イージーモードがベリーイージーだった件
◇ヒトリ島・1日目(続き)◇
バケツ片手に島を歩き回った結果、幾つかの虫の死骸を手に入れた。
その中には何と! スズメバチがいたのです! ヤバい!
私はそれを見付けて拾うと、直ぐにダンジョンに戻った。
もし、知らずに巣に近付いていたら、攻撃される所だった!
吸収した虫は、無事、眷族召喚リストに追加された。
虫は、10DPで一度に百匹召喚されるらしい。
想像するだけで、怖い光景だ……。
それでも、身を守る為には必要なので、スズメバチを召喚する。
これで、400DP。
「取り敢えず、各自自由行動」
そう命じると、スズメバチ達はダンジョンを出て行った。……制御から外れたりしないよね?
幸いにもそんな事は無く、彼等は普通のスズメバチの行動を取っている様子だった。
あ。そうだ!
「島に居る眷族以外のスズメバチを殺して来て」
そう命じる。
暫くして、彼等はスズメバチの死骸を持って帰って来た。
見た目は同じなのに、ダンジョンマスターとしての能力か、それが眷族の死骸では無い事が判った。まあ、数匹は混じっているかも知れないけれど。
「島に人が来たら、見付からないように監視してね。それで、ダンジョンや私や貴方達に危害を加える様だったら、刺しちゃって」
これで一安心。
さあ、釣りをしましょうか! と、その前にトイレ!
トイレに来たは良いものの、トイレットペーパーがあったら不自然だよね?
じゃあ、葉っぱで拭く? でも、毒があったら嫌だし……。
あ! 【浄化】で良いのか!
用を足し、小舟と部屋の偽装の事を思い出した。
その前に、木の蓋を10DPで交換してトイレに蓋をした。
残り390DP。
一番目の部屋に移動し、寝具代わりのボロいマントを10DPで交換。
四つん這いで進む大きさの奥への通路の入り口。ここ、どうやって隠そうか?
あ、そうだ。マントだけで寝ると身体痛いよね? いや、実際には寝ないけれど。干し草を敷こうかな?
私は草刈り鎌を20DPで交換して、外の草を狩って干した。
残り360DP。
そして、釣り道具を持って西にある船着き場へ。
筏を200DPで交換。船系はこれが一番安かった。
残りは、160DP。いよいよヤバい!
戦々恐々しながら釣り糸を垂れる。
『もしもし、こんばんは! どうだった?』
夜、魚を焼いていると水海からコールが来た。
「スズメバチ、ゲットだぜ!」
『良かったね! 魚も釣れたんだ』
「うん! 10匹で40DPになったよ。……少ないよね」
現在190DPである。
「それより、聞いてよ! 釣りから戻ったら、召喚したスズメバチ百匹が最初の部屋に集まってたんだよ!」
『うわ……』
「だから、別に部屋を造ってそっちに移って貰った」
『大変だったね。其処はダンジョンにした?』
「うん。ダンジョンの機能で換気出来るって聞いたから、通路殆ど埋めて虫ぐらいしか通れないようにしたよ。で、ダンジョンコアも其処に置いちゃった」
コアを置いたので、通路を埋めた土は破壊可能――つまり、掘れる状態――だ。
『良いね! でも、毒が効かない人とか魔法使いとか来たら危険だから、コアはもっと奥に置いた方がいいんじゃないかな?』
「う……。それもそうだね」
その場合、どうやってコアを守ったら良いんだろう?
私? 私が殺るの? 【浄化】と【着火】しか使えないのに?!
「守りはどうしたら良いかな?」
『う~ん? ……罠?』
「罠か……。落とし穴とか?」
『うん。まあ、色んな罠を設置しなよ』
「でも、DP……」
『魚釣り、頑張れ!』
『あ、そうだ。魚、干物を作っても良いんじゃないかな?』
焼けた魚を食べていると、水海がそう言った。
「そうかもね。どうやって作るの?」
『えっと……。先ず、開きにして、水洗いして、水気を取る。次に、12%ぐらいの塩水に30分ぐらい漬ける。漬かったら、水に潜らせて表面の塩分を落とす。後は、ザル等に並べて風通しが良い場所で天日に干して……。あ。日が直角に当たるようにね。身の方と皮の方、7:3で日に当てるんだよ』
水海は思い出そうとしているのか、時折右の方を見ながら教えてくれた。
「ありがとう。……ザルとボウルが必要か~」
思い切って、盆ザルを10DP・ボウルも10DPで交換した。
残り170DP。
『そう言えば、スズメバチに鳥を殺して貰えば肉が手に入るんじゃないかな?』
「その手があったか!」
あれ? でも、それって、私が捌かなきゃいけないって事?
