01 事の発端
君島 嶺二、21歳で父親の会社を受け継ぎ年商4億円にも満たない中小企業を6年で年商5兆円まで上昇させ現在30歳で君島商事は海外進出もし今世界中で注目されている大企業にまで成長させたバラ色人生を送っていた。
周りの人達はそういう風に言うだが、現実はそうではない。
俺は21歳で父親が逝き遺書に自分に全て任せると書かれており、それで相続権がまわって来た。
最初は「会社を別の人に任せて俺は自由に生きるぜ」なんて思ってた。
しかし、それと同時に父親が抱えていた多額の借金もついて来た。
ちゃんと確認しとけばよかったと後悔したね。
もちろんそんな状態じゃ大学も退学しないといけないし、そこから死に物狂いで働き周りの人の意見を柔軟に取り入れて1流企業って呼ばれてる会社の取引に成功したり色々やってたらこんなに大きな会社になったけど仕事がとにかく忙しい。
プライベートの時間なんて無いに等しいし、仕事ばっかりしてたおかげで彼女いない歴=年齢だし、今から結婚とかしようと思うと必然的にほとんどお金目当ての人ばっかりになる。
もう今となっては誰かと付き合うのが面倒って考えるようになって、誰かと結ばれたいとかの願望は失せた。
弟とか妹とかは俺が血と涙を流しながら稼いだお金を使って遊んでるし、母さんもずっと旅行してるし、家にはほとんど何も置いてないのに空き巣に入られるし最悪だよ。
もう社長辞めようかな・・・・・・
そんなことを考えてると自室のドアが開く。
秘書が何やら書類を持ってきた。
異常な量だ。
「社長、上申書と計画書と定期報告書です。あとこの指示書にサインして頂けますか?」
なんでトップの所に希望をだす上申書が来るんだよ!
もうさぁ部長クラスに出してよ!
色々と忙しいし、今すぐ逃げ出したいよ!
仕方なくサインしてるとさらに追い討ちをかけてくる。
「社長、明日アメリカに出張ですので」
えっ?
聞いてないんだけど?
いや待て明日だと、そんなトップが知らない事なんでやってるんだ?
「秘書君?それ今日初めて言ったよね」
「はい、そうですが何か?」
少し待ってくれ、こんな当たり前みたいな雰囲気出されてるが、異常だよな。
「でも労働ビザ取ったの?」
「はい、とっくの前に済ましてあります。ではその書類よろしくお願いします」
はあ、なんなんだよ!
会社受け継いだ時は借金がヤバいって状態だったのに、
借金返したら楽になると思ったのに金あっても仕事量一緒だし、
まったく親父、なんで俺に継がせたんだよ!
嘆いても現状は変わらないか・・・・・・はあ、タバコでも吸うか。
胸ポケットからジッポを取り出しパチン、
と音を立て蓋を開けてボッ、といい音を立てて火をつけた。
その火でタバコに火をつけた。
タバコに火をつけた後もその火を眺めながら嶺二は思った。
そもそもタバコ吸い始めたのは借金がなくなったが
会社でのストレスで疲れていたからだ。
お金は余裕できたし吸うか、
てところから吸い始めたんだったな。
今は少し量は減ったがこのジッポは、5年毎日使ってるから
傷とかできて味が出てるな・・・・・・
パリン
背後にある社長室の窓ガラスが割れる音がすると
同時に左胸に激痛が走り口に咥えてたタバコが
ポトリと音を立て床に落ちた。
息が出来ない。何が起こったんだ?!
痛みの走った左胸を触るとそこには2センチほどの穴が空いていた。
自分でも驚くほどすんなりと状況を受け入れてしまった。
そこにあったのは死の恐怖などではなく。
願望であった。
はあ、これだけ頑張ってきて最後は射殺か・・・・・・
クソっ、旅行って物を最後にしたかった・・・・・・
そうして日本のある企業のトップ、嶺二の人生の幕が閉じた。
かのように思われた。
「いててて・・・・・・ここ何処だ?胸に風穴が空いた状態で助かったのか!?」
体を起こすと辺りは鬱蒼と木々が生い茂っていた。
(さっきまで社長室にいたよな? もし運ばれたとしても病院とかじゃないのか?
まさかまだ生きているのを気づかずに山に死体を運び込まれたのか?
いやでも社長室に入れるのは俺を含めて5人だけだが、
ホントどうなってるんだ?)
