エンド
敵格闘機がこちらを向き、加速する。
片腕が損傷した、鏡写しのようなお互いの機体。
相手を見据え、加速の伸びない機体を敵に向かい接近させる。
正面からぶつける!!
すれ違いなどさせない。
お互いに腕部を構えた状態でぶつかるように仕向ける。
ただし、こちらは偽装行為。
敵に気付かせず、接近時の自爆を意識する。
前のように、敵機を正面へ導けた。障壁を干渉させて相手の護りを弱くする。
…もう少しで穴があく。
2秒…、1秒…!?
突如、戦闘機が視界に入ってくる。
敵…?みゆきかっ!?
格闘機同士の干渉で弱くなっている障壁に、
みゆきは、自分の戦闘機が持つ弱い障壁を巧みに使い干渉させ、開けた障壁の穴に誘導弾を叩き込んだ。
爆散する敵機と、爆発の勢いに吹き飛ばされ、翻弄されるみゆきとおれの機体。
「かずくん!!大丈夫!?」
みゆきめ、逃げろって言ったのに…。
「ばか。お前が逃げるのが一番だったのに…」
口ごもる。うまく言葉が出ない。
機体が咳き込むように振動する。
加速が止まる。
「…みゆき、悪い。
やっぱり帰れなそうだ。
おまえはちゃんと帰れよ。個人記憶を送る」
「かずくん!!」
みゆきのメモリーとのリンクが確立された瞬間、
彼女と、感情までも繋がってしまったかのような、
彼女から差し出された手が、頬を撫でたような錯覚を覚えた。
機体の浮力が急速に低下してゆく。
「じゃあな!!…みゆき」
機体が雲海へ沈む。
視界が消える寸前に、仰ぎ見た蒼空には、
蒼空を自由に舞うみゆきの翼が見えた。
時おり電光の走る闇の中、機体が風に翻弄される。
格闘機は次々と雷の洗礼を受けるが、障壁はその尽くを弾き返す。
思い出したかのように力場が戻ることがあるが、落下が緩むだけで飛ぶには、機体を持ち上げるには至らない。
障壁は無事、防御はほぼ万全だ。
雲海を抜け出すことはできないが、下になら…。大気の底、地表まで降りられるかも知れない。
戻ることの出来ない大気の底は、どんな世界だろうか?
冒険か…。相手に伝えるすべの無い冒険だけれど。
戦闘の前にみゆきが言っていた、プラントらしきものは、そういえば何だったのか?
…なんだ!?あれは?
浮遊工場じゃない?
…。
もっと大きい!!
まさか!?ほんとうに移動構造物か!!
赤茶に濁った黒い雲の中を、
滑るように泳ぐ巨体。
黄緑色の光を放つ発光体をこちらへと向けて、急速に接近してくる。
見られている…。
目を離せずに最後に見えたのは、
あぎとの如き巨大な開口部がこちらを呑み込もうとするところだ…。
彼女の顔が浮かぶ。
それは…。
……。
-ブラックアウト-
-物語を終わりにしますか?-
(Yes or No)
Yes
「…」
「…ま」
「かずま!!…どうだった?」
おれを覗き込んでいる友人の顔…。
頭がぼやけている。
さっきまで飛んでいたはず?
おかしいな…?
「かずま?大丈夫か?」
…!?、記憶が唐突に戻る。
ゲームの世界だ!!
おれの友人、○○。
あいつと、その情報交換相手の電子生命たちが作っている仮想現実世界のゲーム。
そのテストプレイを頼まれたんで、おれと、ゲーム仲間の幼なじみであるみゆき。
それにみゆきの親友で、おれのGFの角田さん。
3人のゲーム仲間でテストをしているところだったんだ。
「だいぶ混乱してたみたいだけど…、ちゃんと思い出せるかい?」
心配そうな友人、○○に苦笑してしまう。
「大丈夫だよ。思い出してきた。
彼女たちは?」
「大丈夫。今はドク(あらほし)、KYさんたちと話をしているところ(笑)」
テストモニターへの質問か。
いろいろと思い出してきた。
「なあ、○○」
「ん?なんだ」
「感想言うけどな、このゲーム、気持ち悪い。
自分が何をしていたか判らないって、こんなに気持ち悪いんだな」
このゲームで検証しているシステムのひとつ、人格と記憶のパッケージ化。
以前のもの。脳の電気信号をネットワークと接続して操作するシステムと異なり、
ネット上にダウンロードした個人の人格というデータと、ゲームの世界という外部情報を使いその世界に住み、遊ぶ。
まだ共有化したデータをそれぞれの個人に戻すことが出来ないし、いろいろと不具合もあるということだ。
おれの言ったことに、あいつは苦笑いをしている。
「これ、自分も試しているんだよ(笑)
「酒で記憶が飛んだ時に似てる(苦笑)」
「ゲーム中の会話、行動は記録しているから、今から自由に見れるよ。
「まあ、実感が無いから、やっぱり気持ち悪いんだけどな(笑)」
映像室には、
座って映像を眺めながら、時折じゃれあって話をしている、リサとみゆきが見える。
少し離れて、おれの親友、ゲーム馬鹿の○○と立ったまま、覚えのないおれが行動している映像を眺める。
「なあ…」
「うん?なんだ」
映像の戦闘シーンから目を離す○○。
「このゲーム世界の物語。原案はお前なんだって?