「捌ける気がしないので、無しで!」
『そう? そんなんで、人間殺して吸収するの、平気?』
「う……。それは……」
ダンジョンマスターに転生した事で倫理感等が変わった可能性もあると思うけれど、虫が苦手だったりスズメバチを恐れたり、あんまり変わっていない気もする。
『侵入者がコアまで辿り着いたら、コドクが頑張らないといけないんだよ?』
「ソウデスネ……」
勝てる気がしない……。
「じゃあ、武器や防具も交換しないと……」
『武器はシャベルで良いんじゃないかな?』
「もっと殺傷力が高い武器が良いです」
『必要DPも高いと思うよ』
「ですよね!」
良い物は高い。当たり前だけど。安くて良い物なんて、イージーモードなら兎も角ハードモードには無いだろう。
それでも一応、武器と防具を其々検索してみた。
結果はどちらも該当無し。
何とか……。何とか、良い罠を思い付かないと!
『で、偽装の方は?』
水海は、罠を考えてくれるつもりはないようだ。自分で何とかしないと。
「船着き場に筏・最初の部屋にボロいマントを置いたよ。後は焚き火跡だけかな?」
『ふむ……。釣竿にオーバーテクノロジーは?』
「リール無しの竹製だよ。この国に竹があるかは分からないけれど」
『釣り糸は?』
「え? 何だろう? ナイロンとかではないみたいだけど……」
『見せて』
私は、釣竿を水海に見えるように近付ける。
『天蚕糸 だね』
「【鑑定】を使ったの?! Lv3以上あるんだ?」
レベルが上がっていると言う事は、ダンジョン内で人等を殺したのだろう。
『Lv1だよ。ドラゴエルフはエルフ種だから、魔法の才能が高いんだ』
「そうなんだ。良いな」
『エルフと言えば、この世界のゴブリンは、エルフ種の血が混ざっているんだって』
「え~? レイプとか?」
私は、ゴブリンに対する偏見を口にした。
『どうなんだろうね? 昔の話だからなぁ。でも、その頃は、エルフも神と呼ばれるぐらい強かったみたいだから、無理なんじゃないかな?』
「今は?」
『今も、ゴブリンよりは確実に強いらしいよ』
「そうなんだ」
『まあ、そう言う訳だから、魔法が使えるって言っても、怪しまれる事は無いよ』
「良かった~! 怪しまれるなら、服とか汚さないと不自然だもんね」
今検索したら、交換リストに服が無かったんだよ。【浄化】で綺麗に出来ないのは嫌過ぎる!
『ところで、ハードモードって滞在でDP入手可能なの?』
「えっと……」
私はヘルプを検索して答えた。
「一日以上滞在してくれないと、手に入らないみたい」
『うわ……。ハードだね』
「イージーモードは?」
『えっとね……。毎秒』
水海は、言い辛そうに口にした。
「秒?!」
イージーにも程があるでしょう!?
『滞在DP入手にそんなに時間がかかるなら、殺して吸収した方が早いよね』
「でも、なるべく殺したくないんだよ……」
『じゃあ、閉じ込める? まあ、どっちにしろダンジョンだとばれそうだけどね』
「つまり、DP入手は、鳥や魚で何とかするしかないって事だね」
『そうなるね』
◆所持DP◆
170P
◆覚えた魔法◆
Lv1:浄化・着火
◆所持品◆
シャベル・懐中電灯・草刈り鎌
寝袋・マット
釣竿・餌・バケツ・タオル・タモ
ミニ七輪・オガ炭・包丁・まな板・塩・醤油・食器セット・カラーボックス・盆ザル・ボウル
木の蓋(トイレ用)
ボロいマント(偽装用)・筏(偽装用)
◆眷族◆
スズメバチ(群):眷族になった事で毒がパワーアップしている。
◆食料リスト◆
生魚(数種)・焼き魚(数種)・スズメバチ(成虫)