嶺二は防犯対策を全くしてないわけでは無かった。
社長室のあるビルは、君島商事が所有し、社員または取引相手でないと入る事はできなかった。
社長室は最上階にあり、そのフロアに入ろうとするにはまず専用のエレベータ、ないし階段を使わなくてはならない。嶺二はそこまでたどり着くまでが面倒なので、5階ぐらいの比較的低い階に自室を置きたかったのだが、部下たちの反対によりやむを得ず最上階に設置することを許諾したのだ。
そして社長室に入れるのは秘書を含めた5人だけだ。
つまりここに俺を運んできたのはその者達しかいないということだ。
一番怪しいのは直前まで居た秘書だな。
俺の家族とも仲良くしてたはずだし。
ふと背後に違和感を感じた。
振り向いてみるとそこには他の木々とは何もかも違う大樹があった。
(なんか光ってるし、デカイ過ぎる果実と花あるし、俺の身長ぐらいあるんじゃねぇか。絶対日本にはねぇだろ。いや世界中どこにもないだろ。はぁ、ここどこなんだよ?)
頭を掻いてみる。しかしそこには本来あってはいけない感触があった。
(なんだ?これはコブか?いやそれにしては骨みたいな硬さだ。まさか角か!)
「はあ、なんなんだよ?何すればいいんだよ?」
(でもなんかこの木凄いな。することないしこの木調べてみるか)
嶺二は木のそばに寄り割れた果実をよく見てみる。
「これは! 種が本来あるところが凹んでる。いや驚くべきはそこじゃない、
その形が今の俺の大きさや体型と同じだ」
そして一つの可能性が思い浮かんだ。
「俺はこれから出て来たのか? 確かに起きた時上から投げ出された様な感じだったしな」
(もしそうだとしたら俺は植物になったのか??
訳がわからん?!)
自分の体を見る。
そこには小柄な裸体があった。
だが注目すべきはそのじゃない。
股に本来あるべきものが無かった。
「ど、どういうことだ? 体格も縮んで、性別もわからなくなってるだと!!」
混沌の渦の中にいるというのはまさにこの事だと言っても過言では無いだろう。
「何が起こってるんだ?全くわからない」
君島は迷った。
「人目は気にしなくてもいいんだが、流石に裸は不味いよな」
服作るか。でもそんなの作ったことないし。なんか腹減ってきたし何か食べるとするか。
ひとまずツタとそれについていた葉で本来陰部があるべきところは隠した。
まるで原始人だ。
さてじっとしてても意味がない。
少しでも今の状況を把握するために周囲を探索するか。
動こうとした時。
唐突に甘い香りが鼻孔をくすぐった。
「この匂いは! 赤葡萄のような芳醇な香りにそれでいてメロンのようなみずみずしい香り。これはどこから?」
香りを辿るとそこにはさっきの果実があった。
「さっきまで何の匂いもなかったのになんで急に・・・・・・それより今は食べてみたい」
もちろんスプーンなんかもないし手で掬って口の中に放り込んだ。
その瞬間マンゴーのような甘さに後味にキウイやパイナップルのような酸味がくる。
香り、味と共に色んな果物の長所を掛け合わせた、そんな感じだ。
美味い! 甘み、酸味が全身を駆け巡るようだ。
前世では忙し過ぎてほとんど味なんて感じなかったからな。
せっかくの会食でも緊張して何食べてるのかわからなかったし)
「異世界に来てこんなに美味しい物が食えるなんてな」
でも俺ってこれから出て来たかもしれんのだろ。じゃあ俺って植物なのか?
まったくもってわからん。
見るからに俺とこの果実と成分が違うんだが。
あまりの激痛でその場で倒れ込んだ。
うっ! なんだか頭が痛い!
また死ぬのか・・・・・・
死ぬかと思いきや、少しばかり強い頭痛だったみたいだ。
地面に寝そべっていた身体を起こす。
しかし、倒れる前と後では状況に天と地ぐらいの差があった。
頭の中に異物が入ってきたのだ。
例えば『魂の維持』『エフェクトの授与成功』などが入ってくる情報の中に垣間見えた。
(それよりなんなんだよ?これはさっき食ったのが原因でこうなったのか?
まあでも情報が手に入るならありがたいが、
それにしてもさっきの頭痛は死ぬかと思った思うレベルでヤバかった)
「よかった。もう死ぬのは懲り懲りだからな」
そうため息を吐きながら死の恐怖からの解放された生の実感を噛み締め、
そのことに安堵した。
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