「やっぱり例の未来予知か?」
○○は考え込んで、
「う〜ん、たぶんな。
「はっきりはしないんだけど、
世界観に一貫性があるからな〜」
話を続けてゆくあいつ。
「以前に先代(代行者)から聞いた人類史。未来史の記述で見たことはなかったけど、
あってもおかしくない話なんだよな。
「そもそもおれには、あんなお話考えた覚えがない(苦笑)」
「そうか?○○。
前に、ニーヴンのノウンスペースシリーズに、そんな話があるって言わなかったっけ?」
「プラトーの物語だろ?、かずま。
「あれよりは、あろひろしの雲海の旅人だな(笑)
あっちに似てる」
こいつもおれと同じで、興味のあることは何でも見るやつだ。だからこそ話しやすいんだが(笑)
角田さん、みゆきと一緒に、ゲームでやっていた自分たちの行動を見る。
やはり気持ち悪いな。
身体が知らないうちに別のことをしているみたいだ。
これ、ヤバくないか?
おれとみゆき、ちょっとロマンス入ってる感じだ。
「なあ、○○」
「ん?」
「このシステムって、
このゲーム、こういうVRMMOよりも…、
「実は、なりきりのVRMMOとか、大人向けのバーチャルな出会い系ゲームの方がウケるんじゃないか?」
「お前もそう思うか?」
「でもなぁ、出会い系とかのVRMMOではヒットするとは思うけどな、
「なんと言うか…、
バーチャルがリアルへ侵攻してくるというのかな…」
○○は困ったような表情で後頭部を掻く。
「自分自身のリアルと違うバーチャルな出会いや気持ちが、リアルに反映されてこじれそうな予感がな〜。
「恋人同士の心変わりとか、
不倫や浮気を助長しそうで怖いんだよな」
「あ〜。なるほどな」
少しわかる気がする。
おれとみゆきの、
あの会話か…。
幼なじみの関係が消えて、新しいつながりが見えた時、
俺たちが別の関係へ、幼なじみの、兄妹、姉弟のような関係から別のものへと変化するか…。
わからないよな。どうなるかなんて。
角田さんとのことも、
猫又、タマとのことも。
心は変わってゆく。
あいつ、○○のように10年も20年も変わらないやつなんて、そんなにいない。
それに、あいつもゆっくりと変わっている。
あやかしとの交流の中でゆっくりではあるが、確実に変わっているのだ。
みゆきや角田さんと一緒に、まったく記憶にない自分たちの冒険を見る。
全く覚えのない光景。
まるで夢を見ているようだ。
そう。夢のような世界。
それは、とても美しい蒼空の記憶だった。
-蒼空の日記を終了しますか?-
(Yes or No)
Yes
(Story Closed)
(秋の桜子さまよりのタイトルバナー)
秋の桜子さま、重ねてお礼申し上げます。
-◇◇◇◇◇-
−用語解説 あるいは、あとがきのようなもの−
◇ 随伴機、戦闘機、格闘機。
これらは全て無人機である。
完全自動化プログラムの随伴機と違い、
戦闘機、格闘機は、人類の個人記憶と意識がダウンロードされ、操作されている。
肉体(存在しない場合もある)と、人格、ダウンロード前の記憶はバックアップとしてハイランドに保管される。
帰還した際に、ダウンロード中の記憶は統合されるが、
戦闘や事故によりダウンロードされた記憶が紛失して戻らないこともある。
随伴機は、戦闘発生前までの行動記録と、転送された個人記憶を持って帰投することを優先任務とする。
戦闘機、格闘機は、お互いの個人記憶を保管しあうことで、互いの生存率を高めることが出来る。
1機生存すれば、全機帰還したことと同意となると考えることもできる。
◇ 小隊の呼称はデルタ、3機編隊を示している。
敵編隊はロッテ、2機編隊として差別化した。
また、2ロッテはシュバルムとも言うが、ここではシュバルムという呼称は使わなかった。
ロッテ、シュバルムはドイツ式の呼称である。
◇ 浮遊工場は力場か何かで固定され、普通移動させることが出来ない。
迷走プラントは固定機能が故障あるいは解除されており、移動させられるため、
発見後、直ぐにろ獲され、自国領土、ハイランド近くに係留される。
効率の良い資源獲得競争のために、迷走プラントの発見、確保は急務であり、
最優先事項である。
◇ 孤島国家は、ギリシャ文明の都市国家、ポリスを意識して付けた名前である。
イメージとして、雲海を地中海に見立てただけで、それぞれの孤島国家、ポリスにギリシャの都市国家、アテネやスパルタなどの名前が付いているわけではない。
かずまたちの孤島国家の名前は和名のイメージ。
例えば、ヤマトとか、サクラとか。
◆ かずまは、拙作ろーぷれ日記のメインキャラ主人公の親友で、みゆきの幼なじみ。今回の物語の主人公である。
