ここはドイナカ村 その3
お客様は全部で四人だった。
男性二人、女性一人、あと、男の子が一人。
一体誰だろう、とチサトが首を傾げていると、鎧に身を包む男性が、爽やかな笑顔を浮かべて歩み寄ってきた。
「突然申し訳ありません。アドルと申します。騎士です。よろしくお願いします」
「あ、あはい、どうもよろしくお願いします」
差し出されたアドルの手を握り、チサトは思わず頬を赤らめた。
イケメンだぁ……
チサトより少し年上だろうか。チサトより頭一つ大きい。イケメンである。もはやそうとしか言えない、超絶イケメンである。短く刈った金髪、涼やかな目元、素敵な笑顔、しかも、ひ弱な感じは全くなく、握った手はかなりがっしりとしている。全身を覆う、銀色に輝く鎧に包まれているので見えないが、きっと、体もたくましく鍛えられているのだろう。
いやはや、眼福だあ。
そんな風に、チサトがぼんやりアドルの顔を見つめていると、右手から凍てつくような波動が押し寄せてきた。
「ちょっとアドル、いつまで女の子の手、握ってるの」
凍てつく波動の元は、錫杖を持ち、白を基調として赤く縁取りされた、神官の法服に身を包んだ女性だった。
「どうも、ウィオラと申します。ご覧の通り、神官です」
ウィオラと名乗ったその女性は、チサトの手からアドルの手を剥ぎ取ると、代わりに自分でチサトの手を握った。
ぬぉぉぉっ、こっちは美女だぁ!
おそらくアドルと同い年ぐらい、チサトより三、四歳年上といったところか。赤くてサラサラの長い髪に、背が高くスラリとした体型、何よりも整ったその顔。年齢は大差なくとも、美貌という点では天と地ほど、いや、比べるのもおこがましいほどの差があった。
しかも、神官様である。
まさに天使、先ほどアドルを見て思ったことは取り消そう、これこそ眼福だ。
だがそのウィオラが、なぜかこめかみに青筋を立てながら、チサトの手をギリギリと握ってくる。何か怒らせるようなことをしただろうか? まあ、たいして痛くはないのだが。
「インディと申します。えーと、弓使い、です」
続いてチサトの前に来たのは、小さな弓を背負った男の子だ。
え、くぁわいい!
十二、三歳といったところか、チサトの胸あたりまでの身長で、落ち着いて賢そうな子だった。ちょっぴり手入れの悪い黒髪がまた子どもらしい。首元までボタンを閉じた、ちょっとかしこまった格好をしているのも妙に似合う。声変わりはまだなのか、高くて可愛らしい声だ。こんな弟がいたら、めちゃくちゃかわいがるのに、と思わずはぁはぁしてしまう。
「あの、お姉さん?」
「あ、いや、失礼」
おや、私は一体私はどうしていたのだろう。チサトはパンパン、と頬を叩き、気を取り直した。
「ども、エンヤです。拳士やってます。あ、格闘の方ね」
最後にチサトの手を握ったのは、大柄で朗らかな男だった。顔を見るには見上げなければならないほど大きい。インディと並んで立つと、まるで親子のようだ。四人の中では一番年長だろう。長く伸ばした黒髪を紐でくくり、あごには無精髭。着ているのは道着だろうか、軽装でとにかく動きやすそうである。イケメンでもなければ可愛くもないが、旦那にするならこのタイプかもしれない、という安心感がある。
まあ、この人に告られたら、即断るだろうが。
「私たち、王都から来ました」
「え、王都から?」
アドルの言葉に、チサトは思わずウィオラを見た。まさか、この人が新しい神官として、派遣されてきたのだろうか。だとしたら、ついに、ついにチサトの密かな願いが叶う時が来たのではないだろうか。
しかし、そうではなかった。
「政府の仕事で南部の視察に来たのですが、野宿が続いてまして。この村を見つけて、できれば、泊めていただきたいと思いまして」
「あ、ああ、はい、そうですか、そういうことですか。はあ……」
なんだ違うのか、とチサトは内心がっかりした。どれぐらいがっかりしたかと言うと、がっかりし過ぎて、彼らを聖堂に案内することを忘れてしまうぐらいだ。
「チサト」
そんなチサトを見て、カーラが声をかけた。
「とりあえず、中に入ってもらいなさい。皆さんお疲れのようだよ」
「え、あ、はい、そうですね。そうでした。とりあえず皆さん、中へどうぞ」