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コトノハ美術館  作者: 百里芳
小説大賞用あらすじ
1/25

エントランス

まずはこの絵をみてほしい。


挿絵(By みてみん)


チマブーエさんという人の書いた『荘厳の聖母』という作品だ。

チマブーエさんは「13世紀イタリア最大の画家」なんて言う大袈裟な呼び名まである、美術史上重要な人物なんだそうだ。


でもこの絵、へたくそだよね。

いくらなんでも真ん中に居る聖母マリア様がでかすぎる。

こんな絵を美術の授業で提出したら、きっとあんまりいい成績をもらえないと思う。

「パースがくるっとる」なんていってね。



次にこの絵を見て欲しい。


挿絵(By みてみん)


ウィリアム・アドルフ・ブグローさんという方の作品で、描かれたのは1875年。

チマブーエさんの作品から600年くらいあとの作品だ。


パースは完璧だ。

きっとこんな絵を美術の授業で提出したらドン引きされると思うよ。

悪い成績はつかないと思うけど。



別に僕は、600年の間に絵の技術が格段に進歩した、だなんて言いたい訳じゃないぜ。

チマブーエさんの絵は、遠近法(透視図法)が使われていない。その意味で「デッサンが狂ってる」って言うのは間違いじゃない。

でも彼は、彼の生きていた時代の人々は、技術が無かったから遠近法を用いなかったんじゃないと思う。

だって、チマブーエさんが生きていた時代よりずっと昔から、生き物みたいなリアルな石像とかを作れたんだから、絵でできないってことは無いはずだ。

余談だけど、あのリアルな石像誰も見てない時は1ミリずつ動いてるんだぜ。嘘だけど。


チマブーエさんの絵の中心――描かれているのは、キリストを抱いたマリア様だ。

彼はきっとマリア様が大切だから、マリア様をでっかく描いたんだ。

当時の人々は文字が分からない人も多かったし、聖書の内容は絵で伝えるしかなかった。

そんな時代に、大切なものを小さく書いてちゃ、意味無いだろう。

彼はきっと、マリア様が大切だから、マリア様をでっかく描いたんじゃないだろうか。


ブクローさんの絵は、とっても上手。遠近法もばっちり。

でもブクローさんの絵は、なんだかえっちだ。

画面の真ん中で美少年が美幼児に"ちゅー"をしている。

しかも、その母親は何も言わずに見ているんだぜ。聖母の穏やかな微笑みを浮かべたままでさ。

きっとこの絵は、600年前には描けなかった絵だと思う。

技術的にっていう意味じゃない。

きっと教会の偉い人に怒られたと思う。えろい人だって許してくれなかったと思う。


マチブーエさんの生きていた時代は、

遠近法で正しく見るより、

客観的な視点で見るより、

科学的な手法を用いるより、

皆が多数決で納得する方法を取るより、

なにより、神様をでっかく描くのが大切なことだったんだと思う。


マチブーエさんからブクローさんの時代までに起こった変化は、

きっと絵画の技術の向上だけじゃない。


なにに目を向けるか。

なにを大切にするか。



600年の間には、

神に目を向ける時代もあったろう、

自分の心に目を向ける時代もあったろう、

ひとつのものを色んな視点でみる時代もあったろう、

たった唯一の機械の目で見る時代もあったろう。


美術館は、

人々がどんな目でどんなものを見てきたのかの

『人々の眼差し』の足跡だ。


この詩集も、

言葉をつかって、

『今の時代を生きる人々の眼差し』の足跡を提示する美術館だ。


言葉の美術館、

コトノハ美術館。






チマブーエ

『六人の天使に囲まれた荘厳の聖母』

制作年:1280年頃

木版、テンペラ

ルーヴル美術館収蔵


ウィリアム・アドルフ・ブグロー

『The Virgin, Jesus & Saint John Baptist』

制作年:1875年

油彩


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