第十話 人は見た目で判別出来ない
国家転覆と聞き、すぐさま革命を思い浮かべるのであれば早計です。
まず第一に、どうやってそれだけの兵力を集めるのかが壁となりますので、今すぐ、その醜い考え方を改めてください。
非暴力、非服従でやっていきますので、どうぞよろしくお願い致します。
「このッ!」
「痛い…!」
わたくしはクロムの頬を思い切り叩きました。
非暴力?クソ喰らえですわ。
こいつはわたくしの思惑を国王にぶちまけたんですのよ?
日増しに叩く回数は増えるというもの。
叩いてなんぼの木偶の坊に、何を躊躇う必要がありますか。
「聞こえますか?クロム王子。聞こえているのであれば、そのまま座して聞きなさい。単刀直入に言います、お前はクビです。利用できる王族は他にもいますから、消えて頂いて結構。これからは視界にも映らないでくださいね。不快ですので」
「そんな…僕はリネア様のためにやってきたのに…」
「はい結構です。さようなら」
わたくしは、泣きべそをかくクロムを置いて大浴場を出ました。
当初の予定より、だいぶ長風呂でしたね。
すっかりのぼせてしまいました。
「んーっ……はぁ…」
眠み丸。
もう、めちゃくちゃ眠いです。
夜分遅くですからね。
「リネア様!僕にもう一度チャンスを!」
クロムが大浴場から出てきました。
ふざけないでいただきたい。
「クロム王子。今、わたくしは何をしていますか?」
「お召し物を取り出そうと、籠に手を伸ばしています」
「正解です。では消えてくださいね」
「あっはは!そりゃそうだわ!あっはっは!」
クロムをスルカ邸に転移させました。
明日午前にでも、苦情を賜るでしょうね。
「……」
それにしても今日は王宮が静かです。
メイドも執事も出張っているそうで、警備担当の兵士以外は誰もいません。
月並みですが早めに寝るとしましょう。
わたくしは自室に転移しました。
が、誰かいました。
その誰かは男です。
若くて背の高いボケーっとした青年です。
先日わたくしがクビにした人間です。
「どの面を下げてお戻りに?」
「勤務態度が良かったらしく、再雇用してもらいました」
「世迷い言を。定時で帰る人間に優秀な者はおりません」
「リネア嬢。あなたの言っていることはハッキリ言って無茶苦茶です。勤務奴隷を強いる貴族は短命ですよ」
ムカつきますけど、この男の言う通りですわね。
「その飄々とした態度は気に入りませんが、まあいいでしょう。で、何をしていらしたのですか?」
「侵入者を探しに」
「あー成程。そういうことでしたの」
大浴場で洗髪をしていた時から視線は感じておりましたが、よもや寝室に隠れていたとは。
この気配…索敵するまでもないですね。
総勢12名の精鋭です。
「別室を御用意しました。こちらへ」
「その必要はありません」
「…え?」
後ろ姿で男は止まりました。
「今、王宮西の外壁にワイヤーをかけている人数は?」
「3」
「では、天井裏には?」
「2」
「執務室特別地下通路内監視室を制圧した武装兵の数は?」
「6」
「宜しい。では最後に━━━━━━━━」
最後と告げた途端、わたくしの髪を掠める尖刃が。
「リネア様後方に1」
「お見事。優秀なのは間違いないようで」
彼がナイフを投げた時、一瞬だけ色っぽく見えました。
世辞抜きでかっこよかったです、凄く。
護衛として高いポテンシャルを備えているようです。
後方にいた男は頭にナイフが突き刺さり息絶えておりました。
「名前を聞いておきましょうか」
「レイルです。以後お見知りおきを」
「良い名前です。これからよろしくお願いしますね」
「ははっ。光栄にございます」
彼を、レイルをわたくし直属の護衛にします。
そして国家転覆の礎に加えましょう。




