14.お母さん
小松の実家で、食卓を囲む中、たくさんのごちそうを目の前にした咲耶が、ご機嫌で訪ねる。
「小松は、お城に出入りしていたんでしょ? 咲耶のお母さんがどんな人か、知らない?」
「そうだな、知琉さまは、優しそうな方だったな。鳴海様とは仲良くされていた。ただ……。咲耶にとっては、聞きたくないかもしれんが、聞くか?」
ひんやりとした空気が流れる中、咲耶は言った。
「……聞くよ」
同じく城に出入りしていた王である渚沙が目をそらし、時見であるリィはため息をつく。玉依から聞いていた明日葉も足を組み直した。
「知琉様は、咲耶のことを、実子であると思っていない。正確には、それを認めていない。つまり、咲耶を、拒否したんだ」
小松が咲耶を見ると、先を促すように見つめ返す咲耶。小松が折れた。
「咲耶は、自分に流れる血を、知っているか?」
「しってるよ。“魔族の王の血”でしょ? 渚沙が迎えに来てくれる前、魔族の者達に聞いたの。……咲耶が、忌み子だって事も」
場の雰囲気が凍り付く。咲耶が、「つづき」と先を促すと、やっと再開した。
「政様のご両親が、魔族の王の血を引くお父様と魔力を持たない普通のお母様だったために、その血は薄れ、王位継承権はなかった。だが咲耶は、その血を持つ政様と、微量ながら魔族の血を引く知琉様の間に生まれたため、必然的に魔族の王となる。それを恐れた政様は咲耶の魔力を封印したわけだが。魔族の血を引いていることが判明した知琉様は、政様のように処刑されないよう、その血筋を示す咲耶を、自分から切り離した。――居なかったことにしようとしたんだ」
小松も口を開かなくなり、咲耶はみんなを見回す。みんなの反応から、それが肯定された。
「じゃあ、咲耶は、いらない子なんだ……」
言って、唇をかみしめる。不安を隠すように、無理矢理笑おうとしていた。渚沙は、咲耶の頭に手を置く。
「咲耶は、いらない子なんかじゃない。現に、俺が必要としている」
そのセリフは、本来なら仲間全員に笑われて終わっただろう。ただ、今日はそれでも足りないほどに、咲耶はダメージを負っているだろう。それを察したみんなも、声を重ねた。
「俺もだヨ」
リィは優しく笑って、明日葉もうなずいた。
「オレもだ」
「私も、だ」
小松も笑ったが、小松に相づちを打つようにして、小松の母が言った。
「私もよ」
みんなが驚きの目で見ると、小松の母は恥ずかしそうに笑った。
「佐保が死んで、小松は、ずっと生ける屍状態だったのよ。それが、急にあなたたちのもとに飛び出していって、急に生き生きとして帰ってきたんですもの。ありがとう、咲耶ちゃん」
小松の母が優しげに笑って咲耶を見ると、小松が顔を赤くしてそっぽを見いた。照れているようだ。
「うん」
小さな声で頷いた咲耶も、笑顔を見せた。まだ弱々しかったが、決意に燃える、芯のある目は、美しかった。
「咲耶、お母さんとも話をしてみたい。鳴海とも、武公皇帝とも。全員幸せになれる世界を作りたい」
そういった咲耶の目は、凜としていて、黄色の瞳が輝いて見えた。
咲耶がかわいそうすぎます。




