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16.咲耶様と月弓


「皆、良く聞いてくれ。……今日から、城に入ることになる」

 朝一番、浮かない顔でそういった渚沙を、リィを含むみんなが見た。

「城に入ったら、皆、自分の目的のために行動してくれ」


 ――みんな、目的は同じだったはずなのだ。それなのに、渚沙が、あえてそう言ったということは、渚沙の考えも、少し変化してきているからなのかもしれない。それとも、昨日の話で、咲耶と共に行動することを第一としたのだろうか。


 ……考えても、所詮は他人の心。候補は出ても、結局分からなかった。

 リィが考えることを諦めたのと同じタイミングで、渚沙が言う。

「厳しい戦いになるはずだ。……約束はできないかもしれない。でも」

 一旦言葉を切る。この場にいる誰もが、次の言葉を予測できたはずだ。


「死なないで欲しい」



 ――その一言を約束できないのは、俺のせいか?


 きっと、渚沙には、この疑問は伝わらない。所詮、他人の心だ。

 神妙な顔で渚沙を見つめる咲耶を見ると、祈らずには居られなかった。

 その黄色の瞳は、いつまで、未来を見据えていられるのだろうか――?



 城には、正面から入ることになった。

 盗っ人猛々しいとはこのことだが、みんなの意気込みを考えると、これでもいいように思えた。

「いくぞ!」

 渚沙の声を合図に、みんなで突っ込む。

 迦耶の王として、四天王をしていた渚沙。同じく四天王だった小松。忍びの国・伊賀でも、有数の実力の持ち主であったという、明日葉。旅をするうちに分かったことだが、それなりに武術の心得がある、リィ。魔術の炎を操ることのできる、咲耶。

 五人でまとまっていれば、手荒く迎えてくれる兵士達を返り討ちにすることは、たやすかった。

 旅をするうちに身につけたチームプレーの技術を生かし、1人になる者のでないように、まとまって動いた。

 敵を迎えうつうち、炎で兵士に遠隔攻撃をしていく咲耶を守るように、リィと背中合わせになる渚沙。

 リィが、時見の杖を左手に、清の国特有の、ナタのような刀を右手に構え、渚沙に、目で合図した。渚沙も、十束を鞘から抜き、構えた状態で、合図を返す。

 咲耶の起こした爆発を合図に、飛びかかって来る兵士達。リィと渚沙で、輪の内側から敵を倒していく。



 明日葉と組んだ小松は、小松とは全然違う明日葉の戦い方に、上手くなじめていた。

 短剣を、腕に沿わせるような持ち方をし、両手で攻撃している。身軽な明日葉は、兵士の間を縫って行ったり来たりし、相手にも、見方にも予測できない攻撃を続けていた。

 時には短剣を手の中で回し、刃を前に出して刺し、かと思えば、次の瞬間には、短剣を腕に沿わせているもう片方の手で相手の剣を防ぎ、服や靴を手裏剣で床に止め、仕上げとばかりに、足でトントンと踏み台にし、抜けないように深く刺す。飛んだまま、兵士の群れの中へと着地、人垣の中に穴をつくり、また戻ってくる。すばしっこい奴だ。

 小松はといえば、長く細い剣を使い、人垣を崩すようにして戦っていた。

 向かってくる敵の剣を受け流し、軽く向きを変える。体重を戻せない兵士は、そのまま、仲間へと突っ込んでいく。2人とも体制を崩したところへ、一撃を入れる。衝撃を受け流してしまうため、小松自身にはそれほどダメージもない。女ながらに四天王をやっていたのには、こういうわけがあるのだ。


 その少し離れたところでは、リィと渚沙、咲耶が戦っていた。

 長い時見の杖を上手く使い、遠心力を利用するリィ。勢いを殺さずに、そのまま、剣で敵を倒す。決して攻撃には杖を使わず、しかし兵士にも当てないように、慎重に体重を移動している。

 剣の長さを補うため、遠心力でできたスピードを利用し、止まることなく、攻撃を繰り返す。スピードと共に、攻撃の重さも上がり、リィの細腕でも、充分な襲撃を与えられていた。

