9.白星の予言
小松が加わり、4人となった一行は、相も変わらず、魔の森を彷徨っていた。
「なんで、こんなところに来ているんだ、私たちは……。街とは正反対じゃないか」
渚沙が、そんな言葉と共にため息をつく小松に、何度目かになる説明をする。
「しかたあるまい。咲耶が行くと言ったのだから」
何度聞いても同じ答えを返す渚沙に、あきれた様子の小松。
「だから、なぜそこで咲耶が出てくるのだ?」
渚沙は、物わかりの悪い子供を見るような、じとっとした目で小松を見た。そのあと、諦めて、リィへと視線を移す。
「ン? 説明役を俺に丸投げする気カ? エ~。面倒だナァ」
糸のように細い目は、相変わらず、笑っているように弧を描いている。しかし、眉は眉間によっていた。
「そうはいっても、リィしか予言を知るものがいないのだから、しょうがないだろう」
「予言、とは?」
小松に、そこからか、と眉を歪ませるリィ。かなり大雑把に省略された説明をする。
「時の予言のコト。時見が見た“時”を予言として周囲に伝えた物を、時の予言と言うんだヨ」
「……して、その予言とは?」
小松の瞳は、らんらんと輝き、好奇心に満ちあふれていた。佐保と、さほど変わらないくらい幼く見える。
「……面倒」
リィが、ぷいっと、そっぽを向いた。
小松から非難の目を向けられた渚沙が、説得にまわる。
散々説得された後に、リィは渋々言葉を紡ぎ始めた。
――白星に聞いた、と言う設定にしてあるからネ。
仕方なく、白星の予言を、記憶から、言葉に直す。目を絶対に開くまい、と力を入れた。
――時は、災厄の子供に導かれん。
されど、その子供、力をなくしたりて、自らの意思も不確かなり。
その子供、目覚めさせるは星なり。
王に背く汝ら5人は、闇星なり。
子供の元に星が集うとき、世の理は乱れん。
行き先は、子供が示す。
星は子供の元へと集い、子供は自らの力へと星を導く。
災厄の子供が目覚めるとき、世は崩れ、乱世とならん。
されど、時の傍観者が来ん。
その人は、時を動かする人なり。
その人の事は我にも分からざるが、世界はその人をもって動かされん――
「それが、時の予言か」
小松の言葉をきっかけに、沈黙は破られる。
「“白星の”時の予言ネ。時の予言は、時を見る者によって、立場や、その鮮明さも変わるかラ」
リィは、些細なことでも大切なことなんだ、といって訂正する。
渚沙も初めて時の予言の全てを聞いたので、かなり驚いた。
――白星から聞いたものよりも、長くて、言葉遣いも違う。やはり、あれは、唯の伝言だったのだな。
そんな中、咲耶が、ぽつり、と言った。
「意味が全然わかんない」
その言葉に、リィがピクリと反応した。
「まぁ、予言の言葉遣いのままだしネ……。でも、知らなくてもいいことダ」
「えー。でも、咲耶だけ分からないんでしょ?」
咲耶はだだをこねる。困ったような顔をして、咲耶をさとすリィ。
――いつも目の細さは変わらないのに、よくあんなに表情豊かに表現できるな……。
聞いた時点で予言の内容が理解できる渚沙は、そんな余分なことを考えてしまう。
「分かるときまでは、知らなくていいんだヨ。いずれ、分かるようになるかラ」
その言葉を聞き、リィのとった行動が、咲耶自身のためであることに、渚沙は気づいていた。
――本人に、“災厄の子供”の意味を教えたら。咲耶が、忌み子であることを知ったら。優しい心を持つ咲耶は、きっとものすごく傷つくから。
渚沙の心の声は、リィの言葉と重なる。
「だから、咲耶は、まだ知らなくていイ」
目を開けまい、とするリィ。
リィの持つ時見の杖と、「白星から聞いたということにしてある」と言う言葉――。
早くネタバレしたい! してしまいたい!
最終回は遠いです。




