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君と地平線の先へ  作者: ZEAK
 第一章『血に染まった地下世界』
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第8話『終焉』

「行くぞ......!!これで最後だ!」


口調の悪い男が、静かにレインに呼びかけた。

レインは覚悟を決め、男に従う。ゲート内は依然混乱したままである。今、この状況を打破出来るのは恐らく彼ら二人だけだろう。


「機械操作の基本は、簡単ではあるが教えた。

あとは貴様の腕次第って奴だ。いいか、飛空中は決して気を緩めるんじゃねぇぞ。スピードもでるし建物などにぶつかった瞬間には、貴様の体はバラバラだ」

「ああ、分かってるさ。今更恐怖心なんてないよ。

それに、俺たちが失敗したら終わりじゃんか」


男は、先ほどの表情とは違い笑みを浮かべる。


「チッ。相変わらず大口を叩きやがる。恐らく、その装置を訓練なしに扱うのはお前が初めてだ。お前の言っている言葉を信じようじゃないか。くれぐれもガッカリさせるんじゃねぇぞ」


「行くぞ!!」


男の掛け声と共に、レインは勢いよく装置のレバーを引いた。その瞬間、機械は音を唸らせた。

少しずつ、足部が離れているのを感じだ。間違いない。俺は今、本当に浮いている。


「何をしてんだ!!感傷に浸っている暇はないぞ!

早く来い!!」

「分かってる!!」


レインは体幹を前傾させる。身体が軽い。重力を全く感じない。ようやく安定し出したのと同時に飛行出力を最大限に高めていく。どこで、どの様に感じていたのだろう。その感覚は何故か懐かしさすらも感じていた。気づけば身体全体に風を感じていた。2人はゲートの入り口を抜けて街の上空を飛んでいた。


「みろ!!ガキ!この光景がこの街の惨劇だ。

数百年続いてきた地下の歴史の中でもこんなことは初めてだ。一体何故、こんな事になってしまったんだ.......」


下を見ると地下街は、ほぼ壊滅している寸前であった。俺は今までマシンノイド、そいつらの脅威を目にしたことは一度もなかった。


街の方で、7人の集団が連隊を組んで戦っているのを確認した。


「向こうのあの集団は、地上部隊の援軍なのか?」


レインは、不思議そうに問いかける。


「ああ。あれは地上部隊の中でも7人で構成されているエリート集団【Guardi-an】。地上部隊の中でもイザーク司令に腕を見込まれた最強の7人組だ。恐らく.....これで今回の非常事態は収束するだろうな。でも、まさか奴らが出てくるような事態になるなんて誰が思っていただろうか」


「だが、しかしだ。まだ俺たちは人工雨を街全体に降らし、消火しなければ地下の安全は保証されたとは断定できない!中枢部はすぐそこだ!!!身体を上方に傾けるんだ!エネルギー最大出力で一気に最上階へ急上昇させるぞ!」


その呼びかけとともに、環境コントロール室のある最上階へタワーの外壁に沿って飛行する。

強烈なGが全身に加わる。まともに目蓋を開けない。そんな状況ではあるが油断した瞬間に身体はバラバラだ。そんなリスクを抱えながらもひたすら飛翔する。目的はただ一つ、世界を救うために。


「はぁはぁ!俺はたどり着けたのか?!」


「クソガキにしては上出来だ。後はスラスターで窓を破壊するから少し離れていろ!」


3、2、1の掛け声で、窓ガラスは弾き飛んだ。


「行くぞ!ガキ!ここからが本番だ!!」

「おう!!!」


タワーに侵入したと同時に機械のエンジンを切る。それから、すぐさまにコントロール室に向かっていく。


「ちっ!ちょうど今、エネルギーが無くなっちまった。だが、あいにくマシンノイドとの接触が無くってよかったぜ.....。ガキの方もダメか?」


「いや....まだ大丈夫みたい。だけど、マシンノイドと戦闘となったらかなり厳しそうだ」


口調の悪い男は溜め息をつく。


「環境コントロール室は、この階段を登った先だ。

だが油断をするな!マシンノイドが潜んでいるかも知れねぇ!!」

「てか、おっさん。まだアンタの名前を聞いてなかった。教えてくれ!」

「グリードだ。グリード・レンジャー。お前の飛空技術は中々優秀なものだったぜ」

「グリードさん。ありがとう。アンタのおかげだ」

「馬鹿!感謝は生き残ったらにしてくれ!ここだ!着いたぞ。コントロール室だ」


階段を登った先に、大きな扉があった。その扉を、恐る恐る開くと研究室の様な構造になっておりディスクがありパソコンが幾つも置かれている。非常事態のせいかどこも停電しており、どの装置の電源も切れている。大きな一室の真ん中には(NX-01)と書かれてある貯水タンクのような物があり、そこから張り巡らされたチューブが天井へと伸びていた。

