4 事情
さて知らない土地のことはそこに住んでいるものに聞くのが一番。
独りで彷徨うより生存率だって上がるだろう。
つまりこの人間でもなければ俺のような鬼でもないよくわからない生命体に話を伺おうと思う。
しかし!! 問題はそこじゃないんだよな。
こいつがまず俺の言葉を理解できるか。
それ以前に言語という概念があるかどうか。
そこにフォーカスを当てるべきだろう。
起き上がった時にまた襲われんのも面倒だから紐で縛っておこうか。
「でも紐な、ん、て......あったな」
嶺二の目線の先には先程邪魔者扱いをしたお手製釣竿があった。
嶺二はそれを取りに行き釣り竿からワイヤーを引き剥がした。
もちろんそのワイヤーは現地民の体に緩みのなく巻き付けられた。
「うう......何が起こったんだ?」
横たわって縛られているこの状況が理解できないみたいだ。
それもそうだ。
縄張りに侵入したそこまで強そうじゃない人間を追い出そうとしたら、
パワー負けして気を失っていたのだから。
棒で突いて威嚇して、領地外に出そうとしたのに逆に皆が暮らしている方に向かっていく。
まずいと思いその足を止めるために追いかけ本気で振り下ろしたのに......
相手は急に武器を作り出し、自身の出せる最大の力を軽々止め。
反撃され、吹っ飛んだ。
「起きたか?」
可愛らしい外見をした悪魔、嶺二が話しかける。
「お、お前は!!」
チビは逃げようとするが身動きがとれない。
「無駄だよ。紐で縛って逃げられない様にしたから」
「何だよ。何がしたいんだよ?」
謎だった。
人間はこんな奥地には入ってこない。
何が目的か全く見当が付かなかった。
まぁ、聞いたところで何かできる状態ではなかったのだが。
「何はしたい? 強いて言うならこの辺の道案内をしてもらおうかなと思ってたんだが」
嶺二はフームとアゴに手を当て、少し考える様な様子で返事をした。
「道案内......まさか妖精の郷を襲いに来たのか!?」
チビは切羽詰まる勢いで答えた。
妖精の郷? わけわからんな。
嶺二は聞き慣れない言葉に困惑した。
「その妖精の郷っていうのは何なんだ?」
「えっ? 知らない?」
チビは間抜けな顔を向けた。
「知らないな。そのお前も妖精なのか?」
まさかそんな訳ないよな。
妖精って普通羽生えてるもんだし、もっと小さな感じだからな。
それよりコイツ男か女かどっちかわからん。
俺は華奢なロリってわかるが、こいつはなんて言えば良いのだろうか
......うん、中性的な顔だな。
「......そうと言ったら?」
思わせ振りな発言だな。
まぁ、話の進行的に言ったら肯定してると取って良いよな。
でも妖精か......イメージとかけ離れてるな。
身長は俺と同じぐらいか。
羽はもしかすると服の中に隠れてるかも。
「それで妖精の少年? それとも少女? どっちかわからんな」
「どっちも違う。妖精族は性別ない」
はい、来ました。
無性別。
この世界の生物はオス、メスという概念がないのだろうか。
いや、でも性別のこと尋ねたらちゃんと答えたし、どっかで存在してるな。
「そうか、同じだな。俺もない」
「えっ? そうなの人間って男と女があるって聞いたんだけど」
人間か......やはりいたか。
ここに二人も人形がいるんだ。
原型となる人がいない方がおかしいよな。
「多分人間にはあるんじゃない。だけど俺鬼だし」
「お、おに!!」
妖精は目を見開き驚いている。
まぁ、もし人の外見が元の世界とあまり変わってなかったら俺との違いなんて付いてるかついてないかの違いだからな。
少しばかり脅かしてみるか。
「そうだ。鬼だ! 怖いか?」
「えっ! まさかそんな失礼な事ありません」
失礼ね......さっき会ったばかりなんだから礼儀もクソもないだろ。
「まぁ、いいや。取り敢えず今どこに居るかわからないし、その里に案内してくれないか?」
「もちろんです」
あれ? さっきまでは襲われるんじゃないかとビクついていたのに今度は二つ返事じゃないか。
「大丈夫なのか? そんな簡単に信用して」
「そりゃ、鬼様なのですから」
妖精の子供はにっこり微笑みながら答えた。
その汚れの混じっていない笑顔に嶺二は何とも言えない気持ちになった。
「あ〜でもね。何でもかんでも信用したらそのうち騙されるからある程度は相手の事疑わないといかんよ」
汚れ腐った社会を生き抜いてきた者の説得力は壮絶言ってもいいかもしれないが、今の姿だとその風格のカケラも感じられない。
「大丈夫ですよ。人間が鬼様の名をすることはありませんから」
「なんで?」
まさか人は鬼の存在を認知してないとかなのか?
「鬼様たちは人間から嫌われてるんです。その御名を呼ぶのすら恐れるぐらいに」
「嫌われてる? それまた如何に?」
これまでに人間にちょっかいでも出したか。
嶺二の考えは半分あたりで半分ハズレだった。
そしてその真相は予想だにしないものだった。