導くもの
漁のため一艘の丸木船が海を漂っている。
太陽は沈み回りは真っ暗になっている。
少し潮に流されたらしく陸が見えなくなっている。
「チチ、陸が見えなくなった。帰れるのか」
心配そうに少年はチチに聞く。
「息子よ、心配するな。夜空の星が陸地の場所を教えてくれるのだ」
「夜空の星?」
「そうだ、あの星はいつもあの位置にある。その星を見つければ迷う事はない」
チチが夜空を指差した先には、北極星が光り輝いていた。
三千年後の現代
四輪駆動の乗用車が夜の山道でハザードランプを点滅させて停車している。
中には親子が乗っている。
「パパ、どうしたの」心配そうに子供は尋ねた。
「大丈夫他だよ。少し道に迷ったらしい」
車のカーナビはかなり古く、道路情報が更新されていない。その為旧道に入り込んでしまったようだ。
男はスマホを取り出した。
マップを立ち上げ現在位置を確認する。
「わかった、戻ろう」
「パパ、スマホのほうが利口だね。スマホってどうして道がわかるの?」
息子は男に聞く。
男はドアを開け外に出た。
「ほら、お前も出てきて空を見てごらん。星がきれいだ」
「うん」そういうと子供も外に出る。
回りは人家もなく真っ暗だ。
「いいか、夜空には星が沢山光っている。そして私たちに場所を教えてくれる星があるんだ」
「あっ、知ってるよ。北極星でしょ。学校で習った」
男はにっこり微笑む。
「ちがう。人工衛星さ。私たちの夜空に止まっていてくれて電波を出してくれるんだ」
「そうなんだ」息子はうなずく。
男は運転席に乗り込んだ。
「さー、お母さんが待ってる。出発しよう」
「うん」息子も乗り込む。
男はエンジンをかける。
「ねえパパ、人工衛星も星でしょ。夜空の星は役に立つんだね」
男は大きくうなずく。
そうだ。北極星が人工衛星に変わっただけだ。
何千年もの昔から、私たちは星に導かれている。
男はまた大きくうなずいた。アクセルを踏み、車は夜の道を発進した。