日刊怪異新聞
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トイレに血溜まり
2020年4月9日、午後6時ごろ、買い物帰りの赤井さん(33)が近場の公衆トイレに入ったところ、男子トイレの個室の床に夥しい量の乾いた血が付着しているのを発見した。
事件性が高いと考えた赤井さんはすぐに警察に通報した。
現場維持の観点からその個室を利用すべきではなかったが、男子トイレ内には一つしか個室がなかったため、赤井さんは、警察が駆けつける前にそのトイレを利用することにした。
午後6時10分ごろ、個室の扉を閉めたときだった。コンコン、と扉がノックされた。誰かがトイレに入ってくる気配はなく、突如のことだったので、「怖かった」と赤井さんは語る。しかし、ただ、血痕に意識がとらわれて気付かなかっただけだろうと思い直し、「すみません。今、利用中です」と返答した。
それに対して相手は、「できるだけ、急いでくれませんか?」と答えた。二十代ほどの若い男性の清涼感のある声だったという。そのことに安堵を覚え、「はい」と赤井さんは返事をし、その場で用を足そうとした。
そのときのことだった。「できるだけ、早くしてくれませんか?」と再び、扉の外から声が聞こえた。
「待ってください、すぐ出ますから」と返答をしたが、相手の落ち着いた様子の声からは便意を我慢しているようには思えず、不審感を覚えた。どうして、そんなに急いでいるのだろう。そんな疑問が膨らんでいたとき、扉の向こうから声がした。
「早くしてくれないと、警察が来ちゃうじゃないですか。その中の、血、拭き取らないといけないんですけど」と。
赤井さんは、警察が来るまでトイレを出なかった。パトカーのサイレンが聞こえてきたとき、「覚えてろよ」という声が聞こえ、扉の前の何者かは立ち去ったのだそうだ。
鈴の音に違和感
2020年1月30日、午後4時ごろ、鹿児島県鹿児島市の路上で、市内の小学生、高島くん(11)が腹部をなんらかの刃物で切り付けられた状態で発見された。
通りかかった主婦の竹中さん(46)によると、高島くんはすでに意識はなかったのだという。竹中さんが通りかかったときには、路上に倒れた高島くんの隣に女性が屈みこんでいて、彼女は警察への通報をしていた。鼻の下に大きなほくろがる、四十代と思われる女性だった。
竹中さんは、その女性に駆け寄り、「なにがあったんですか」と聞いた。女性はひどく動揺しており、「わかりません」と繰りかえすだけであった。
ちゃりん、ちゃりん、と女性が動くたびに鈴のような音がしたという。
竹中さんは高島くんの腹部を手で押さえ、何度も呼びかけた。高島くんは目を覚まさない。救急車が到着して、病院に搬送されたが、その後、高島くんの死亡が確認された。
そんな騒ぎの中で、初めに高島くんに寄りそっていたはずの女性がどこかにいなくなってしまった。そのため、便宜的に、竹中さんが第一発見者として警察への情報提供をおこなったが、警察は、現在も本当の第一発見者の女性を探している。
同日、午後9時ごろに現場付近で見つかった血の付いた包丁には、鈴のキーホルダーが取り付けられていたからである。
次、停まりません
2020年2月10日、午前7時半ごろ、愛媛県松山市内を走るバス車内で、高校生の本田くん(15)がスマホのディスプレイからふと顔を上げたところ、窓の向こうに見知らぬ街が広がっているという事件が発生した。現代の住宅街であったが、目にしたことは一度もなかったという。
本田くんは乗り過ごしたかと思って、すぐに停車ボタンを押したが、「次、停まりません」と無機質な男性の声がアナウンスした。
「停まりませんって、なんだよ、ってイラっと来て、運転手の方を見たんです」。そのとき、本田くんは、バス車内に自分以外誰も乗車しておらず、運転手もいないことに気がついた。バスは独り手に走行し、朝の清々しい住宅街を進んでいたのである。
目の前で起こっている不思議な現象に心細くなり、怖くなってきた本田くん。その現実から逃げるためにスマホゲームをしようとディスプレイを見つめたが、ガタン、と車体が揺れた。
そこで、顔を上げ、さらなる異常に気が付いた。車内に、さっきまでいなかったはずの乗客が出現していたのだ。いつのまにか吊り革を握る人がいるほど満車となり、彼ら全員が本田くんのことを虚ろな目で見つめていた。じぃっと。
「怖いなんてもんじゃないです」と語る本田くんは、停車ボタンを連打した。次、停まりません、次、停まりません、次、停まりません……。
事件は結局、本田くんが気絶したことによって収束した。目が覚めたら、高校の最寄りのバス停にいた。「これから、バスに乗るとき、次、停まりません、って言われるんじゃないかって思うと……」と、本田くんは停車ボタンへの恐怖を語る。
本事件は調査中だが、類例は発見されていないため、安心して停車ボタンを押してもらいたい。
ピクトグラム、走る
