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ある男の日常の悪意

 ソクラテスの時代から人は善か悪か議論されてきた。しかしそんな事は解りきっていることだ。

 これからその答えをみせてやろう。俺の命を犠牲にして、お前達の魂を道づれして・・・・


 午後5時仕事も終業となり、職場への通勤をランニングで行っている俺はランニングウエアに着替え、右腕には赤く点滅するライトを装着する。同僚とかるく挨拶を交わし、リュックを担ぎ職場を後にする。


 神奈川県の都会でも田舎でもない町に俺は住んでいる。下宿のアパートまではおよそ10キロほどの道のりで、商業地域にある小さな町工場を走り出すとすぐに狭い道に我が物顔でトラックを路駐する‟ばか”がいる。それをよけるため道の真ん中まで出なければならない。(パパアーン)クラクションが鳴り響く。俺が後ろを振り向くと、セダンを運転するおやじがこっちを睨んでいる。俺もふざけるなと睨みかえす。

 乗用車はそのまま走りさるが、俺も気持ちはモヤモヤしたままだ。何故警察はいつも路駐を放置してるんだ。‟税金泥棒”と心で悪態つくのが関の山で、連絡一つで最寄り警察署の交通課か、交番勤務のお巡りが来て対処するのだろうが、連絡したことは一度もなかった。


 住宅街の生活道路に入ると、見通しの悪い交差点で一旦停止を無視した車両によく退かれそうにもなる。カーブミラーは在るが、車両の映り込みしか確認せず人が映ってもお構い無しに飛び出してくる。こちらもわざと飛び出してやるとびっくりした顔で急ブレーキを踏む。ざまーみろとほくそ笑ながらその場を走り去る。


生活道路から少し大きな道路へと合流し反対側に歩道があるため、信号機のない横断歩道を渡ろうとするが車両は停まろうとはしてくれない。道交法でも横断道路で人が渡ろうとしている時は停止し歩行者を優先させるとあるが、世の中は自分勝手な人間ばかりとつくづく実感する。

 いい加減‟イラッと”したので車両の前に飛び出して行くと、もちろん車両は急ブレーキを踏みクラクションを鳴らす。ぎょっとした顔でこちらを見ているがそんな事知ったことではない。もめたとしても俺にはなんの非もないし、なんなら出るとこに出てやるぐらいの気持ちだ。ただ運転手も自分にも非があると分かっているのか?文句まで言って来るやつなんか一人もいなかった。


 国道45号線沿いに入ると交通量は多いが街灯もなく結構歩道は薄暗い。歩道は車道より一段高くなっているので車両にわずらわせられなくて良いのだが、今度は自転車にベルを鳴らされることがあるが、そんなものは無視してランニングを続ける。しびれを切らした自転車が強引に脇をすり抜けていき、ぶつかりそうになる。俺は「車道を走れ、ベル鳴らしてんじゃねえよ。」と怒鳴りつけるが、自転車は気にもとめず走り去る。俺だけがやり場のない怒りに打ち震えている。


 今日一日の出来事がアパートに帰っても怒りがこみ上げてくる。


 毎日世の中の小さな悪にまみれながら通勤している。自分勝手な人間ばかりに嫌気がさしてくる。


 俺に勇気があれば思い知らせてやるのに。俺に力があれば。 

 

 毎日俺の心に悪を育てていった。一つずつはたあいない小さな悪意。


 自分でも気づかぬまま‟それ”は大きなモノへと育っていっていた。

 





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