騎士の誇り その1
まさに閃光だった。
丘の上にその姿を現したと思った瞬間、アドルの剣が閃き、オーリスに襲いかかった。オーリスはアドルの姿を認め、即座に防御姿勢を取った。だというのに、アドルの剣はオーリスの防御を突き破り、猛烈な斬撃を叩き込んでオーリスを吹き飛ばした。
「アドルかぁっ!」
だが、オーリスはすぐに姿勢を立て直し、槍を構えた。
そのオーリスへ、アドルが突進した。
剣と槍とが交差した。猛烈なスピードで閃く剣と、それを受ける槍。ウィオラの杖を全てさばいて見せたオーリスだが、アドルの剣は重く、受けるのが精一杯だった。
「はぁっ!」
アドルが気合とともに踏み込んだ。アドルの剣が幾筋もの光となってオーリスに襲いかかった。
パンッ、パンッ、パンッ、と乾いた音がいくつも響いた。オーリスの槍が浮き上がらされ、がら空きとなった胴にアドルの剣が打ち込まれた。
バシィッ、とひときわ大きな破裂音がして、オーリスが再び吹き飛ばされた。
「すっご……」
二人の戦いにチサトは息を呑んだ。不意をついたとはいえ、ウィオラが一撃も入れられなかったオーリスに、アドルは幾度も打撃を与え、吹き飛ばした。これが若手ナンバーワン騎士の実力か、と驚くと同時に、もうこれで大丈夫なんだ、とほっとして、気が抜けた。
その途端、チサトの足腰から力が抜け、その場にヘナヘナとへたり込んでしまった。
「ちょっとチサト! 何ヘタレてんの!」
「もう、もう無理ですぅ。一生分の根性使いましたぁ。怖かったよぉ」
「ああもう、泣くな! まだ気を抜くな! とにかくこの場から離れる!」
ガキィンッ、と高い音がした。
はっとして音がした方を見ると、アドルの剣とオーリスが槍が交差し、つばぜり合いの接戦を演じていた。
「アドル、お前、自分が何をしているのかわかっているんだろうな!」
「わかっているさ!」
アドルがいきなり力を抜き、オーリスがたたらを踏んだ。そこへ、アドルの剣が幾筋もの光となって襲いかかった。
パンッ、パンッ、と連続で乾いた破裂音がした。よろめいたオーリスに、追打ちの一撃が繰り出されたが、オーリスはこれをかろうじていなし、アドルに向かって踏み込むと体当たりを食らわせた。
今度は、アドルが吹き飛ばされた。だが、アドルもまた着地と同時に体勢を立て直し、続くオーリスの突きをかわした。
追い打ちを警戒したアドルが防御姿勢を取る中、オーリスは逆に距離を広げた。
「そうか、わかっているのか」
オーリスは兜を脱いだ。その顔に笑みは一切なく、鋭い眼光で剣を構えるアドルを見据えた。
「ならばもはや、何も問わん!」
言い終わるやいなや、オーリスが一気に踏み込んだ。しかしアドルはそれを予想していたのか、絶妙のタイミングでオーリスの顔面に向かって蹴りを入れた。
「相変わらず、足癖の悪いやつだ」
そのアドルの蹴りを、オーリスは手にした兜で受け止めた。
「騎士としての気品を持て。団長にいつも言われているだろう!」
「お前が、気品で勝てる相手かよ!」
アドルの体がふわりと浮いた。足を乗せた兜を支点にして、反対の足で再度オーリスに蹴りを入れたのだ。
しかし、今度はオーリスがそれを予想していた。アドルの足を槍で受け止めると、宙に浮いたアドルを叩き落とさんと、力任せに槍を地面に叩きつけた。アドルは素早く体をひねると、受け身を取ると同時にオーリスの懐に入り込み、突きを入れた。
ガツンッ、と大きな音がして、アドルの剣とオーリスの兜がぶつかった。
アドルの高速の突きを、オーリスは手にした兜で全て受け止めていく。アドルの勢いに押されて下がっていくものの、上下左右から襲い掛かる剣を見極め、すべてを兜で受け止めた。
「なんてやつ」
オーリスの戦いぶりに、ウィオラがうなった。盾に比べて、兜は圧倒的に小さく、その上球形だ。少しでも受け損なえば剣が滑り、アドルの突きを食らう。あのスピードだ、一撃食らえば致命傷だろう。
それを、オーリスは落ち着いた表情で、確実に受け止めていく。アドルが気合の声とともにスピードを上げたが、それでもオーリスは全てを受け止めた。
「そんなものか、アドル!」
突き続けたアドルの動きが、ほんの一瞬止まった。その瞬間、オーリスの槍が突き出され、攻守が入れ替わった。
「それがお前の覚悟か! その程度で王命に逆らうか!」
「サヴァロ公は王ではない!」
オーリスの槍を受け止め、アドルが押し返す。
「サヴァロ公は、国民の総意で王位継承権を剥奪され、王たる資格を持たぬ方。そんなお方の命で、ウィオラの人生を狂わせさせない!」
踏み込んだアドルに、オーリスが手に持っている兜で殴りつけた。アドルはとっさに右足を上げ、その兜を受け止める。
「器用だな、おい」
「足腰は鍛えてるんだ」
アドルとオーリスが再びつばぜり合いを始めた。両足で踏ん張るオーリスに対し、アドルは左足一本。しかし、アドルはびくともせず、震えすらしていない。
「それであの女を守るというのか。騎士としての本分はどうした」
「忘れてはいない。王と国のため、俺は戦う。ウィオラもまた、この国を形作る一人。そんな彼女を救うことは、騎士としての本分だ」
「代議士会の連中が言いそうなことだな。インディに感化されたか。それとも……」
オーリスがちらりとウィオラを見た。
「あの女の色香に惑わされて、ひねり出した屁理屈か?」
「……俺も男だからな。あれほどの美女に言い寄られれば、惑わされるさ」
「ならば目を覚ませ」
「断る」
アドルは即答と同時に剣を引いた。
「同じ手は食わん!」
今度は、オーリスはたたらを踏むことはなかった。アドルが引くと同時に踏み込み、右足を勢いよく蹴り上げた。
「アドルっ!」
アドルの体が宙を舞うのを見て、ウィオラが悲鳴を上げた。オーリスが繰り出した槍がアドルを襲う。アドルはかろうじて槍を避けたが、再び繰り出されたオーリスの右足をまともに食らった。
吹き飛ばされ、地面を転がったアドル。オーリスは追撃ちせず、兜を持ち直し、槍を構えた。
「オーリス……騎士としての気品は、どうした」
「お前が、気品を保って勝てる相手かよ」
「そりゃどーも」
アドルは口の中の血を吐き出し、立ち上がると剣を構えた。