2020年2月15日、午前10時ごろの出来事である。福岡県内に在住の主婦である山田さん(37)が、自宅近くのスーパーマーケットで買い物をした帰り、交差点の赤信号で立ち止まったところ、信号機の青信号のピクトグラムが走るポーズを取っていることに気がついた。
「青信号って、あれでしょ、のんびりと歩いているおじさんのピクトグラムでしょう?」。そう山田さんは感じたのだが、実際にその場に遭遇してみると不思議なことに、自分の方が間違っているかのようにも感じた。
赤信号から切り替わって青信号になったとき、山田さんは、なんとなく小走りになってしまったのだという。
それから、山田さんは、「なにかに追われているような気がして、うしろを振り向くことができなくなった」と語る。交差点を渡りきってからも何者かの気配を背後に感じ、自宅まで小走りに駆けた。自宅に辿りつくまでにはもう一つ信号があったが、その信号機の青信号も、走るポーズをしたピクトグラムになっていた。
「逃げろ」と警告されているようにも思えてきて、ひどく動揺したことを山田さんは認めている。
走るピクトグラムは、全国で確認されている怪異だ。この怪異に遭遇した場合、なにが起こっても走らずにゆっくりと歩くのがいいと言われている。走ったら、追われることになるのだから。得体のしれない、何者かに。
強力なノリの仕業
2020年3月29日、午後4時ごろ、愛媛県内の自宅で折り紙で遊んでいた小学生の希子ちゃん(8)が、誤って右手の親指と人差し指をのりでくっつけて指が離れなくなっているところを、希子ちゃんの母親、佐和子さん(45)が発見した。通常のスティックのりであったが、瞬間接着剤ほどの強力さであったという。
佐和子さんによれば、目を離した隙のほんの一瞬の出来事であった。佐和子さんはすぐに希子ちゃんの右手をお湯で洗ったが、指が離れる兆しはなく、希子ちゃんは激しく泣き始める始末であった。指の間に固まったのりをナイフで切ろうともしたが、希子ちゃんが泣きながら暴れたため、希子ちゃんに刃物を近づけることは困難であった。
「このままでは、まずい」と慌てた佐和子さん。どうすればいいかと思案を巡らしているうちに、問題のスティックのりを踏んずけてしまい、ケースを割り、中身ののりが足裏に付着してしまった。佐和子さんは、フローリングの床に固定されて動くことができなくなった。
「しかも、動かないでいるうちに、どんどん、足裏から体が固まっていくような感じがした」とも述べている。
佐和子さんも、希子ちゃんも、のりが付着した部分から固まり始めて、さらに、その部分が白へと変色していった。そして、とうとう、全身が固まり、全身が真っ白くなってしまったのだという。
翌日30日の早朝、佐和子さんと希子ちゃんは、愛媛県内の衣料品店でマネキンとしてのバイトを始めた。「それしか、生きる道はなくなった」と諦めるしかない二人の運命が悲しい。
死体はどこに?
2020年2月1日、午前11時ごろ、東京都新宿区の高層マンションの足元の歩道で半径1メートルほどの血溜まりが発見された。
第一発見者である主婦の加藤さん(46)によると、水風船が弾け飛んだかのように血液が路上に飛び散り、その血溜まりはうつ伏せになった人間の形を囲んでいたのだという。朝の通勤ラッシュ時には人々が溢れる路上だが、午前11時ごろとなると、通勤ラッシュは過ぎており、かつ、ランチに出かけるサラリーマンもまだ出てこない時間帯のため、そのとき現場には誰もいなかった。
加藤さんは、パニックになりかけたが、かろうじて警察に通報はした。
現場の状況を見る限り、飛び降り自殺であると判断するのが妥当だが、しかし、肝心の死体が存在しない。死体だけが現場から消失したかのようである。
警察も、不可解な現場に困惑し、事件性を考えて、現場付近に『厳戒注意、あなたは見られています』という看板を立てただけであった。
一般には、40メートル以上の高さから落下すれば、まず助からないと言われている。今回の高層マンションの屋上は80メートルであるため、助かる見込みはゼロと言って間違いない。
しかし、繰り返すように、死体は消えた。都内では、昨年の11月ごろから、飛び降り自殺をした人間がのっそりと起き上がって、なんでもないかのように現場を立ち去っていくという怪異が噂になっている。飛び降り自殺をしたはずの何者かは、今も、日本のどこかを彷徨っているかもしれない。
エアコン設定、50度
2020年3月26日、午後6時ごろ、宮崎県内の市営住宅の一室で同室で生活を送っていた和歌山さん(67)がリビングのソファに仰向けに寝転がって死亡しているところを、同室に見回りに来ていた民生委員の女性(33)が発見した。
民生委員の女性は、午後5時45分ごろに和歌山さんの部屋の玄関ベルを鳴らしたが応答がなく、そこで、ぐるりと回ってベランダの窓から室内を覗いた。そのとき、ソファに寝転がったまま動かない和歌山さんを発見し、管理人の男性から鍵をもらい、彼と一緒に和歌山さん宅に入室し、和歌山さんが死亡していることを確認した。