 まるで舞を舞うように軽やかに動くリィを見つつ、渚沙は、丁寧に、十束を振り下ろす。

 横にも縦にも、ブレのないきれいな、一直線の残像を見せつつ、細身の刀を、一定の力で振る。決して早くもなく、遅くもない十束の刃を、しかし、兵士達はよけられない。渚沙は、攻撃と攻撃の間を、極限まで削り、素早い攻撃をしていた。体をひねり、うまく回転し、十束の刃を運ぶ。一振り一振りしっかりと、刀特有の型を成しつつも、無駄はない。

 2人とも、男性にしては長い髪の毛を風に乗せつつ、鮮やかな殺陣を見せていた。

 同じく黒髪を、こちらは自分の炎が生み出した風によって舞わせる咲耶。渚沙とリィに守られながら、人垣の外側から、兵士達を倒していた。魔術で炎を生み出し、金色の火の粉を舞わせながら、大きな爆発を起こし、兵士達を圧倒していった。



 その時、咲耶の出していた炎が、変わった。爆発ではなく、兵士達を閉じ込めるように、炎を、床に這わせる咲耶。

 咲耶を囲うように、背を合わせて戦っていた渚沙とリィは、人々の悲鳴や雄叫びが響くなか、その声を聞いた。

「かがめ」

 何事かを理解する前に、2人。次の瞬間には、咲耶や渚沙達を中心に、大きな炎が外側に向かって進んでいた。外側は、さっき床を這うようにして燃えていた炎。炎同士がぶつかると、両方、すっと消えた。


 ――これは……?


 渚沙がリィを見ると、リィは、眉間にしわを寄せ、いかにも悔しそうな顔をしていた。泣き出しそうにも見えるほど、その顔は、悲しさをにじませていた。

 それだけで、咲耶に起こったことが分かる。

 

 ――咲耶の瞳は、深紅だった。


「剣がよんでいる」

 そういうと、何かに惑わされているかのようにふわふわと、それでいてしっかりとした足取りで歩き出した。玄関ホールの、兵士がいなくなった半分を、ゆっくりと歩く。時折攻撃してくる兵士達を炎で容赦なく焼き、顔を動かすこともなく進む。

「待て、咲耶!」

 渚沙の声が届いたらしく、ゆっくりと振り返る咲耶。深紅の目で威圧すると、一言だけ言った。疑問ではなく、確認だった。

「我の邪魔をするのか」

見下すように鼻で笑い渚沙に背を向けると、無視して歩き出す。

「咲耶!」

 もう一度渚沙は叫び、咲耶を追って立ち上がろうとする。その肩を、“リィ”が押さえ、代わりに立ち上がる。


「後は頼んだヨ」


 優しげに笑った、弧を描く細い目で、ほとんど息の言葉を、かすかに発した。

 そして、渚沙を振り返ることなく、咲耶の元へと歩み寄る。

 現状について行けない渚沙は、リィに押されて尻餅をついた体勢のまま、2人を見送るほかはなかった。


 ――だから、その時は、俺を殺セ。躊躇はするナ。……月弓は、おまえの“敵”ダ――


 少し離れたところで、兵士と応戦中である2人の声が、たまに響く。

 唯広い玄関ホールには、既に2人分の足音は存在せず、剣のぶつかり合う高い金属音、人間の雄叫びと悲鳴が反響し、何重にも重なって聞こえる。

 思考が停止しかけた渚沙には、それらの音さえも、遠く、虚ろに聞こえた。



 ふと、黒い固まりが、渚沙の鼻先をかすめた。肌には当たらないものの、衝撃は空気をつたって伝わり、髪を揺らし、数本切り落とした。故意にやった事なのか、それとも単なる流れ弾かは分からないが、それは紛れもなく、明日葉の手裏剣。

 突然のことに、はっと我に返り、わずかに迷った挙げ句、立ち上がる。

 咲耶と“月弓”が通っていった道を、咲耶の炎に焼かれた兵士の散らばる道を、一歩一歩、踏みしめるように進む。


 ――そうしなければ、今にも、自分が、自分でなくなってしまうような気がしていた。


 

 

最近、少し長く書いてから投稿しています。その分時間がかかると思いますが、ご了承ください。

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