期と相違ない。
「まあそう荒ぶらないでくださいまし。わたくしもこーんなに反省しているのですよ」
「絶ッ対にしてなイ!リネア様だもン!」
「あ?喧嘩売ってんのか小娘?」
ピーチクパーチク五月蝿いですわ。
たかだか1回殴打しただけでしょうが。
「もういイ!リネア様とは絶交ダ!」
スルカが走ってどこかへ行ってしまいました。
どうしましょう…。
「お困りのようですね」
ふと、頭上からクロムの声が聞こえたような気がしなくもない可能性が否定できませんが、耳を澄ませば小鳥のさえずりしか聞こえません。
「おーい、リネア様ー」
平然と女子トイレの個室に居座る駄犬、クロム。
ニコニコでわたくしを見下ろしております。
頭が高い。
「高貴なるわたくしの花園に土足で踏み入る薄汚れた小型犬でしたか、ごきげんよう」
「はいどうも。お高くとまってんじゃねーよ公爵令嬢風情がよ」
「お召し物は破棄してよろしいですね?」
「ごめんなさい…!」
わたくしはクロムの体から下着だけを転移させて抜き取りました。
「それでは、感想をどうぞ」
「スースーします…」
「わたくしも、今そんな気持ちです」
正直に言うとスルカと仲直りしたいです。
数少ないわたくしの友人ですので。
「仲直りしたいと思っていますね?」
「ニヤケ面が癪ですけど図星ですわ」
「それならいい案があります。耳を貸してください」
「え…ええ」
言われた通りに耳を貸すと、クロムがわたくしの耳元でひそひそと何かを言い始めました。
「―――・・――・―――」
しかし、か細くて聞き取れません。
「何を言ってるのかさっぱりですわ」
「えー、じゃあもう一度言いますね」
「お願いします」
「…ど…げ…ざ」
「却下」
「でも、それ以外方法ないですよね。だって殴ったんですから。友達を」
「…………」
ノリで流せると思った自分が浅はかだったかもしれません。
よし!土下座しましょう!
早速、わたくしはスルカ邸へ転移しました。
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スルカ邸スルカ部屋に着きました。
スルカがスイカをスルスルとナイフで向いていました。
ス、多い。
ま、そんなことはどうでも良くて、とりあえず声をかけましょう。
「ス…スルカー?」
「……」
スルカにグッと睨まれました。
完全ブチ切れモード継続中ですわね…。
だからなんだというのです。
土下座すれば済む話です。
「スルカ。この度はわたくしの不手際により、貴方の未来ある可憐な顔面打ち抜いてしまい、申し訳ありませんでした!」
土下座ぁ。
勿論、贖罪の気持ちは込めまくりです。
「足りなイ…」
「…え?」
「地ニ、頭つけル。それガ土下座」
「ぐぬぬぅ…!」
「謝る気、あル?」
スルカはわたくしの頭を踏みつけてやろうと右足を伸ばしてきます。
生まれて初めて見下された気がします。
わたくし達って友達でしたよね?
違いましたっけ?
あれ、思ってたのわたくしだけ?
「申し訳ありませんでした…」
そう言って地面に頭をつけようとした、その時、
「許ス。ちゃんと謝ったかラ」
スルカがわたくしの顔をそっと抱えるように持ち上げました。
そのまま、ぎゅっと抱き締められています。
「ありがとうスルカ…」
なんだか、目頭が熱くなってきました。
「よシよシ。このままロイドの部屋に連れて行ってどうしてくれようカ」
「さ、仲直り完了なので帰りますね。じゃ」
「このッ…!」
よからぬ事を企んでいたスルカを置いて転移帰宅しました。
仲直りとかマジ秒で終わった。
かったりー。
「ふぅ…」
ソファーにふんぞり返るのが至福過ぎる。
ああもう。
こんなことなら、初めからキチンと謝るべきでしたわ。
後悔先に立たず。
便利な言葉ですよ、まったく。




