10.魔力の木
咲耶が行きたいと言った、魔の森の中。今日で、3日目というほどの長い間、予言と咲耶を信じて、進み続けてきた。
――が、
「まだかぁ~っ!!」
小松の忍耐力は、限界を迎えていた。
「しかたあるまい、まだつかないらしいから」
そう言って咲耶を見る渚沙。
「しかし、景色が変わらないというのは、かなりこたえる」
小松の言葉には、誰もこたえない。その沈黙こそが肯定である、ということを、皆はそれぞれ自覚していた。リィは、先ほどから一言も発していない。おしゃべるなリィが黙るほど、この、風景の変わらない2泊3日の旅は、一行の精神をすり減らしていた。
咲耶が、何か反論しようとした瞬間、咲耶が、ピタリと動きを止める。
リィがいち早く反応し、一言だけ発した。
「咲耶様」
その問いかけに呼応するように、咲耶が赤い目で、キッ、と目の前の木々をにらみつける。
「道をあけよ。力の主の前に、なぜ道を閉ざす」
すると、すっ、と木々が、それぞれの枝を動かしていく。
「さすが、魔の森……」
渚沙が一言、ぽつりと言った頃には、人ひとり通れるだけの空洞ができあがっていた。
そこへ、どんどん進んでいく咲耶。それに素早くついて行く、リィ。渚沙達が慌ててついて行くと――。
通路を進むと、その先は空洞だった。幹の太い、大きな木がある。
咲耶が、その木に右手をペタリとつけると、その手を中心に、木の幹に、赤い線で描かれた複雑な模様が浮き上がる。咲耶が、妖艶な笑みを浮かべた。
しばらくするとその模様は、手から遠いところから、円を描くように消え始める。手のところまで消えると、咲耶が、手を離した。
空洞内でも、少し離れたところに立っていたリィに顔を向ける。リィの目は、咲耶に「月弓」と呼ばれるときとは違い、細い目のままだ。
「3年分、といったところだな」
そのしゃべり方は、渚沙の知る咲耶のものではなく、たどたどしさは消えていた。
「ここの魔力は、あまり成長していないようだ」
初めてあの咲耶を見る小松は、訳が分からないようだ。さっきから、きれいな薄ピンク色の目を、大きく開けている。
「ククッ……。まだまだだ……」
そのまま、かくん、と意識を飛ばした咲耶を、間一髪で渚沙が受け止める。
「リィ……」
――何が起こった?
渚沙の視線に気がついたリィは、小松と咲耶を交互に見て、また渚沙に向き直り、糸のような目で言った。眉は眉間によっている。
「あとで、ダ。渚沙」
うなずいてみせると、リィは、やっといつもののんびりした顔になった。
――小松達には、教えられない話、か……。




