魔道人形の記録3
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「人間ってのは、戦うことをやめれない生き物なんだよ。憎いから、正義のため、利益、色んな理由があるだろうが、やってる事は変わらない。戦うことは人間にとって生きることなのかもしれねぇな」
今はもういない、使用人として聞いた、軍人の男の言葉。
「もしあの時ああしてれば良かった、きっと今は違うものになってた、もし生まれ変わったら・・・何度も考えますよ。だけど現実が教えてくるんですよ、今に向き合えって。・・・戦場の賢者殿は考えたことはありませんか?」
焼け野原となった戦場に立ち尽くす、国一番の騎士の言葉だ。
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前回の戦争で辛くも休戦まで持ち込んだ彼の住む国は、多くの失った人材を補う為に、軍事学生からも徴兵を余儀なくされていた。学生の中には志願していく者も多数おり、その中には先の戦争で家族を失った者達が多くを占めていた。
志願した中に、彼を先生と慕った青年の姿があった。
「先生、私は決めました。いずれまた戦争が起きる。そしていつかこの国は滅ぼされる。なら、戦わないといけない。先生、私と一緒に来てくれませんか、先生の知識は必ずこの国の助けになる」
帰ってきた青年は怒り、憎しみ、悲しみがこもった目で彼に一緒に戦場に来て欲しいと頼んだ。
彼は、戦争が嫌だった。彼の前から生きている彼等が居なくなって行くのが、知り合った者達が戦争で死んでいくのが。誰にも死んでほしくなかった。
でも、どうすればいいか分からなかった。
彼は青年に付いて行かなかった。この場所を守って欲しいという、死んだ男との約束があるからと言い訳をして。
戦争が、また始まった。今度は彼の住む国から、北の国に対しての戦争だった。
彼の住む国は戦争に後ろ向きだった。北の国との戦争が続けば、疲弊し、国としての形すら保てなくなる可能性があったからだ。
しかし、国の考えとは違い、軍の再編成に伴い、若い将校達が重要な要職について、発言力が増したことにより、北の国への好戦を叫ぶ者が増えた。
その中には志願した青年の姿もあった。青年は類稀なる知識を買われ、若い将校の右腕として異例の抜擢をされていた。彼から学んだ知識を惜しみなく披露し、開戦を声高らかに叫んでいた。
青年が提供した知識から、数々の新兵器が開発され、軍備を整えて、北の国へと攻め込んだ。
圧倒的だった。先の戦争は何だったのかと言う程に、見たことも無い兵器の数々、それらが轟音を立てれば一瞬であたり一帯が焦土と化す。北の国は僅かな抵抗しか出来ずに、領土を次々に蹂躙され、遂には僅か数ヶ月で北の国は降伏も許されずに滅ぶこととなった。
しかし、これで戦争は終わらなかった。
あまりにも圧倒的な勝利。更には広大な領地を手にしたことで、勝利に酔った軍は、国での発言力が増し、その勢いを止める者など誰もおらず、周辺国家へと攻め込み始めた。
その中心には彼を先生と慕った青年がいた。
青年は圧倒的な勝利をもたらし、誰もが驚く戦略、誰もが知らない知識。それを産み出す希代の英雄として、御伽話の「賢者」の生まれ変わりと言われていた。
「あの子は、どうしちゃったんだろうねぇ・・・息子が出世するのを喜ばないといけないんだろうけど」
新聞に載る青年の記事を見て、弱々しく呟いた青年の母親にはかつての快活さが失われていた。
愛する夫を亡くし、息子は夫を奪った戦争に傾倒して、便りもなく、帰ってくることもない。
「また沢山の人が死ぬんだよ。それをするのが私の息子だなんてねぇ、喜べないよ」
そう言う青年の母親はとても小さく見えた。
・・・こんなハズじゃなかった。
彼は考えていた。どうすればよかった?自分はどうすればいい?
彼は青年の母親の弱りきった姿を見たくなかった。
彼が見ていたいと思った青年の生きる道はこんなモノじゃなかった。
青年の父親から託された、大切な場所を守る約束は守れているのか?
考えた彼は、決めた。
青年を連れ戻そう。
しばらく休暇をとることを青年の母親に申し出ると、悲しそうな顔で力なく頷いて了承してくれた。
「先生、まさかそんな事を言うためにここにきた訳じゃないですよね?・・・先生なら分かってくれると思ったのに」
青年はギラついた目に落胆の感情を乗せて彼を見た。
彼は数日かけて軍の司令部に到着し、青年の知り合いということを伝えると、それを聞いた青年はすぐさま彼を司令部に嬉々として迎え入れた。
彼ならば、自分が及びもつかない戦略や技術を持ち合わせている。今こそその力を自分と共に使って欲しい。
しかし、青年が期待した内容ではなく、彼から出てきたのは「戦争をやめて、家に戻って欲しい」という、青年からしたら自分のやっている事を全て否定されたかの様な内容だった。
「あなたは、何の為に私に知識を教えたんですか?あなたから教えられた知識で、沢山の人を殺した。この力は強大だ!誰もが讃える。あなたと私が手を合わせれば、この世界を手に入れることだってできる!それを貴方は・・・!」
ギラついた目に落胆の他に怒りが混じり始めた。
その目は、かつて彼を投獄した時に見せた国一番の騎士の目と同じだった。
彼はかつての様に投獄はされなかったが、青年の命令で司令部の地下に軟禁されることになった。
だが、彼は諦めていなかった。
時間がかかっても、必ず連れ帰る。
そしてまた、あの家で、みんなで暮らすんだ。
温かな日々を、男と約束した大切な場所を守るために。
彼は「夢」を描いた。
それが叶わない夢だったとしても。
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