きっとこれが、雨をつくるための装置だろう。


「ここだ.....やはりシステムが停止していたな。

電気系統を回復させるぞ。」

「でもグリードさん。何で中枢部には誰一人、残っていないんだ?誰かいてもおかしくは無い筈だ。」


「.......このタワーの地下にはシェルターがある。恐らくこの世界の殆どは奴は知らないだろうが......」

「.....何だって!?だったらお偉いさん方は自分の安全確保のために、俺たちを見捨てて自分達だけで避難したってことかよ!」

「ああ、つまりそう言うことだぜ。上層部のクソ共は俺たちのことを一つも考えてちゃあいねぇ。事態が収束するまでの間シェルターの中に入っているつもりだ。だから今回みたいな事態が起きたんだ。

きっと奴らの侵入を、俺たち地上部隊が知る前に情報は届いていた筈だ。結果、奴らは我先に安全確保している間に情報の遅れが生じちまったんだ」


「それって、あんまりじゃないかよ!!情報が早くアンタ達地上部隊に伝わっていたなら、きっとまだ救えた命はいくらだってあった筈だ!!」

「落ちつけ!!今は雨を降らせることが先だ!終わった後に好きなだけ奴らを殴ってやればいい!」


「分かったよ。抑える.......」


 レインは我に返って、辺りを見回す。電気系統が復活するような物は無いかを。


「グリードさん!あれだ!!あの装置をいじくり回せば復旧するはず!」

「でかしたぞ!ガキ!【Guardi-an】がたったいま残り二体を破壊したとの情報が入った!マシンノイドはもう何処にもいねぇ。あとは人工雨を降らせるだけだ!!」


レインは、複雑に絡まりあってた導線を試行錯誤しながら繋ぎ合わせる。緊張が走る。


「はぁ!!クッソどれだよ!!どれがどうなっているのか全く分からない!」

「ガキ!!俺に変われ!何とかする!お前はこの貯水タンクの元栓を本体に繋げるんだ!」 

「ああ!分かった!!」


混乱の影響で接続が途絶えてしまったため、外れたコードを元栓に繋げ直す。


「ガキ!!導線を全部繋げたぜ!!早く、元栓に繋げて雨を降らせろ!」


レインは、貯水タンクにコードを引っ張る。

そして元栓につなぎ合わせた。

その瞬間、断絶されていた電気系統は復旧し、周辺機器は起動したため貯水タンクは稼働を開始した。


「やったぞ!!これで雨を降らせることに成功だ!この街は助かったんだ!!」


グリードは歓喜した。レインも肩の力を抜き、ほっとした。


「これで......終わったんだ....」



ガシャン...何か落ちる音が聞こえてくる。

扉側の向こうに。ガシャンガシャンと音を立てる。

二人は音のする方向に目を向ける。緊張が手に取れるように伝わってくる。何故なのか、レインは心拍数が上昇している。




「......いやまだだ!感じる......。殺気を感じる...!たぶん....またマシンノイドだ.....」


レインが震えた口調で話し出した。グリードは非常に驚いた様子でレインを見る。


「馬鹿な!?マシンノイドは全員、殲滅した筈だ!!侵入したのは5体。......いや.....まさか.....もう一体何処かに潜んでいたというのか!?そんな.....嘘だ!!クッソ.......後少しだって言うのに!」

「グリード さん。あんたの【戦闘補助支援型外骨格 】は使用できない。奴と闘える術を持っているのは今....俺だけ。....俺は....覚悟を決めるよ......!」


