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え?
何、言ってるの?
神は、更に続けた。
「向坂美樹は、何も悪いことはしていない。むしろ、その人生は、人に誇れるものだった。病弱な家族がいた為に、生活が困窮し、苦労していたことをバネにし、人を助ける仕事をしたいと、看護師を目指した。自分は、貧困の為に、いじめられたことはあっても、人をいじめたことはない。誰にでも分け隔てなく接し、看護師の仕事にも誇りを持っていた。まさか、誠心誠意尽くしていた患者の一人からストーカーされるとは思ってもみなかったろう。一方的な恋情に振り回された挙句に、殺された。理不尽な人生だ。これからだというときに…。」
「殺された?」
美樹は、反芻した。
「私は、殺されたの?」
「向坂美樹は、死んだ。」
神は、淡々と答えた。
殺された…。
衝撃は大きかった。
「私は、死んだの?」
でも、それが事実なんだろうと、妙に納得するものがあった。
確かに、あれだけの出血で、生きていられるわけがない。
刃の先は、動脈に届いていた。
看護師の自分は、わかっていた。
私は、助からない。
今、もし、助けが来たとしても、私は、助からない。
あの時、それは、わかっていた。
「私は、死んだ…。」
死んだのだ。
意識が遠のき、記憶が途絶えたあの時に、終わったのだ。
もう、あの恐怖も痛みも感じなくて済む。
全てが終わった。
向坂美樹の短かった人生も。




