疫病神と一匹狼
少し悲しく切ない物語になっています。最後まで楽しんで読んでいただければ幸いです(*^-^*)
昔々の物語。それは,一匹のオオカミと小さな少女のお話。
あるところに,一匹のオオカミが居ました。オオカミは夜より真っ黒な毛をしており,瞳は金色に輝いていました。オオカミは森の奥深くで,静かに狩をしながら暮らしていました。
のどかな場所に小さな村がありました。村は畑や家畜などを育てながら,平和に暮らしていました。そんな村に,一人の少女がやってきました。少女は雪のように真っ白な髪をしており,瞳は空のように綺麗な青でした。しかし,村人はそんな少女を気味悪がりました。白くてまるでお化けのようだと村人は誰も少女に近づきません。それでも少女は,一生懸命に村の人たちと仲良くしようと努力しました。おかげで,少しずつ,少女に話掛けてくれる村人もちらほらと出てきたのです。
それから,事件が起こりました。村の家畜や畑などが荒らされていたのです。そんな,日が続いたある日,村の子供が行方不明になりました。そして,見つかった子供は見るも無惨な姿になるまで,ズタズタに引き裂かれて殺されていました。それは,鋭い爪や牙で引き裂かれたようでした。
「これは,オオカミの仕業かも知れんな・・・・。」
「絶対に見つけて仕留めてやる!」
「そうだな,村の全員で協力しよう!」
「それにしても,どうしてこんな急に子供が襲われたりしたんだ・・・?」
しばらくの沈黙が流れた後,村人は近くに居た少女をギロリと睨み付けました。少女は怖くなり,少し後ずさりをしてしまいました。すると,意地悪で有名な村人が出てきて,少女に言いました。
「そうだな。お前が来てから村の畑や家畜が荒らされ,子供まで殺された。」
「お,おい・・・・,小さい子に何もそこまで・・・・。」
「お前らだって,本当はそう思ってるんだろ?」
その場に居た村人は黙り込んでしまいました。少女は悲しくなり,涙を流しながら,走り出しました。走って走って,森の中へ入りました。気がつくと,小さな花畑にたどり着いていました。そのまま,膝から崩れ泣きじゃくっていると,少女は不意に何かの気配を感じました。少女が木々の暗闇に視線を向けると,そこには怪しげに光る目がありました。
「だ,誰?」
光る目の主は,ゆっくりと暗闇からその姿を現します。
「人間か,とっとと,家に帰れ。」
オオカミは,鋭い牙をむきだし,無愛想にそう少女に言い放ちました。少女はオオカミが言葉を発した事に驚きましたが,グッと唇をかみ締めると,プイッとそっぽを向いてしまいました。
「いやだ。帰らない。」
言うことを聞かない少女の前に立ち,オオカミは牙や爪を突きつけます。そして,脅かすようにこう言いました。
「いいか。俺は今腹が減っているんだ。早くこの場を去らないなら,お前を喰うぞ。」
少女は,泣きながらオオカミに言いました。
「いいよ。食べても。」
オオカミはそれを聞いて驚きました。
「私は,もう,帰りたくない・・・。」
「な,何を言ってるんだ。親や友達が・・・・」
「いないよ,そんなの。一人だもん。ずっとずっと・・・。」
そのまま,少女は黙り込んでしまいました。オオカミは少女を自分の尻尾で包み込むと,優しく,少女を慰めるように言いました。
「大丈夫だ。また,ここに来てもいいから,今日は家に帰れ。」
「ほ,本当に?」
「ああ,俺が相手をしてやるさ。」
少女は嬉しそうにニコッと笑うとスッと立ち上がりました。
「ありがとうオオカミさん。じゃあ,明日もここに来るね。」
そして,手を振りながら,森を出て行きました。一人残ったオオカミは,不思議な気持ちを抱きながら,深く暗い森の奥へと戻って行きました。
村へと帰ってきた少女は,家に戻り,ご飯を食べ,明日,あのオオカミに会えるのを楽しみにしながら眠りに就きました。
