20.水内
3人は、出会う兵士全てを倒しつつ、先へと進んだ。
「明日葉は珍しい戦い方をするな」
「そうか? ……伊賀ではこれが一般的だったけど」
渚沙の問いに、明日葉が、答える。細い短剣を、上手く手を使い、くるりと回した。
「……まだ若い明日葉がこれほどに強いのに、なぜ、伊賀の国からは四天王が出ない?」
「確かに、四天王でも一番下の……えーと、ほら、玄武隊担当の」
渚沙のつぶやきに、同意しようとする小松。しかし、名前が出てこないようだ。
「ああ、長門の王、闇御か。闇御は、戦いにはさほど長けてはいなかったからな」
渚沙が名前を言うと、小松が頷く。正解のようだ。
「そういうことなら、伊賀の国からは、四天王を出す気はないね。元々、伊賀の者達は、偉い人の下について戦ってきた。誰かの上に立ち、まとめて、部下を戦わせるより、自分が動く方が好きなんだ。それに、見れば分かると思うけど、伊賀の者の戦い方は、援護には向かない。個人で最も力を発揮するんだ。人の上についてする戦い方を知らないのさ」
短剣をくるくると投げ、腕に沿わせるように持つ。同時にもう一本も出し、持った。すっと構えると、笑いを崩さすに言った。
「……っと、だいたい100ってところか」
小松が剣をすらりと抜き、構える。
「100ならば、四天王の隊かもしれんな」
渚沙は、刀の柄に手をかけ、腰をおとした。
「四天王? ……早すぎだ」
現れたのは、渚沙が見知った顔の兵士達。
――朱雀隊!
元部下達と敵対しなければならないとわかり、渚沙の刀を持つ力が強くなる。
――武公、俺たちだと分かっていて……!
「渚沙!」
小松が言った。
「目的を忘れるな」
そう言うと、隊の中へと突っ込んでいった。
明日葉も、渚沙を一瞥すると、隊の中に消えた。
自分の方に向かってくる元部下を見て、刀を構える。細く長く息を吐くと、目をつぶった。
自分の周りにいる兵士達が一斉に向かってくるのを感じ、刀を払った。
――油断をするなと教えたのに。……まだまだだ。新しい迦耶の王が悪いのか?
一人、また一人と、まわりの人の“気”が消え、新しい“気”が近づいてくる。渚沙が、自分が朱雀隊を預かっていたとき。魔族ではなく、他の国と戦うと、人が入り乱れ、分からなくなる。相手か味方かを判断するために一瞬動きが遅くなることがあり、それを防ぐために使っていたのが、これだ。
普段自分と一緒に訓練をしたりするために、すっかり慣れた味方の“気”を避け、自分が初めて会ったか、あまり親しくないかで、良く知らない“気”を、倒す。
――まさか、朱雀隊のみんなに使うことになるとは。
顔を見なければましかと思い目をつぶったが、剣の癖で誰だか分かる人も、中にはいた。そのたびに渚沙は、すまない、と思いつつ、刀を振るうのだった。
――武公、許すまじ。
100程もいた兵士が、20か30に減った頃。渚沙が、片目を開けて睨んだ先には、兵士達に囲まれ、守られた、新しい迦耶の王――、水内がいた。
かつて、渚沙の補佐として働いていた男。渚沙を見て、うっすらと笑みを浮かべた。
「行け!」
まわりの兵達に言う。構えた渚沙の前に、明日葉が飛び降りた。
「小松が、行ってこいってさ」
「助かる」
渚沙は、小松をチラリと見ると、低く駆けて、水内と対峙する。
きっと睨むと、刀を構えた。
同じく剣を構える水水内。あれほどよく見た笑顔は、かつての笑顔が想像できないほどに歪んでいた。
朱雀隊の新しい隊長は、その近くに2人の護衛をつけていた。隊長の前が開けたことで、護衛達が、 他の兵士達を呼んだ。
渚沙は、おまえらは戦わないのか、と思ったが、余分なことは言わずに、目の前のことに集中する。あっという間に10人ばかりの兵を片付けると、その勢いのまま、護衛のうち一人を切った。抵抗する隙を与えないほどに素早く斬りかかった。渚沙の知らない顔だった。
明日葉と小松が相手にする兵達も減ってきている。全員を倒しきるのは時間の問題だろう。
渚沙が、いつでも斬りかかれるように腰を低く落とし、ふっ、と息をはいたとき。
明日葉が最後の一人を動かなくした。その近くでは、小松が、まだまだ余裕そうに、かつて渚沙を良く慕ってくれた兵士と剣を交えていた。
「あと1人……」
目の前に残る、知らない顔の兵士を睨む。渚沙の言葉を聞き、焦ったのか、水内が、あたりをキョロキョロと見回す。
渚沙が、すっ、と刀を構え、今にも飛びかかろうと、新顔の兵士をにらみつけると、その兵士は、崩れ落ちた。
――!?
崩れ落ちた兵士の後ろには、血の滴る短剣を、震える手で持った、水内がいた。
「埴安、剣を引け。もう良い」
そう言って、小松と戦っていた兵士を止めた。渚沙に向かう。
「お久しぶりです、王」
かつて共に仕事をした笑顔が、そこにはいた。
遅くなりました




