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美樹の中の記憶がものすごい勢いで逆走しはじめた。
そうだ。そう。
あんな怖い目にあったのは、初めてじゃない。
あんな痛い思いをしたのは、初めてじゃない。
何度も、何度も、美樹は、殺された。
「初めてじゃなかった…。殺されたのは…。」
「その通りだ。よく思い出したな。高下。」
「!」
高下?
「お前は、向坂美樹なんかじゃない。高下衛だ。」
高下衛?
記憶が、どんどんさかのぼっていく。
血だらけの床、そこに横たわる不自然に歪んだ身体の女性の姿が見える。どこからか笑い声が響いている。
楽しそうな、本当に楽しそうな笑い声だ。こんな陰惨な光景の中で笑っている人間がいるなんて、信じられない。
「?」
違う。
違う。
笑っているのは、他人じゃない。この壮絶な部屋には、他に誰もいない。
死んだ女性を前にして、心から嬉しそうに笑っているのは、自分だ。自分自身だ。
「高下衛、向坂美樹を殺害した罪で逮捕する。」
手錠をかけられた生々しい記憶、その手は自分の手だった。
「俺は、高下衛?向坂美樹を殺した?犯人?」
「そうだ。」
記憶がすごい勢いで、呼び戻されてきた。
そうだ、俺は、高下衛だ。