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君と地平線の先へ  作者: ZEAK
 第一章『血に染まった地下世界』
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第1話『奇跡の子』


 かつて、地球には何十億もの人々がそこを住処に暮らしていた。人々は平和が故に、次第に恐怖そのものから目を背けるようになっていった。

しかし、そんな当たり前の日常は突如として終わってしまう。そうだ.....奴のせいだ....。俺たちの仲間はみんなそいつらに殺されちまった!複雑な構造をしたヒト型大量殺戮兵器。俺たちは、奴らをこう呼んでいる。


マシンノイド。


奴らが突如として、上空からあの大きな乗り物に乗って現れた数百年前のあの日から、人類全滅寸前まで追い込まれる時間はそう長くなかった。


やがて生き残った僅かな人類は地上から地下へ生活の場所を変え、その圧倒的な能力差故に抵抗出来ることもなく、マシンノイドたちの恐怖から目を背けるようにただ静かに暮らしていた……。


…………

………………………………

………………………………………………………………



「....か...」

「.........えるか....」

「私の声が聞こえるか?人類の光よ........。

いいか?そっーと目を開けてごらん?」


とある場所のとある施設。

男は、生まれたばかりの赤子に優しく囁く。


「この世界はとても暗くて、こわい世界であるが......人々の中に眠る光はきっとこの世界を照らしてくれる。君は、これからどんな試練が待っていようが私は君の味方だ。だから、君は振り向かず前に進み続けるんだ。何があっても........」


 その瞬間、緊急事態を知らせるアラームが激しく鳴り響き、赤色灯が激しく回っていた。


「機械軍が入ってきたぞー!!」

「ここはもうダメだ!!避難だ。避難しろ!」

突然、隊員の男達の声が聞こえてきた。



「くそっ! まさかこんなときに警報がなるなんて!!」


 一人の男がとある一室で嘆くように言う。


「どうするの....?」


 そんな男に声をかける女。

 彼女の腕には小さな赤子が。激しいアラームが鳴り響くが、赤子はそんなことはお構いなしとすやすやと眠っている。

 女もこのような状況に声を荒上げたい気持ちではあったが、赤子を思い冷静を取り繕っていた。


「……このままじゃ何もできずに俺たちは殺されてしまう.....」

「ええ....」

「だから.....俺たちの子を何処か...ここよりも安全で機械軍の干渉を受けない様な場所に逃すんだ!」

「!! それなら..私達も一緒に逃げましょう」

「ダメだ...。俺たちが、この子と一緒に逃げたところで国外逃亡の罪で処刑される...。君は分かってくれる筈だ。この子は、まだ幼い。だが、いつか機械軍を滅ぼしてくれる立派な強い男になってくれることを俺は信じる....」


 男は女の腕に抱かれている赤子に目を向けた。

 その目は先ほどとは違い、優しい目をしていた。

 女は男の言葉を聞き、悲し気な表情を浮かべる。

 その言葉を理解しているが故に。


「私たちとは離れ離れになるのよ。すべてを託してもこの子が希望となる可能性はとても低いわ....。それに、とても辛い....」

「分かってるさ。これは神に奇跡を願うようなことだ。しかし、それに頼らなければすべてが終わる。ここで終わるなら、その奇跡に頼るしか....ない!!」

「……そうね」


 女は悲し気に赤子の頬を撫でた。


「すべてをこの子に託すなんて、私たちはひどい親ね……」

「そう、だな。まったく....ひどい親だ....」


 男女二人はしばらく赤子を囲み、家族の最後の時間を過ごした。


「よし...準備が整った。この子を脱出ポッドへ乗せよう....行き先は...地球だ」

「でも...あの星はもう機械軍の占領下に置かれているのよ...」

「同盟軍がいる。きっとこの子を助けてくれる筈だ。此処からは遠い星だ。まだ此処よりは監視が行き届いていない」

「そうね...。戦争は以前より激化している。私達が滅ぶのも時間の問題よ...わかった..。この子をその星に逃しましょう」


最後の時間を過ごした二人はすぐさま行動を開始する。

 男の言葉の通り、赤子は事前に用意してあった、赤子専用の脱出ポッドへと入れられた。

 赤子には先ほどはなかったペンダントが付けられていて、まるで両親の形見かのようだ。


「さようなら......私の可愛い子。でも、大丈夫よ。いつか......いつか、その時が来たらきっと会える筈よ...」


 赤子は両親との別れを察したかのようにぐずりだし、大きな声で泣き出した。

 二人はその声を聞き、涙を流す。

 だが、二人は自分たちの本心を抑え、ポッドを閉める。

 声と姿はなくなったが、二人には中の自分たちの子がいつまでも泣き続けていることは容易に想像できた。それを思うとこのまますべてを放棄して、親子三人で……と二人は考えるが、二人の立場がそれを許さなかった。

 脱出ポットは男の合図と共に打ち上って行ったのだった。

 二人はそれを見送るしかない


…………

………………………………

………………………………………………………………



十五年後。とある地下の街。

地下ではあるが、街並みはどことなく中華街を彷彿とさせる。もちろん太陽の明かりはなく、あるのは街のネオンや街灯である。そのため、とても明るい。

また、夜の時間帯になると消灯するようになっていて、疑似的に朝と夜を作っている。人口はおよそ十万人と言ったところか。中枢部になるにつれ、街が発展している。


その街をかき分け、威勢のいい青年が商店街を駆けていく。


「おーい!レインじゃないか?!ははっ、やっぱり。

久しぶりだなぁ!見ないうちに大きくなって!ハイスクールに通い始めたんだってな。飯でも食っていくか?」

「はぁはぁ、八百屋のおっさん!悪りぃ!今急いでんだ!

