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夢が終わらない  作者: K
3/15

3

 暗い。

 暗い。

 真っ暗だ。

 何も見えない。

 あいつの姿も。

 何もかも。

 暗い、黒い世界に、いきなりほおりこまれた。

 何?

 何が起こってるの?

 私はどうなったの?

 いくら目をこらしても、いくら瞬いても、目の前の闇には何も映らない。


 何もかもがわからない。

 そんな世界にいて、何が起こっているのかわからないという不安だけは、認識できる。

 けれども、さっきまで、耐えていた恐怖と痛みはここにはない。

 ただ、耐えるだけのあの時間は、ここにはない。

 傷つけられた身体の痛みも感じられない。

 何がどうなってるの?


 不安は消えないが、痛みがなくなったことで、ホッともしていた。

 でも、次に、この世界が、また夢の中かもしれないという恐怖がよぎる。

 ここは、現実逃避した、ただの夢で、目が覚めたら、また、あいつが目の前にいるのかもしれない。


 気を失っては、気がついた。

 何度も、何度も。

 意識がとんで、気が付くと、激痛と恐怖が待っている。


 あいつは、言った。

 俺を傷つけたからだって。

 こんなに愛してたのに、お前が裏切るからだって。


 愛するって、そんなこと?

 私は、あいつを愛してなんかいない。

 愛したことすらない。

 勝手に、愛してるって言ってきた。

 それを、拒否したことが悪いの?

 私が、あいつを愛さなかったことが、そんなに悪いことなの?

 こんなに、ひどい目にあわされるほど、私は、悪いことをしたの?


 一度だけ、一度だけ、一緒にコーヒーを飲んだ。

 それが、いけなかった?

 それが、あいつを勘違いさせた?

 もっともっと冷たくした方が良かったの?

 何で、一度も好きになったこともない人から、好きだったって勘違いされなきゃならないの?

 私が悪かったの?


あいつのことを、理解できない。

 私にとっては、ただの患者さんにすぎなかったのに。

 優しくしなきゃいけないと、意識して関わった人にすぎないのに。

 傷ついたといって、私を傷つける。

 傷つけるつもりはなかったし、傷ついたことも知らなかった。

 勝手に盛り上がって、勝手に解釈をして、勝手に傷つき、そして、勝手に私を傷つける。

 言葉だけじゃない。

 あちこちから血が噴き出ている。

 私の苦しむ顔が見たいんだ。

 私を、徹底的に苦しめるつもりなんだ。


 怖い。もう、嫌。この暗闇が夢なら、覚めるのが怖い。覚めないでほしい。


 そう思った時だった。


 ?


 何か、音が聞こえたような気がした。

 視界ゼロの状況では、耳に入る微かな音も大事な情報源だ。

 どこから聞こえるのか、聞こえてくるのかわからない。

 けれども、確かに、音が聞こえた。


 音は、何かわからないが、それは、地獄にいる自分へ垂れ下がる、唯一の、光の糸のような気がした。

「誰かいるの?」

 美樹は、声を出してみた。

「誰かいるなら教えて。ここはどこ?」

 返事があるかどうかはわからなかった。

 真っ暗な、これも、あまりに理不尽な世界の中に美樹はいるのだ。

 けれども、しばらく、間があって、美樹は、確かにその声を聴いた。


「知りたいか?」


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