次の日,外が騒がしいので少女は目を覚ましました。身支度をして,村の人たちが集まっている方へ行くと,大人たちが険しい顔つきで何かを話していました。話しの内容を聞こうとした少女でしたが,すぐに追い払われてしまいました。自分の家に戻る道で,村の子どもたちが少女の周りに集まってきました。
「ちょっと来いよ。」
子どもたちに手を引かれて半ば強引に少女は森の湖の近くへと連れて行かれました。
「どうしたの?」
少女は不思議そうにその子たちへ問いかけた次の瞬間,少女は湖の方へ倒れます。
「へっ?」
ドポンッ
水しぶきと共に少女は湖に落ちました。幼い少女は,深い湖で溺れながら,助けを求めます。
「た,助けて!」
必死に手を伸ばしますが,誰も助けてはくれません。それどころか,子どもたちは少女に冷たい視線を送り,近くにあった石を投げつけました。少女は石を当てられ,額から血が流れ,泣きながら助けを求めます。
「やめて!お願い,助けて!私が何かしたの?何でこんな・・・」
少女がそう言いかけたとき,一人がポツリとつぶやきます。
「疫病神・・・・。」
それと同時に他の子たちも次々と口を開きます。
「お前が村に来たから。」
「友達が殺された。」
「お前なんか居なくなれば。」
「村の皆が言ってる。お前のせいだって。」
「気持ち悪い見た目。」
「化け物。」
その言葉を聞いた少女は全身の力が抜けていくようでした。助けを求めるのも,生きようとするのも,全てがどうでも良くなり,頭が真っ白になりました。そして,そのまま,少女は湖に沈んでいきます。
(なんで?何もしてないのに・・・・。)
少女は涙を流しながら,ゆっくりと深い闇に飲まれていくのでした。
温かい感触がして,少女はゆっくりと目を開けます。そこは,花畑でした。側にはオオカミが少女を包み込んで寝息を立てていました。少女が起きたことに気づいたのか,オオカミもゆっくりと起き上がります。
「ふあぁ~。お前,何であんなとこで溺れてたんだ?おかげで,俺まで毛が濡れたじゃないか。」
少女はポロポロと大粒の涙を流して,オオカミに抱きつきます。少女が落ち着くまでオオカミは,側にいてあげました。
「オオカミさん,私って気持ち悪い?変?」
不安な思いが押し寄せて来て,少女はオオカミにそう尋ねます。オオカミは少し考えた後,こう言いました。
「そうだな。気持ち悪くはないが,お前は変わっているな。」
それを聞いて少女は悲しくなりました。しかし,オオカミはこう続けました。
「普通の人間で白い髪は珍しい。けれども,お前には似合っているし綺麗だと思う。その瞳もだ。それから,俺を怖がらなかったのも変わっている。普通は怖がって逃げ出すぞ。俺は,そんなお前は嫌いじゃない。嫌いならば,こうして側に居ないだろう。」
少女は,今まで気味悪がられていた自分の髪を綺麗と行って貰えて,嬉しい気持ちでいっぱいになりました。自然と涙も止まり,オオカミにこう言います。
「オオカミさんも,毛も瞳もとっても綺麗!」
オオカミは,突然そんな事を言われ,キョトンとしていましたが,やがてケラケラと笑い出しました。少女もつられて,クスクスと笑います。
「俺が綺麗か。本当にお前は変わっているな。」
オオカミも,少女と同じく,綺麗などとは一度も言われたことがありませんでした。オオカミは森の中でずっと一人で生きてきたのです。他の動物には凶暴だと恐れられ,嫌われていました。しかし,オオカミはむやみに襲ったり,食べたりはしたことがありませんでした。そんなオオカミと少女はお互い出会い,喜びを知ったのです。楽しさを知ったのです。
それから,少女は村に帰らず,オオカミと過ごしました。二人で色んなところへ行ったり,色んな物を見たり,それはそれは楽しい日々を過ごしていました。そして,月日が流れるうちに,お互いの話しも少しずつ話すようになりました。そして,ずっとオオカミに聞きたかったことを,少女は聞きました。
「オオカミさん,オオカミさんは村の家畜や子供を襲ったりしてないよね?」