 今日こそは間に合わせないと次はひと月後になってしまう!」

「よく分からんが、ちゃんと飯を食うんだぞ。

でなければ俺が孤児院の院長にガツンと言ってやる!」

「ありがとうよ!」


後を追うように、同年齢ほどの女の子が追いかけてくる。この娘の名前はヨルネ。幼い頃から付き合い。そういうこともあり、基本的に二人一緒に行動するのが当たり前になっている。学校の休み時間でさえ、一緒にいることもあるほどだ。


「待ってよ!! ねえ!! 待って、レイン! また授業をサボってどこへ行くつもりなの!? こんなことばっかりじゃ働く先なんて見つからないわよ!」


 幼馴染は先を走るレインを追いながらそう叫んだ。

しかし、レインは呼びかけに答えずにひたすら走り続ける。


「はあ! はあ! はあ!」

「はあ! はあ! ふうっ、やっと追いついた……」


 レインがようやく止まり、ついに幼馴染も追いつく。そこはこの地下街の広場であった。

 長く走り、お互いに激しく肩で息をする。

 幼馴染は体力の限界でその場に座り込んでいた。


「学校へ行くといつもこの世界の出来事ばかりの話だ。違う。俺が聞きたいのは外の世界の話なんだ」


 息も落ち着いてきたころ、レインはぽつりと話し出した。

 幼馴染は座り込んだまま、レインを見上げる。


「上層部の人間は外で起きている出来事を俺たちに教えてくれないじゃないか」

「仕方ないわよ。地上は機械軍が占領しているわ。私たちにできることはここへ攻められないようにすることだけ。歴史の教科書にも書かれているじゃない。そんな絶望的な状況で地上の話なんて……。政府の人は私たちが混乱しないようにしているのよ」

「分かってるさ。でも、俺は行きたいんだ」


 レインは鞄から一冊の本を取り出す。


「その本まだ持ってるの?」

「ああ、孤児院の本棚に偶然並べてあった。地上が占領される前のことが書いてある本さ。この街に二つもない本だ。これは俺の宝物だ」

「まさかあんた、それを見て?」

「ああ。知ってるか?ヨルネ。太陽の光はとっても強いんだ。目で見たら痛いくらいだって。雨だってここみたいに規則的じゃなくて不規則で、とっても大変だったんだって。俺はそれをこの目で見て、体験したいんだよ」


 レインは本を強く掴む。


「バカじゃないの!? そんな考えを持っているのはあんたくらいよ! それに地上へ行くということはこの世界では死にに行くってことよ。あんた、死にたいの?」


 レインの主張に幼馴染は怒りを露わにする。


そこに派手な髪色をしたガタイのいい青年達が近づいてきた。

学校のクラスメイトであり、不良だ。

同じく授業をよくサボる。


「おい!落ちこぼれ!!そんな汚ねぇ本なんか手にして何をしているんだよ?!」

「退いてくれ!今は急いでいる。」

「ほぉー?おれを無視するのか?お?......またそんなボロボロの本なんか持ってよ!だからいつまで経っても職業適応試験全部D判定なんだよ!こんなもん!」


広場の地面には、勢いよく本の音が響き渡る。


レインは、鋭い眼光で睨みつける。


「ちょっと!レイン!」

「お、おい!一体な、なんだよこりゃ!」

「拾えよ。お前が捨てたんだろ?!」


レインは、不良に掴みかかる。


「わかったわかった!少しやりすぎたよ!

ゆ、許してくれよおい」


青年達は振り返ることなく慌てて街の方に逃げていく。


「わっはははー!。ざまあみろ!」

「やりすぎでしょ」

「だって面白いじゃん!慌てふためいて逃げていく様がさっ!」


 ヨルネは、暗い表情でレインを下から見つめる。


「レイン。もうやめてよ。

あなたは、あなたは普通の人よ。特別な力を持った人なんかじゃない。もう、地上に上がるなんてこと言わないで」


「だから!そんな恐怖心を持っているから何も行動を起こせず!!!

何かを変えることもなく、死んでいく!それだったら、ただ逃げてるだけじゃないか!!」


『......』




地下街の中心部から大きな音が響き渡った。


「はぁはぁ!間に合った!」




地下街にそびえたった螺旋状の昇降式エレベーターから隊列を組んだ何人かが降りてきた。


「お、おい!地上から帰って来たぞ!」

広場にいた男性が上を見上げる。

それと同時に市民は顔をあげる。


「一体、地上なんかにでで何をしているんだ?」

「あんなの、死ににいくようなもんだぜ。

全く馬鹿げている」



「ねぇレイン。あの人達、危険を犯してまで地上に上がってるみたいだけど、一体何をしている人なの?」

「さぁ、分からない。でも地上のことなら誰よりも知っているはずだ。あとで必ず戻る。今日こそ奴らの正体を暴きに行ってくる!!」


暗闇の方へと、彼らの後を追ってかけていく。


「バカは考えて行動しないから羨ましいわ。ちょっと待ってよー」


そう言って、レインの後を追った。


 第2話へ続く
















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― 新着の感想 ―
[良い点] ストーリーがちゃんと練られていて展開が気になる [気になる点] ただ強いて言うならもうちょいその場の空気や雰囲気の説明をした方がいいと思った [一言] 面白かったよ
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