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13.「玉依が」


「なぜ、おまえは玉依と接点があっタ……?」

 震える声のリィ。明日葉に対してだろう。顔は伏せたまま、肩を、小刻みにふるわせている。

「発言を許した覚えはないぞ? 月」

「咲耶!」

リィをにらむ咲耶を、止める。


「今のあいつは、“リィ”だ」


渚沙も、咲耶をにらんだ。その目を見て、一瞬息をのむ咲耶。すっ、と、瞳を黄色に戻した。事情が飲み込めない咲耶を押さえる渚沙。咲耶は、周りを見渡し、渚沙の目を見ると、リィを見つめた。

「元々オレは、白星の知り合いで……、玉依と面識があったんだ」

「じゃあ、個人的な恨みとは――白星のことカ?」

「……それもあるが、玉依の誓約の、逆恨みというか……何というか。武公が消えれば、玉依は自由になれる」


「おまえは、玉依が好きなのか?」


 無神経な質問をする小松。

 沈黙が、答えとなる。

「そうカ……」

リィが、片手で顔を覆った。うつむいているが、手をつたう雫で、泣いていることがうかがえた。

「そうカ……。よかっタ……。……あいつハ……」

しばらくの沈黙の後、リィが立ち上がる。そして、深くお辞儀。

「申し訳ありません、咲耶様。お時間をいただき、感謝しまス」

赤い目に戻っている咲耶が、答える。

「よい。面白いものを見させてもらった」

クククッ、と笑う咲耶。渚沙に向き直ると、冷たい笑みを見せる。

「この者の動機は充分だろう? 星は集った。魔力は、あと少し。中央の城にある。目指すは、城だ」

カクン、と力が抜けたように倒れる。渚沙が、もう慣れた手つきで受け止めた。


「そういうわけだ、城へ向かうぞ」



 城に向かうために、元来た道を戻るように進む。進めるところまで行こう、ということで、日向の国まで到着した。

「あまり中心街にはよりたくない。ここでは、私の顔が知れ渡っているからな」

小松が言った。

 宿は中心街にあるため、取りたくない。野宿をするとかえって目立つ。そこで、小松の実家に止めてもらうことになった。

「すまない、母上」

「いいのよ、小松。佐保の事もあってから、心配していたの。よく来てくれたわ」

どちらかというと佐保に似ていた小松の母は、そう言って歓迎してくれた。

 親子の会話が始まったのを見て、みんなは退散する。まあまあの広さがある庭で、咲耶がリィに聞いた。

「咲耶のお母さんは、どんな人だったのかなぁ」

「さあネ。城に居ル」


 ――会ってみればいいヨ。


と言う言葉は、飲んだ。会われては、予言は違えない。


 ――会われては、困るのだ。



 リィの顔が、かすかに歪んだのを見て、渚沙は、ため息をつく。咲耶は、そのどちらにも気づかず、明日葉と話をしている。


 ――なんだかんだ言って、信用してしまってはいるが、まだまだ謎は多そうだ。


 渚沙の心には、引っかかっているものがたくさんある。それらは、リィが、渚沙だけに教えてくれた秘密と、渚沙の、頭の回転の良さが影響している。ゆえに、他に気づいている者は少ないだろう。

 そして、今日、また増えた。


 ――リィが、白星と兄弟ならば。なぜ、リィは魔族の目をしているのか? 白星は、そんなことはなかった。


「みんな、夕食の用意ができたぞ!」

小松に呼ばれて、食いしん坊の咲耶が駆け出す。それを見て、渚沙は、心が少し軽くなるのを感じていた。



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