みゆきは同じく、メインキャラでヒロイン。主人公の彼女でゲームオタ(笑)
今回の物語では主人公かずまのヒロイン的な役柄で登場している。彼女はかずまの幼なじみである。
ろーぷれ日記では、彼女がネットに棲息する電子生命体のドクやKYさんと会うシーンは存在しない。
この物語はそういう意味ではパラレルワールドネタ、あるいは時間遡行で消えてしまった時間の流れに位置する。
リサは、かずまのGF。ろーぷれの世界では□さんと呼ばれている。
本名は角田リサ。普通に日本人である(笑)
三人はゲーム仲間で、いつも一緒にネットで組んで、VRゲーム等で遊んでいる。
◆ プラトー(高台)の物語とは、ラリー・ニーヴン氏のSF小説、ノウンスペースシリーズの物語に出てくる宇宙移民による植民地。山脈、マウント、ルキットザット(あの山を見ろ)の、山頂付近の平原の名前であり、その物語。
金星型惑星からそそり立つ山の大地という点では、拙作と全く同じ。モチーフとして参考にさせていただいている。
拙作ではプラトー → ハイランドという呼称を用いた。
自分の世界の改変で、拙作では、ニーヴン氏が山脈を一つ創造したことに対し、孤島としての山脈が点在することとし、
雲海より上部は、ナノマシンによる地球化改造を行っているという要素を加えつつ、オリジナルなお話としている。
◆ 雲海の旅人は、あろひろし先生のコミックである。未完であるが傑作。未読の方は、ぜひ目を通すことをお薦めしたい。
本編主人公である○○が、雲海の旅人の方が似ていると言っているのは、
作中で、この金星型惑星をモチーフにしている開発中のゲームのストーリー進行が、冒険を主としている物語だからだろう。
プラントの目的や存在理由。リバイアサンとは何なのか?
その辺りを指して、金星、型の惑星の世界の、雲海に顔を出す島々を旅して探索をする物語である雲海の旅人を、開発中のゲームに似ていると言ったのだと推測する。
拙作と雲海の旅人とは、SFであること、雲海に浮かぶ孤島があるという点を除いて、世界の歴史や人々の生活。戦闘方法など全く一致していない。
あろひろし先生の雲海の旅人は、SFでありながら、日常的な雰囲気はファンタジー世界や空を舞台とする冒険活劇に近いものとして作り上げられている。
それこそがあの作品の素晴らしい所であり、傑作である所であると、自分は思う。
◇ ふと思いついたことだけれど、
この世界の流れは、おそらくかずまとみゆきとが付き合い始め、
○○との縁が切れてゆき、ろーぷれ日記の主人公○○が、あやかし達とより密接に結びついてゆく世界なのだろう。
それこそが、きつねのきょんの、袋小路の世界ではない世界へと至る道筋ではないかと感じる。
それは強ち間違いではないのかもしれない。
世界というのは、ふとしたきっかけで全く別の側面を見せ、
異世界に迷い込んだかのような気持ちにさせられることがある。
自分はTRPGの世界を通じて、そういう演出をやることが目標であり、夢である。
むかし、TRPGセッションでその世界に指が掛かったのではないかという錯覚を覚えたことがある。
なんにしても、あの時の片鱗は素晴らしい体験だった。
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追記です
今回、第9回ネット小説大賞の企画へ投稿を考えた段階で、
脇役に出てくる拙作ろーぷれの主人公、まだ正式な名前の決まっていなかった彼、○○に幾つかあった候補の中から仮の名前をあてました。つかさです。←正式になるかはまだ不明です。当初考えていたのは四文字で、たかひろ、ひろふみ、その辺りが候補でした。
申し訳ありません。
もともと、ここで終わるお話だったのですm(_ _)m
お話も、劇中劇として使う、開発中のSNSのVRMMOを作るとき、
ユーザーを惹き付けるリアリティーのためには、このくらいは世界設定として組まないと格好がつかないだろうというくらいの作り込みで書き始めたものでした。
応援頂いた方、ごめんなさい(-人-;)
それとも書いた方がいいんでしょうか?
謎のリバイアサンとか、意味ありげに出てくるプラントの設定とかは、一から組む必要がありますね(苦笑)
お楽しみいただけたら良いのですが。
何かございましたら、感想か割烹にお願いいたします。
唯一の心残りは、頭の中にある機体のデザインラフを、ブランクと練習不足から挿し絵として投稿出来なかったことです。
しばらくリハビリしないと、ラフデザインすら書けませんね(;´д`)