第十一話 作戦会議First Season
仕方なくクロムを仲間に加えて作戦会議。
ホテルのフロントをお借りして計四人集めました。
一人目は一行目にも登場したクロム。
二人目はわたくし。
三人目はロイド。
四人目はレイル。
何故わたくしはわたくしなのかと言うと、名前が皆三文字だからですわ。
わかりやすい事この上無いですけれども、必ず何処かでこんがらがります。
なので、わたくしと呼称しました。
「ひとつ聞いていいか?」
ロイドが控えめに挙手しました。
「はいどうぞ」
「なんでここで作戦会議?」
「落ち着くからですわ」
「あー、そっか。頭のネジ外れてんのか…」
とてつもない侮辱をされた気がします。
では、わたくしの素敵な寸勁を顔面にぶち込んであげましょうと思っていたら、若いカップルが一組入ってきました。
「あのー、すみませ……ん!?」
カップルの片割れである若い男が刮目しました。
カップルは身を寄せあって震え始めました。
「この拳は、まだ誰に打ち込むか決めておりません」
「お…お邪魔しました!」
カップルの男は這いずるようにホテルを出ていきました。
女の方はチェックイン希望。
あらまあ、大胆ですこと。
「1919号室が空いておりますわ。キーはこれです」
「ありがとうございます」
「良い夜を」
若い女は足早にホテルの二階へ向かいました。
ロイドは引き攣り笑いを堪えてテーブルに突っ伏しております。
「このホテルって何号室まであんの?」
「1900から2000までありますわ」
「すっげー…奇跡じゃん」
「何がですの?」
「いや、なんでもないです」
ロイドが平静を取り戻したので会議を再開します。
此度の議題内容はこちらになりますので、目を通しておいてください。
・現政権の乗っ取り方法。
・人員の確保。
・もし失敗した時、誰に責任を追わせるか。
・責任者はクロムでいいか。
・むしろクロムしかいない。
・死ねクロム。
となります。
クッソ少ねぇですわ。
結局のところ、議論すべき内容は二つだけですもの。
レイルは相変わらずぼけーっとしておりますが、この話に興味はありそうです。
「リネア様の目的は国家転覆だそうですが、なにゆえそのような事をなさるので?」
いい質問です。
核心をついてくれたことに感謝。
「近い将来、メジスチナ王国は帝国の傀儡になります。これは決定した未来です。新王が無能な以上、絶対に覆りません。まあ、子種もスカスカなようでしたけど」
そう言うと、一人の金髪頭が首を傾げました。
お紅茶を美味しくお召し上がりになっている、おクロムが首をお傾げになりました。
カップに入っていた紅茶はテーブルに広がりました。
「それって僕のことですか?」
「聡い」
「違いますよね?コルナですよね?」
「貴様は何を言っているの?コルナ様は神の寵愛を一身に受けた徳の高いお方ですのよ?間違っても貴様みたいな頭ゴールデンクルクルパーマとは比較できません。零した紅茶拭け」
「リネア様は僕にだけやたら毒舌ですよね。ああ悲しい。僕はこんなにもリネア様を愛しているのに。てめぇが拭け」
「軽口は結構ですのよ。いずれわたくしは皇神コルナ様と契りますから、お前はその散らかった頭と股間を振り回しながら野を駆け地を這いずっていなさいな」
そう言ってわたくしはクロムを全力でビンタした後、彼の頭に紅茶をかけてあげました。
「誰に拭けって?」
「調子こいてすみませんでした!」
「そのお召し物はわたくしが着ます。脱げ」
わたくしがパチンと指を鳴らすとレイルが動き出します。
即断即決に即座に対応する優秀な近衛兵と言えましょう。
「嫌だァー!嫌━━━━━━━!」
あられもない憐れなクロム君。
クロムのお召し物はわたくしのと入れ替えまして、わたくしのは綺麗に畳んで籠の中へ。
レイルが手際良くやってくれました。
「さて、どうやって現政権を乗っ取りましょう」
方法は幾らでもありますが、武力制圧は好ましくありません。
できる限り自然に玉座に座りたいものです。
コルナ王子のお膝元に座りたいものです。
「難しく考えず、ここは、コルナ王子を手篭めにすればいいのでは?」
レイルが気の利いた事を言いました。
的は射てる。
しかし、コルナ王子はまだ子供。
「わたくしなんかと釣り合うとは到底思えませんわ」
「いや、コルナ王子言ってましたよ。リネア様優しい。好き。毎日会いたいって」
「よっしゃ、それでいこう」
決定です。
最高です。
まさか、コルナ王子からわたくしを求めてくださるとは…。
これは蜜月も待ったナシですね。
「僕がァ!いぃぃいるでしょうがァ!」
クロムに耳元で叫ばれました。
粗末なものを引っ提げて張り付いてきます。
「はいはい。可愛い可愛い」
次に移りましょう。
「さて次に、人員の確保ですね」
そういうと、今度はロイドが反応しました。
「あのさ、それ俺に任せてくんない?」
「あら、いいんですの?」
「その代わり、一つだけ頼みがあんだけど」
「いいですわよ。なんでも仰って」
「金」
「お易い御用ですわ。クロム。貴方の宝物庫からメジスチナ白金貨300枚を程度拝借しますわね」
わたくしは物質転移魔術を使い、クロムの宝物庫に手を入れます。
ごそごそと荒らすように漁ります。
硬い金属に当たり、何かが倒れた気がしますが気にしません。
「やめて!僕のへそくり!」
「いいではありませんか。わたくしの役に立てるのですから」
「……やだ」
クロムは暗い顔でわたくしにしがみついています。
少しだけクロムが可哀想になってきました。
「じゃあ100枚にしますか…」
わたくしは宝物庫から手を出して、ロイドにメジスチナ白金貨100枚を渡しました。
テーブルの上で確認してもらい、きちんと100枚ある事がわかりました。
交渉成立です。
「頼みましたよ」
「お任せ下さい!必ずやリネア様のご期待に応えてみせます!」
ロイドはだらしない顔でホテルを出ていきました。
あれはダメだ。
ハナから期待しちゃダメな人間だ。
はあ…なんか疲れましたわ。
「グスンっ…」
クロムがずっと泣いています。
なんだか、いたたまれない気持ちになりますね。
「貴方のお陰ですよ。ありがとうございます」
わたくしは、クロムの頭をぽんぽんと撫でてあげました。
小動物を扱うように優しく。
「……」
この間、レイルは不思議そうな顔を浮かべていました。
そして「あっ」と口に出し、何かに気がついたかのようにホテルを後に。
取り残されたわたくし達は、朝方までホテルマンの真似事をしていました。