オオカミは,それを聞いて大笑いし出しました。
「あははははは!何で,わざわざ,そんな事するんだよ!そんな事しなくたって,食料なら森に沢山あるって。そんな事してるのは精々狐だろう。」
「キツネ?」
「ああ,キツネは悪戯や困るようなことをするのが大好きだからな。それにしても,子供を襲うのはやり過ぎだな。今度見つけたら捕まえとくか。」
「あ,あのね。私の村の人はね。オオカミさんが犯人だと思ってるの・・・。だから,その,気を付けてね・・・。」
「大丈夫だって,俺は人間に負けるほど弱くはないよ。」
「そうだね。オオカミさんは強くて格好いいもんね!」
二人は,その後もずっとずっと二人で過ごしていました。二人はお互いがとても大事な存在で強い絆で結ばれていました。そして,一年が過ぎようとした頃のことです。ある日の昼頃,少女はこんな事を言い出しました。
「ねえねえ,オオカミさん。」
「何だ?」
「私,オオカミになりたい。」
「それは,無理だな。それに,オオカミになっても良いことなんてないぞ?」
「無理なのは分かってるけど,なれたら良いな~って思ったの。それに,良いことだって,沢山あるよ!
オオカミになったら,格好いいし,綺麗だし,強いし,早く走れるし,あとは,えっと・・・・」
少女が考えてると,オオカミは言いました。
「それを言うなら,俺は人間になってみたい。」
「えー!絶対やめた方が良いよ!」
「だって,人間は自分で物を作ったり出来るんだろ?店とか言うものも面白そうだし,一度見てみたい。」
「ふーん・・・・。」
その話はそこで終わり,その日は行ったことが無かった,森の端まで出かけました。森の端には,珍しい植物が有り,少女は目をキラキラさせながらオオカミと歩いていました。しばらく探検していると,小さな家を見つけました。小さな家からは禍々しい雰囲気が漂っており,オオカミと少女は引き返そうとすると,キィーと鈍い音と共に扉が開きました。中から杖を突いた老婆が出てきて,二人に声を掛けます。
「おやおや,人間とオオカミとは,珍しい組み合わせだ。ひっひひ。」
不気味に笑う老婆に警戒をして,オオカミはうなり声を上げました。
「そう,警戒しなくても,わしは何もせんよ。ひっひひ。久々に誰かと話せて嬉しい。そうだ,わしに出来そうなことなら,何でも一つ叶えてやろう。ひひ。こう見えてもわしは魔女と呼ばれていたからねえ。」
オオカミはこんなにもうさんくさい話しはないと,少女を連れて戻ろうとすると,少女はオオカミを引き留めました。オオカミの耳に小声で話します。
「オオカミさん,噓でも良いから,私,この人にお願いしたいことがあるの。」
「どうしても叶えたいのか?」
「うん。」
「・・・・・。」
少女は老婆に近寄りお願いをします。
「お婆さん,私,一度で良いからオオカミになってみたいの!」
少女がお願いしたのは,先ほど二人で話していたことでした。老婆は笑いながらも何かを唱えます。少女の足下に魔方陣のような物が現れ,光に包まれました。眩しさで,オオカミは思わず目をつむってしまいました。次にオオカミが目を開けると,そこには白銀で空色の瞳のオオカミがいました。オオカミはポカンとしていると,そのオオカミはニコッと笑い,少女の声でオオカミに話掛けます。
「オオカミさん,見てみて!すごいよ!私,オオカミだよ!」
オオカミの姿になった少女はオオカミの周りをクルクルと嬉しそうに回ります。
「さて,そっちのオオカミさんはどうするんだい?」
老婆はオオカミに願いを聞きます。オオカミが迷っていると,少女がオオカミに言いました。
「せっかくだから,オオカミさんは人になってみたら?」
「・・・・。」
オオカミは悩んでいたが,結局人にしてもらえるように老婆に頼みました。老婆はまた何かを唱えると,少女と同じようにオオカミも姿が変わりました。オオカミは,黒髪で金色の瞳の格好いい青年へと変わりました。二人は変わった自分たちの姿に喜び合っていると,老婆がこう言いました。
