表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/23

1.渚沙と咲耶

7/22 少し編集し直しました。


 20歳前後の少年が1人、“魔の森”に向かって歩いていた。人の住む世界から外れ、人々の安全を守り、魔族の侵入を阻む“結界”の外に位置する、魔族の集う森。本来、人が入っていくような場所ではない。しかし、その少年――渚沙(なぎさ)は、迷うことなくその森に向かう。


 『よいか、渚沙。“迦耶の国”は、政様と共に最後まで戦うつもりだ。もし、政様が負けてしまったとしても、迦耶の国は政様を敬い続けなさい。民には既に伝えた。皆も賛成してくれた。私が死ねば、次の王は其方(そなた)に任される。それでも、この決まりだけは守り通して欲しいのだ。分かったな?』

 『はい、父上。……必ず』


 『迦耶国の王よ。其方、まだ余の政治になれんようだな。今の皇帝は政ではないぞ?』

 『……承知しております』

 『もし、今後も態度を改めぬようならば、余も手を打つしかあるまい。分かっておるな?』

 『……はい』


 『迦耶の王よ。また命に背いたな。余は、其方に、時見の“白星(しらぼし)”の始末を命じたはずだが?』

 『お待ちくだされ! 迦耶の王と白星は旧知の仲でございます! それをご存じでおっしゃっているのですか!?』

 『無論、知っている』

 『な……!』


 渚沙は、半年前に父と交わした会話と、王位に就いたばかりに皇帝と交わした会話、ついさっきまで交わされていた皇帝の城での会話を思い出す。そして、古くから仲のよい友人の身を案じた。

 ――助け船を入れてくれた、迦耶の国よりも大きく発展した日向(ひむか)の国の王、小松は、これで皇帝ににらまれてしまったかもしれない。普段からよく指示に従っているから、大丈夫だとは思うけれど。

 白星を匿おうとして向かった先で、白星は、渚沙に、ある予言を残していた。時見とは、ようは予言者であり、占い師のような者だ。その力が大きくなるにつれて、正確に時を読めるようになっていく。白星は、今、この世の中で、一番正確に読めるのではないかとされる時見だ。その力を専属として欲した皇帝の命令を断って逃げたため、白星はいま、追われる身となっている。


 『もし、あなたが、皇帝に背き、反旗を翻すというのなら、“魔の森”に向かいなさい。そして、そこにいる、災厄の子供を連れて行きなさい。力は、今はありませんが、それは子供自身が導いてくれるでしょう』


 それは、何日も逃げ、ろくに休息もとることができなかった白星が最後の力を使って見た、“時”だった。

 白星はそのまま、渚沙に看取られて覚めない眠りについた。

 


 結界を抜け、魔の森に入る。渚沙は、悲しみを心から追い払うためにも、ずっと頭を働かせ続ける。


 ――“災厄の子供”は、森の奥の方にいるという話だ。力を封印されているということだから、成長速度は格段に遅いはず。

 

 本来魔物は、その魔力の大きさに比例して成長する。年はとるが、それと成長の速度が同じではない、と言うことだ。災厄の子供がどれほどの魔力を持つのかにもよるが、魔族の血を引く、政様の子供である。少なからず魔力が混じっているはずだ。そのため、力が封印された今、本来よりも幼いはず。

 時折向かってくる魔物達と戦いを繰り広げながら進むと、時間がたっているのにそれほど進んでいなかったりする。歩きながら戦えればいいのに、と思う渚沙だった。

 迦耶の王は、代々、四天王を任されていた。それほどの力量がないと、迦耶の王にはなれない。皇帝が変わった今もそうだ。それでもなお王位に就くことのできた渚沙は、相当の実力の持ち主だ。まるで、最深部に進ませまいとするかのように立ちはだかる魔物は、その実力を持ってしても簡単に倒す事はできなかった。


 ――政様は、黒髪に深い金色の瞳を持っておられた。耳が少々とがっていたのは、魔族の血のせいだ。皆、それを了承した上で、政様を慕っていた。その奥様も、大きな力はお持ちでなかった。そうなれば、純粋な血を継いでいる、その“災厄の子供”も、政様によく似た、美しい顔立ちをしているのだろうか。政様のように優しいといい。



 魔の森の、奥深く。地下に続く、粗末で、こけの生えた、もう何年も使われていないような階段を見つけ、地下へと降りる。地下は暗く、階段は時折滑った。しかし、一番下

に降りると、薄暗い灯りは見えた。それを頼りに、灯りの方へ向かう。


 そこには、石レンガでできた部屋があり、その中が明るかった。扉の鍵は閉まっていて、開かない。渚沙は、愛刀“十束(とつか)”を、すっと抜く。渚沙の身長には不似合いなほど長く細いその刀は、迦耶の国にいる部族のうち、迦耶の国にしかいない、戦いの部族、神武(しんむ)族に代々伝わり、族長に継がれる物だ。迦耶の国の王は、その国の中にしかいない部族の各族長から決められる。

 渚沙は、十束を構え、石レンガの扉へと振り下ろす。金具が見事に切断され、落ちたときに、カランと音を立てた。

 渚沙が中に入ると、小さな、5歳くらいの子供が、ボロボロの布一枚にくるまって寝ていた。

  大きな音に驚いたのか、大きなあくびをしながら起きる。ストレートの黒髪に、大きく丸い、黄色の瞳。中心は黒く、深く見えた。肌は日の光を知らないために非常に白く、耳はとがっていた。それこそ、政様以上に。


咲耶(さくや)


 渚沙は、まだ名もないであろう少女の名を呼んだ。「政様から聞いた」と、白星に教わったのだ。

 少女はキョトンとし、渚沙を凝視する。

「俺は、迦耶の王にして神武族族長、渚沙。共にここを出よう」

 咲耶は、寝ぼけているのか、相変わらず動かない。

「言葉が分からないのか?」

渚沙の問いに、咲耶は首を横に振って答える。

「なぎさ」

「何だ?」

それに答える咲耶の瞳は、紅く染まっていた。


「我を外に連れ出してどうする? 王の反感を買い、其方の部族か、それとも国か……、どちらにせよ、其方だけに背負いきれるほど、その罪、軽くはないぞ」


 咲耶の問いに、渚沙は目を見張った。声も容姿もそのままの、5歳の幼い少女だ。しかし、歪んだ笑い方をしていた。

「今の我は力を持たん。こうして“表”に出てくることさえ、もう、少ししかもたんだろう」

「……咲耶か?」

「無論、咲耶だ。もっとも、咲耶というのは誰が名付けたのか知らんがな」

そして、妖艶に微笑む。

「せ……」

渚沙が言いかけたところで、遮るように咲耶が続ける。

「さて、もう限界のようだな。今頃、部族は地獄やもしれん。それでも我を連れて帰るか? 若き迦耶の王よ」

「ああ」

「諦めの悪い奴よのう。……好きにするがよい」

そして、咲耶の体が、かくんと崩れ落ちた。慌てて抱き留めると、腕の中で、黄色い瞳をした咲耶が言った。

「なぎさ、痛い」

 渚沙がああてて手を離すと、外に出よう、と言う風に、渚沙の着物の袖を引いた。

「少し待て」

渚沙は、ボロボロの布を咲耶の体に巻き付けると、抱き上げた。

「さあ、行こう」


 咲耶が、日の光にまぶしそうに目を細めた。

 

長くなりそうなのでぶった切りました。次からもこんな感じで投稿していきたいと思います。ちなみに、 0 と合わせて書いていたのに、長くなったから分けたので、次の投稿はもっと遅くなります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