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4.清の青年

7/28 本文を編集しました


 迦耶の国から、少し中央よりにある国、(しん)の国。

 渚沙は、肩までつかない程度に伸ばした髪が風にあおられるのを、たまに顔をしかめて手で押さえる。

 その隣を歩く咲耶は、キョロキョロと落ち着きのない様子で、周りを見ていた。

「この国は、迦耶の国とは服装が違うね」

「そうだな。ここの服は動きやすそうだ」

 清の国の服は、首からぴっちりしまっていて、腰のあたりから、左右に切れ目が入っている。前後に分かれ、それが足下まで繋がっている。切れ目からは、別の色の布を使った、ズボンがのぞいていた。アオザイのようだ。

「着物の下に着物を着ているのか?」

「あれは、クワイと言いまス」

 思わず口をついて出た疑問を聞いたらしい青年が、癖のある言い方で渚沙に答える。そして、自らのクワイをつまんで、「これでス」と追加した。

 青年は、糸のように細い目で、瞳は全然見えない。渚沙は、前が見えているのかと疑ってしまった。

 はねた前髪は右側にまとめられ、それ以外は、前髪も後ろに結ってしまっているらしい。首筋近くの、低い位置でまとめて結われた髪は、前髪とは比べものにならないくらい、落ち着いて、そろっていた。

「くわい?」

咲耶が、渚沙の後ろから、ぴよっこりと顔を出した。

 青年は、一瞬驚いたように細い眉を動かすと、すぐに元の優しい顔に戻り、質問に答えた。

「そう、クワイ。上着の下に、クワイをはきまス。詳しくは知らないけド」

そして、歯を見せてニッと笑う。

「私、リィといいまス。旅のお方、我が家に来ませンカ?」

 渚沙は、咲耶を見る。咲耶は行く気満々で、渚沙のことなど気にも留めずに即答した。

「いく!」



 リィの家には、人はいなかった。リィがお茶を出してくれる。

「ありがとう。俺は渚沙、こっちは咲耶という」

「ありがと、リィ!」

「どういたしましテ」

咲耶は、やはり、キョロキョロと周りを見回している。それを、渚沙が、温かい目で見ていた。

「二人はどうして旅をしているんダ?」

 しかし、渚沙は答えない。

 渚沙は、神武族の事を思い返していた。


 ――リィを、巻き込むわけにはいかない。


「教えられなイ?」

リィは、そう言うと、渚沙の方を、細い目で見る。今は既に笑っていない。

「私には、時見の知り合いがいタ。もう何年も合っていないし、たぶん死んでいル。その時見は、ある人に“時”を伝えなければならないと言って、どこかへ行ったきりで、それ以来会っていなイ」

リィは、少し、深呼吸する。


「白星という時見を、知らないカ?」


 渚沙の心臓が、どくんとはねる。

 咲耶は、相変わらず部屋の中のものを興味深そうに眺めていた。

「白星は……、死んだ」

「そうカ」

 割にあっさりとうなずいたリィ。それに対し、驚きで、渚沙が目を見開いた。

「そうだと思っていタ。あのときの白星の気迫はそんな感じだったかラ」

しかし、そう言って笑うリィの顔には、悲しげな雰囲気もあった。渚沙もうつむく。

「俺も旅に同行させてほしイ」

「しかし――」

「わかっていル。白星から聞きいたヨ。あなた方が、“星”であることも、今頃は追われる身である事モ」

「それなのに、なぜ……」

「俺も、“星”だかラ」

 歯を見せて笑うリィ。渚沙の厳しい視線を受けて、すっと真面目な顔をする。

「白星に聞いタ。俺も“星”の1人だト。」

渚沙の厳しい表情は崩れない。

「“星”、とは?」

「あレ? 白星に聞いてなイ? “星”は、簡単に言うと渚沙達の仲間。皇帝に勝つために必要な者達だヨ」

渚沙は、白星の最後を思い出し、顔を伏せる。


 『もし、あなたが、皇帝に背き、反旗を翻すというのなら、“魔の森”に向かいなさい。そして、そこにいる、災厄の子供を連れて行きなさい。力は、今はありませんが、それは子供自身が導いてくれるでしょう』


「白星は、俺には時の予言を言ってはくれなかった。唯、魔の森に向かって、災厄の子供を連れて行け。今は、力はないが、それは子供自身が導く、と。それで、精一杯だったんだ」

「なるほど。時の予言については、またあとで教えてやるヨ」

 ニッ、と笑って、急に真剣な顔で咲耶を見る。

 その視線の先で、咲耶は、ピタリと止まっていた。瞳は、深紅。

 その視線先には――。

「咲耶?」

渚沙の声に驚いたらしい咲耶は、瞬きをした。瞳は、黄色に戻っている。

「あれ? どうしたの?」

「なんともないのか?」

「えっとね。……さくや、お腹すいた」

 いつも通りの咲耶に、ほっと息をつく渚沙。咲耶には答えず、代わりに一言だけ言う。

「これからは、リィも仲間だ」

一瞬間抜けな顔になって考えた咲耶は、すぐに納得し、すっと目を伏せた。


「リィは、強い?」


 質問の意味が分からず、困惑顔のリィ。咲耶が、もう一言だけ重ねた。

「リィは、死んじゃったりしない?」

それでもなお数秒考え、質問の意味を理解すると、歯を見せて笑った。


「当たり前ダ!」


咲耶も、歯を見せて笑った。



渚沙と楽しそうに話す咲耶を、リィは、糸のように細い目で、じっと見つめていた。

その視線には、2人とも気がついていない――。


時の予言のことを知る人が現れました。が、どうやらただ者ではなさそうです。


……どうでもいいですが、リィのこと。彼は、私の好きなキャラです。好きなキャラをかいているのは楽しいですね!

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