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温泉へ行こう その1

 翌日も、朝から快晴のお洗濯日和だった。

 チサトは朝食を終えた後、パーティーメンバー全員の洗濯に精を出していた。三日間の五人分ともなると結構な量だった。しかも、粗末なチサトの服と違って、四人とも高価な布を使った服ばかり。下手に洗うと傷めてしまいそうで、チサトは気を使いつつ、えっちらおっちら洗濯をした。


 「いい天気ねえ」


 そんなチサトの背後で、長椅子を出してくつろいでいるのがウィオラである。


 「ウィオラさん」

 「なにー?」

 「できれば見えないところでサボってくれません? 腹立つんで」

 「だってここ日当たりいいし、風通しいいし、最高なんだもん」


 ウィオラが料理をできたことに驚愕し、その料理がまたおいしかったことに呆然としたアドルたち。そんな三人の態度にウィオラはいたくご立腹し、「もう作ってあげない!」とすねてしまった。

 そして、なんの意趣返しか、チサトが働く側で、これみよがしにサボっていた。


 「せめて自分の下着ぐらい、自分で洗ってくれません?」

 「いや」

 「生理痛、おさまったんでしょ?」

 「おかげさまでね」


 昨日、ケイトが処方した鎮痛剤を服用したところ、一時間もしないうちに痛みが治まったそうだ。なんでもケイトが長年の研究の末に作り出した鎮痛剤とのことで、一粒で銅貨十枚とかなり高額だった。

 だがもっと驚いたのは、それを十粒、ポンと買ったウィオラだ。しかも支払いは銀貨。チサトが銀貨なんて見たのはもう何年も前、そんなものを平気で持ち歩くウィオラが信じられなかった。


 「じゃあ、今日もご飯作ってくださいよ」

 「みんなバカにするんだもん。もう作らない」

 「バカになんてしてないですよぉ。すごくおいしかったですよぉ」

 「いーや、した。したかしてないかで言えば、絶対した」

 「あーもう。子供ですか、あなたは」

 「それに、あんた私の弟子でしょ。師匠の身の回りの世話も、弟子の仕事よ」

 「弟子入りした記憶ないんですけど」

 「この前、出発するときに言ったじゃない」

 「パシリ、て言われたのは、よーく覚えてますけど」


 チサトが文句をたれつつタライに手を突っ込み、次の洗濯物を取り出すと、それはまあゴージャスなブラジャーが出てきた。


 「……何食べたら、こんなにでかくなるんだろ?」

 「ワイヤー入ってるんだから、丁寧に洗ってよ」

 「へいへい、オシショウ様」


 厭味ったらしく言ってやったのだが、ウィオラは満足そうに笑顔を浮かべた。師匠と呼ばれたのが嬉しいらしい。


 「師匠を名乗るなら、ちゃんと巫女の指導してくださいよ」

 「今、修行プラン考えてるんだってば」

 「くつろいで本読んでるようにしか見えないですけど?」

 「いちいちうるさいわねー。インディだって本ばかり読んでるじゃない」

 「インディ君のはお仕事です」


 暇つぶしにと勧めた読書だが、蔵書の中に南の山の調査記録があったそうで、インディは目下その内容の確認と分析に当たっていた。かなり詳細な調査記録だそうで、ひょっとしたら現地での作業が大幅に短縮できるかもしれないという。

 ちなみにアドルとエンヤは、昨日に続いて村の御用聞きに出かけた。今日も一日、肉体労働に精を出し、腹ペコで帰ってくることだろう。


 「アドルさんが、ウィオラさんの手料理楽しみにしてますよ。作ってあげましょうよ」

 「……」


 ウィオラは、ふん、とすねた顔で、返事もせずに視線を本に戻した。チサトはため息をつき、気を取り直して洗濯を再開した。

 なんのかんので洗濯は昼近くまでかかった。やっとの事で干し終えた洗濯物を眺めつつ、チサトは手ぬぐいで汗をぬぐった。


 「あー、汗かいた。水浴びしよっかな」

 「ねえチサト。お風呂ってないの?」


 寝ていると思ったウィオラが、チサトのつぶやきを聞いて問いかけてきた。


 「もう一ヶ月近く入ってないのよ。久しぶりに入りたいんだけど」

 「まあ、あるにはありますけど」


 チサトは井戸の向こうに立っている小屋を指差した。


 「あの小屋が、お風呂です。ただし、最後に使ったのは私が三歳の時。今は野菜保管庫になってます。入りたいなら、まずは修理からですね」

 「えー、そうなの? じゃ、村の誰かの家の借りられない?」

 「この村でお風呂があるのは、聖堂だけです」

 「それが使えないじゃない。えー、なに、この村ってお風呂がない、てこと? 信じられない、不潔!」

 「いや、水浴びはしてますって」


 ドイナカ村は一年を通して暖かい。わざわざお湯を沸かさなくても、水浴びできれば十分なのだ。


 「あー、お風呂入りたい、お湯に浸かってのんびりしたい! あんた私の弟子でしょ、なんとかして! お風呂に入れないなら、巫女の修行なんてしてあげない!」

 「無茶苦茶言いますね」


 ウィオラの駄々っ子ぶりに、チサトは呆れて肩をすくめた。しかし、どうも怒る気になれない。今日のウィオラは、なんだか無理してワガママ言ってるような気がしてならないのだ。


 「なら、行きますか」

 「どこに?」

 「温泉です。歩いて一時間ぐらいのところにありますよ」


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