「いいかい,二人は確かにオオカミと人間に変わった。しかし,戻りたいと思うなら,日没までにここへ戻っておいで。二人一緒にだよ。もし,日没が過ぎてしまうとずっとその姿のままだからねえ。」
そう言うと,老婆は,鈴のような物を取り出しました。
「迷いそうになったら,この鈴を鳴らすと,ここまで案内してくれるからね。」
老婆はそう言い終え,二人に鈴を手渡すと,笑いながら家の中へと戻って行きました。そして,老婆が消えると,突然,家も姿を消してしまいました。少女とオオカミは不思議に思いながらも,明日の日没まで,この姿を満喫することにしました。
「オオカミさん,私,森の中をいっぱい走り回りたい!」
「危ない物には近づかないと約束出来るか?」
「出来る!あのお婆さんの家のところで待ち合わせね!行ってきます!」
少女は勢いよく森の奥へと走って行きました。森に取り残されたオオカミはひとまず森を出て,人里を探しました。そして,生まれて初めて人間の住む場所へ訪れたオオカミは今まで見たことの無かった物に夢中になりました。一方,少女はオオカミの体で森中を駆け回りました。走って走って,色んな物を見て,すっかり夢中になっていると,不意にある動物を見つけました。そう,キツネです。
(そう言えば,前にオオカミさんがキツネは悪戯好きって言ってた。捕まえた方が良いかも!)
キツネの動きは素早く,すぐに走り去っていこうとします。少女は慌ててキツネを追いかけます。見失わないように一生懸命追いかけていると,あることに気がつきます。それは,少女が居た村の近くまで来てしまったのです。引き返そうとすると,村の人が何かをしているのが見えました。どうしても気になってしまい,少女は木々の影から様子を見ます。
(何してるんだろう?)
オオカミは一通り色んなところを見て回り,人里を満喫しました。慣れない人の体では色々と大変でしたが,それでも,楽しむことは出来ました。
日没が迫る頃,オオカミはあの老婆の家へと向かいます。何とか,頑張り,家へとたどり着いたオオカミは少女がまだ来ていないことに気がつきます。丁度老婆が家から出てきて,オオカミは少女のことを尋ねました。
「お婆さん,あの子はまだ来ていないのか?何かあったのだろうか?」
老婆の顔をよく見ると,老婆は笑っておらず,悲しげな表情でオオカミにこう告げました・・・。
あるところに村がありました。その村は家畜や畑が荒らされ,更には村の子供が次々と殺されていました。村の人たちは,オオカミがそれをやったと思い。その原因を一人の少女のせいにしました。しかし,少女が行方不明になっても,それは続いたのです。そして,村人は,オオカミを退治しようと考えました。村近くの森の中を探したりしましたが,一向に見つけることは出来ませんでした。しかし,ある日のこと,森の中からこちらを覗いている一匹の真っ白なオオカミを見つけました。村の人たちは気付かないふりをしながら,こっそりと,オオカミを取り囲み一斉にオオカミを殴り殺しました。そして,その晩のこと,村では盛大にオオカミの死体をつるして宴を開きました。そこへ,一人の青年が尋ねてきたのです。村の人たちは,その青年を快く歓迎し,宴に混ぜてあげました。
そして,その日の夜に,跡形も無く村は燃え,村の人は一人残らず死にました。村の人が死ぬ間際に見たのは,真っ赤に燃える炎の中,一人の男が白いオオカミを抱き抱えている光景でした。男の目からは大粒の涙がこぼれ,その涙はオオカミの真っ白な毛へ落ちていきます。
その男の目はまるでオオカミのように鋭く金色に輝いていたそうです・・・・。
疫病神と一匹狼を最後まで読んでくださりありがとうございました(*^-^*)いかがでしたでしょうか?感想やアドバイス等お待ちしていますので,よろしくお願いいたしますm(_ _"m)