レインは若干震えている。腰にかけられている【天雲五式】を強く握りしめる。やり方は先ほど軽く教わっただけである。高熱展開装置を起動させる。


「待て!レイン!お前じゃマシンノイドを倒せない!エネルギーも余り残ってないだろ!!」


「それはグリードさんだって同じだ!!今戦わないでどうするんだよ!!」

「しかし、レイン!お前はまだ....!!」


「腹はここに来るまでに括っていたさ。こんな状況なんだ!誰かがやらなければ、そこに光は無いんだ!俺は....やる....。誰かじゃない。自分がそう決めたんだ!」


そう言ってマシンノイドに向かってレインは突っ込んでいく。マシンノイドは武器を振りかぶる。レインはすかさず体勢を低くし攻撃を交わそうとする。


「まず、お前の腕をもらう!!」


レインは攻撃を辛うじて回避したのと同時にマシンノイドの武器を持つ方の腕を切り落とそうとする。


体幹のバランスは不安定ではあるが、レインは武器を持つ方の腕に切りかかる。マシンノイド自体の身長は3メートルにも及ぶため頭部には勿論、攻撃が届かない。また、室内での飛行は不利となるため相手のバランスを崩して倒す以外、方法が無い。


(奴と戦うときは時間が勝負だ。長期戦に持ち込むと奴の発する電磁波が人体に悪影響をもたらす。外傷自体はないが内臓などの器官はズタボロだ.....。例え【 戦闘補助支援型外骨格 】を装着していたとしてもな......。)


中年のおっさんの言葉をふと思い出す。そうだ....。

あまり時間をかけることは出来ない。せいぜい一度の戦闘に有する時間は【天雲五式】の起動時間をも考えると3分が妥当であろう。


レインの持つ、赤熱を帯びた刃はマシンノイドの

右腕に振りかぶる。四肢を少しずつ切り落とし、動けない状態にした上で頭部を切り落とす算段だ。


「よし.....!次は、左腕!!」


エネルギーの最大出力を高める。屋内で装置を使用することは不利なことに変わりはないものマシンノイドよりも素早く立ち回りができる為、緊急回避の際に使用される。

....が、エネルギーは既に力尽くしてあった。


「おい!!反応しろ!!このポンコツが!!」


「何をしているんだレイン!!上だ!!上をみろ!!」


大きく上方に飛んだマシンノイドは頭上から左腕を振りかぶる。パワーは人間のおよそ3倍以上と推測されている為、人間の頭部を軽々と粉砕できる力を持っている。レインは何度もレバーを引く。しかしエンジンは起動しない。汗が額から噴き出していく。


「はぁはぁ!!もうダメだ!!間に合わない..........!!」

「レイン!!!!」


レインは、ここに来て初めて死を覚悟した.....

命運尽きたかのように思ったその瞬間のことである。突如、凄まじい起動音が屋内に響いた。猛スピードでこちらに向かって飛翔する。


「しゃがめっ!!」


その合図と共にレインは従う。


ジャンプしたマシンノイドは壁に激しく打ち付けられた。そのままゼロ距離で誰かがスラスターをぶっ放している。それに辛うじて抵抗し体勢を持ち直したマシンノイドに、続いて天雲の鋭い斬撃が飛ぶ。


悲鳴をあげている。

華麗な剣サバキは、マシンノイドの隙を一つも与えることなく人形のように四肢、頭部は体から切り離されていく。それはあっという間の出来事であった。マシンノイドはただ何も抵抗できずに崩れ落ちていく始末である。


(.......この人、相当強い......。)

直感で分かる。恐らくこの男、ただ者ではない。


「シルヴァ隊長!!!」

「間に合ったか.....」


白銀の髪をなびかせた、中性的かつ端正な顔を持つ男。この男こそが【Guardi-an】のリーダー。彼の名はシルヴァ・フォールンスター。

彼の戦闘記録にある対マシンノイド討伐数は優に100を超えている。あくまで確認できた記録であるため実際はそれ以上と予想される。まさに最強を名乗るにふさわしい男だ。


「君たちが、これをやったのか....」


降り注ぐ、一面の豪雨。人々の苦痛や叫び、そして死んでいったもの達を優しく包み込むような雨。

こうして、長かった悲劇の夜はレインとグリードの活躍により終焉を迎えた....。


 第9話へ続く










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