顔が真っ赤になっていて、すごい量の汗をかいていたという。同日、その地域は最高気温が19度であったにもかかわらず、病院での検査によって、和歌山さんが熱中症で死亡していたことが明らかになった。
和歌山さんの知人は、こう語る。「彼が語ってたんですよ。エアコンが壊れかかっているとかで、50度設定になったりするって。でも、そんなの、ありえないでしょう? だから、真に受けてなかったんですけれど、案外、それが真実だったりして」。
警察の調査によれば、当日、午後3時ごろから5時ごろまで和歌山さんの部屋のエアコンが作動していた。何度設定になっていたかはわからないが、当然、50度という設定はできない。午後6時ごろ、民生員の女性が部屋に入室した際には、やはり、室内はさして温かくもなかったという。
真実のほどはどうあれ、エアコンの殺意を掻き立てないように気を付けるべきかもしれない。
SOSは突然に
2020年3月6日、午前10時前、埼玉県埼玉市に在住の渡辺さん(73)は市内へと散歩に出かけた。毎日同じルートを散歩する習慣があり、この日も、いつもと同じルートを無意識になぞって進んでいた。
商店街を抜けて、公園を横切ったときのことだ。公園内にミミズの大群がいるのを見つけたのだが、地面に三つのまとまりがあり、そのまとまりが丁寧に文字を浮かび上がらせていた。SOSと。「全部で、50匹くらいはいたかねぇ。あんなの、ありえないでしょう。子供のいたずらなんでしょうけれど、いやぁ、今の子供ってのは、奇想天外なもので」と驚きを通り越して呆れた胸の内を明かしている。
しかし、それだけではなかった。公園を出て、住宅街を進んでいると、路上に三匹の猫が寝転がっているのを見つけた。それぞれが文字のような形で寝転がっており、左から読むと、SOSと読むことができた。
「さすがに、これはいたずらとは思えなかったんで、すごい偶然もあるものだなぁと」、そう、なんとか呑み込むことにしたのだが、まだ続いた。
空を飛んでいく小鳥の群れが、SOSという奇妙な隊列を組んで飛んでいるのを目にした。「そんで、決定的だったのが、カラスですよ」。渡辺さんが言うには、そのとき、電信柱に停まった一匹のカラスが身体を揺り動かしながら鳴いた。「SOS!」と聞こえたのだという。
不可解な運命に怒り
2020年1月3日、午前9時45分ごろ、宮崎県内の神社にて、同県在住の自営業、山本さん(34)が友人ら数人と共にくじを引いたところ、『怒』という不可解な文字を引く事件が発生した。
友人らはそれぞれ、『吉』や『凶』などと変哲がなかったが、山本さんだけ、『怒』であった。山本さんが神社の関係者に相談したところ、くじの中にはそのような文字は存在しない。くじを印刷している企業にも問い合わせてくれたが、そのような文字の印刷はおこなっていないのだという。
「そりゃ、不気味ですよ」と山本さんは不快感を露わにする。「毎年、大吉を引いていたのに、なんだって、急に、怒、だなんて」。山本さんには誰かに恨まれるような心当たりはない。どうして神様の怒りを買わなければいけないのかと納得がいかない様子だ。
山本さんが引いた『怒』には、以下のような説明文が付随されていた。
『汝の行いは許されざるが故、此処に罰を与えむ。神の逆鱗に触れし汝は、不幸の深みに堕ちる運命なり』
2月3日のことである。山本さんによるパワハラを訴え、山本さんが経営する会社に勤める従業員の約半数に当たる17名が同時に辞職願を提出した。山本さんは現在、その対応に追われており、本業の仕事には手が回らない状態である。
もしも『怒』を引いたなら、我が身を振り返るべきかもしれない。
ピーー、規制か
2020年、3月18日、昼過ぎ、北海道に在住の小学生、佳子ちゃん(11)が友達数名と一緒に近所の公園で遊んでいた時のことだった。
友達の一人である佐紀ちゃんは大人しそうな雰囲気の割に下ネタがきつい。いつも、過激な下ネタを口にして周りを驚かせていたが、よく遊ぶので、佳子ちゃんは佐紀ちゃんの下ネタに慣れていた。
そんな今日、午後3時ごろ、いつものように佐紀ちゃんが下ネタを口にしたのだが、そのとき、ピーー、という修正の音がどこからか聞こえ、下ネタを聞き取ることができなかった。
「なに、もう一回言って?」と佳子ちゃんは聞き返したが、またしても、ピーー、という音によって佐紀ちゃんの下ネタは打ち消されることになった。
佳子ちゃんによれば、「その、ピーー、っていう音が聞こえていたのは、わたしだけだったみたいなんです」という。
その後も、午後5時ごろに解散するまで、佐紀ちゃんがときどき口にする言葉、文脈から見て下ネタだと思われる言葉が、ピーー、と修正された状態で耳に聞こえた。
「ママが規制をかけたのかもしれない」と佳子ちゃんは考えている。
どうも、ありがとう。




