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第十三話 様々な恐怖体験

 はあ…どうしてわたくしはこんなにも可愛いのでしょうか。

 鏡を見る度にそう思います。

 美し過ぎる。


 「リネア様は上の中ぐらい!」


 「最上の特上です」


 「その鏡は骨董品ですか?」


 クロムの悪口は日に日にエスカレート。

 これには理由があります。

 

 先日、わたくしはコルナ王子に添い寝をしました。

 それはもう甘美な時間で、ほにゃららな事以外は全部しました。

 コルナ王子を刺繍した抱き枕カバーが欲しいと新王にお願いしたくらいです。


 …そうです。それがバレたのです。

 クロム王子に。


 思惑がバレたその日から、クロムはわたくしに陰湿な嫌がらせをするようになりました。

 わたくしの愛用しているティーカップを盗んだり、下着を盗んだり、食べたり。

 わたくしの目の前でですよ?

 狂喜乱舞もいいところです。


 その上、必要以上に付きまとってくるんですよ。

 トイレにまで入ってこようとしたので、さすがに殴りました。

 でも、入口で待っているんです。

 じーっとわたくしから目を離さず、足音を重ねて着いてきます。

 来る日も来る日も。

 今日も。


 洗顔中も、クロムがずっと鏡に映っています。

 無表情で、大人しく、黙って。


 「リネア様。これ、タオルです」


 「え…ええ、ありがとう」


 クロムは散々悪口を言った後、急に優しくなるんです。

 これってDV夫の典型的な例ですよね?

 まあ、夫なんかじゃないんですけど。

 絶対に無理ですけど。


 「コルナが好きなんですか?」


 「…え?」


 「だーかーらー。コルナが好きなんですかって聞いてるんです」


 「それは…まあ」


 「ふーん…」


 クロムのなんとも言えない表情。

 不気味ですわね。


 「リネア様。コルナだけはやめておいた方がいいですよ」


 クロムが真面目くさった顔で言いました。


 「なんですの急に」


 「コルナは僕よりずっとヤバい奴です」


 「ヤバい自覚はあったんですね……ま、それは置いといて。具体的に何がヤバいんです?」


 「コルナの性癖です」


 あ、詳細キボンヌ。


 「教えて下さいまし!」


 「あいつ、添い寝フェチなんです」


 「あら最高」


 「はあ!?あいつが添い寝中、何をしているのか分かってて言ってるんですか!?」


 「何をしているんです?」


 「……んぁあああ!もういいです!じゃッ!」


 クロムが怒って大浴場を出ていきました。

 なんだったのでしょうか。


 あまりにも意味不明過ぎるので理由を考えていると、突然肩を引かれる感覚に陥りました。

 危うく滑って転ぶところでしたよ。


 「もう、一体誰…あっ」


 「リ…リネア様。お肌…スベスベ」


 もじもじと恥じらいながらタオルを巻くコルナ王子が背後にいました。

 わたくしの脇腹をさわさわとくすぐるように触っています。


 でもおかしいんです。

 この大浴場は、入口が一つだけなんですよ。

 扉を開けたら音がしますし、誰かが入ってきたら気づくはずなんです。

 それにわたくしは入口側を向いて考えていました。

 なら尚更気づきますよね。


 それなのに━━━━


 「リネア様と一緒…入る」


 ━━━━なぜ、コルナがいるんですかね?

 

 「いつ入ってきたんです…?」


 「ふぇ…?ボ…ボクはついさっき」


 「そうですか。まあそんな瑣末な事は置いときましょう。風邪をひきますから」


 そう言ってわたくしはコルナ王子と温泉に入りました。

 広い熱風空間に二人。

 のんびりできていいですね。


 「に…兄さんとは…い…一緒に入りますか…?」


 コルナ王子は、わたくしの顔を見れない様子。

 お湯で隠れているとはいえ、お互い裸ですものね。


 「いつも一緒に入っていますわ。特に深い意味はありませんけど」


 と、わたくしは言いました。

 するとコルナ王子が、


 「そう…ですか。なら…これからはボクが…毎日リネア様と一緒に入ります。これを機に…ずっと…」


 肌を寄せてきました。

 上目遣いで、道端に捨てられた子猫のようなか弱さをアピールしてきました。

 好きにしていい。

 そんな感情が見え隠れしています。


 「せっかくのお誘いですが、お断りさせていただきますわ」


 「…ふぇ?」


 「ちょっとだけ、クロムが可哀想なので」


 「兄さん。いっつも兄さん…」


 「はい。いつも一緒ですね」


 「ボクじゃ…ダメ?」


 「ダメではありませんが、まだコルナ王子はわたくしをよく知らないでしょう?」


 「知ってる…!知ってるよ!」


 「では具体的にどのように?」


 かかった。


 「リネア様は毎日同じ時間に起きる…!リネア様は午前より午後の方が元気がいい…!好きな紅茶はヌワラエリヤ…!クッキーは絶対に右端から取る…!友達が少ない…!お酒は弱い…!寝返りは決まって三回…!寝巻きは9日でループする…!体を洗う時は頭、肩、腰、足、下の順番で洗う…!あ…」


 「はい。ご苦労様です」


 言質が取れました。

 コルナ王子は初めから大浴場にいたようです。

 

 「ごめんなさい。リネア様と一緒に入りたくて…」


 「怒ってなどいませんよ。ただ、今度からは一声かけてくださいね」


 「はい…」


 コルナはお利口さんでした。

 しかし、クロムが言っていたヤバいの意味がわかりました。

 コルナ王子は……浴槽の中で…以下略。

 ご想像にお任せしますわ。

 でも一つだけヒント。


 かき玉汁美味しいですわよね。

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