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5.日向の舞姫

7/30 本文を編集しました この回で出てきた登場人物の名前が変更されています

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「ねー、なぎさ。さくや、お腹空いた」

「……。さっき食べたばかりだろう?」

「えー、でも~」

 だだをこねる咲耶に、リィがクッキーを見せる。

「ちょっとしたお菓子ならあるヨ?」

ぱあっ、と表情を明るくする咲耶。

「やったぁ! リィ、ありがと~!」

「どういたしましテ」

そんな2人を見つつ、苦い顔をする渚沙。

「リィ、あまり……」

 リィは、何かを企むように笑うと、からかうように言う。

「あレ? やきもちカ?」

「違うっ!」

「オトーサン、必死だナァ!」

お腹を抱えて笑うリィに、まったく会話の内容を聞いていなかった咲耶は、追い打ちをかける。

「渚沙をいじめないで!」

渚沙は、顔を紅くして、黙るしかなかった。

 小さな小屋に、リィの笑い声が響く。



 ――咲耶達が、新しく増えた仲間と共に旅支度を進めている頃。



 日向(ひむか)の王、小松(こまつ)は、皇帝の前で跪いていた。

「日向の王、聞こえなかったのですか? 皇帝は、其方(そなた)の妹を、鳴海(なるみ)様の生誕祭に、舞姫として招待すると仰せです」

 鳴海は、武公の一人息子の名だ。5日後に、鳴海の誕生日を祝う、生誕祭が行われる。小松の妹は、その生誕祭で舞を踊る役目を任されるというわけだ。

「鳴海様の生誕祭で舞わせていただけることは、とても名誉なことです。しかし、今現在、妹の佐保(さほ)は、体調を崩していまして……」

小松を、武公がギロリとにらむ。

「余の命に背くつもりか?」

「決して、そんなつもりは……。」

とっさに答えた小松は、それが墓穴だったことを知る。

「では、佐保姫は、明日までにご登城ください」

「……伝えておきます」


 ――すまぬ、佐保。其方の姉が不甲斐ないせいで、其方は、病を患う中、舞を奉納せねばならなくなってしまった。


 小松は、血がにじむほどに強く、唇を噛んだ。



「よろしいのですよ、お姉様」

 日向の城に帰ると、小松は、佐保に、事のてんまつを伝え、深くわびた。佐保は、小松に、病人とは思えぬほどの晴れやかな笑顔で答えたのだった。

「しかし、武公皇帝のことは、あんなにも嫌っていたではないか! それに、其方は今、病に冒されているのだぞ!」

「ですが、わたくしが呼ばれるのは、鳴海様の生誕祭です。武公皇帝の生誕祭ではありません。それに、世界一の舞の名手として呼ばれるのですよ?」


 ――世界一の舞の名手として生誕祭で舞えば、お姉様も名をあげることができます。お姉様のお力にもなれるのです。


「しかし……」


 ――お優しいお姉様は、わたくしが拒否すれば、皇帝に申し出てくださるでしょう。しかし、それでは、お姉様は、謀反人として罰を受けることになるかもしれないのです。


「生誕祭で舞えば、世界一の琴の名手とご一緒できるのでしょう? とても楽しみです」

「……、わかった。しかし、決して無理はするな。私の唯一の兄弟で、唯一の家族なのだ。其方を失いたくはない」

 白く長い髪をかき回すように、乱雑に頭をかくと、優しく微笑む小松。その笑顔は、病気で床に伏している佐保を元気づけてくれた。


 ――お姉様。


「ありがとう、お姉様! 病は、もうだいぶいいのです。明日には登城いたします」

 佐保は、大好きな小松のためにほんの少し嘘をつくと、にっこりと笑って見せた。



 ――その頃、咲耶達は、無事、旅に出ていた。



 3人は、清の国を出て、さらに中央へと向かっていた。

「ところで、こんなタイミングで中央に行って、大丈夫なのカ?」

「ええっ!? ダメなの?」

咲耶が、うるうるとした目でリィを見上げた。大きな黄色の瞳に、涙をたくさんためて、リィに訴える。

「どうしても、ダメ?」

しかし、リィは返事をしない。一瞬ちらっと咲耶を見ると、すぐに、渚沙に視線を移してしまう。

「中央では、生誕祭が行われる頃だろウ……って、聞いてるカ?」

 リィの視線の先で、渚沙が、咲耶を見下ろしていた。

 ――ものすごく、心配そうな顔で。

その視線に気づいたらしい咲耶が、渚沙を、うるうるとした瞳で見つめる。

「なぎさぁ……」

 そんな2人を見ながら、リィが、2歩後ずさる。

「咲耶、平気だヨ。別に、絶対ダメだというわけじゃなイ。唯、対策をしておいた方がいいと思っテ」

ものすごく面倒くさそうに説明するリィの言葉を聞くと、咲耶は、すぐに、涙を引っ込め、いつもの笑顔で言った。

「なんだぁ。ならいいや」

 そんな咲耶を、渚沙が、とてもびっくりしたことがよくわかる顔で、見つめていた。

「あノ……。まさか、ホントに信じてたわけじゃ、ないよネ?」

リィの、控えめな質問には答えない。しかし、耳の先っぽが赤くなっている。どうやら、リィの予想どうりのようだ。

 ハァ、と、ため息をつくリィ。それを見た咲耶まで笑い始める始末。渚沙は、ほおまで赤く染めた。


「ホントにサ。それで大丈夫なノ? 渚沙はお尋ね者なんだヨ?」

リィの言葉に、ハッと真剣な顔になる渚沙。真剣な顔になったと同時に、動かなくなった。

「エ……? 嘘でショ?」

今度は、リィが固まる番だった。

「中央では、もうすぐ、鳴海様の生誕祭があるんだヨ? 何の対策もナシにそんなところに行って、無事で済むとでも思ってたノ!?」

 渚沙は、答えない。整ったその顔を、真っ赤に染めていた。


 ――これ以上注意しても、無駄だ。行動した方が早い。


そう思うやいなや、リィは、渚沙の手首をつかんだ。

「ちょっと来テ!」



 ――同じ歳くらいの青年が2人、魔族の多い森の中で、漫才を繰り広げている頃。



「では、佐保。警備にいってくる」

「行ってらっしゃいませ、お姉様」

 佐保は、そう言って小松を見送ると、すぐに床についた。

 小松には、もう病の心配はない、という風に振る舞っていても、病は、治るどころか、進んでいるのだ。


 ――一度舞を舞えば、それで済むのです。お姉様に迷惑をかけなくとも、たった一度、我慢をすれば。たった一度、少しばかり無理をすれば、それでよいのです。


 治療法が見つかっていない、と言われてから、早2年。小松は、佐保のことを、とても大切に思っている。その事を、佐保は知っている。だからこそ、心配はさせられない、と思う。



 生誕祭は、5日後に迫っていた。


佐保は、病を抱えたまま舞うことに決めました。

素晴らしい姉妹愛です。


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