別れ、そして旅立ち
「お嬢様、本気で言っていらっしょるのですか?お嬢様はまだ6歳ですしモラ王子も許しはしないでしょう。」
あれからパーティーを中座し、屋敷へ戻るとナツは何もせず朝までぐっすり寝てしまった。
朝になれば屋敷の一部の人が知っていた。昨晩のうちにクレマチスが話しておいたのだ。
初老の女性がナツを止める言葉をかけるがみんなわかっていた。これは社交辞令で、一応止める言葉をかけていることを。
「大丈夫よ、御父様と御母様を助けたいの。それにクレマチスもいるわ。」
「えぇ、わかっておりますよ。」
使用人達はナツの味方であったし、両親に目を覚まして欲しいのだ。それでも6歳の娘の旅を許したのはクレマチスを信頼しているからなのだ。それでも心配は消えない。
もしもの事を考えると背筋がゾッとする感覚を味あわされる。
その感覚を押し殺して旅支度の手伝いをする。
女の子だからとあれやこれやと荷物を増やせば、こんなに持っていけないわと却下されてしまった。
そして荷の蓋を閉じるとやっとナツは落ち着き大きく深呼吸した。
「みんなとはしばらく、会えなくなるのね。寂しいわ」
ポロリと出た言葉は自分でも予想外で驚いてしまった。
しかし、本音であることは自他共にわかっている。
それから暫くは味わえぬシェフの料理を食べ、身支度を整え、クレマチスを待つことになった。
その間も使用人達と他愛もない会話を交わす。だんだんに口の中が渇いてくるのに反比例して瞳は湿ってくる。
──離れたくない。
そんなことばかり浮かんできてしまう。
まだ6つなのだから当たり前である。
「お嬢様、お待たせ致しました。」
暫くしてクレマチスがやってきた。馬車の手配をしていたらしく、既に荷物が乗せられていて手元にない。
ナツは重い腰をあげる。
──御父様御母様を助けるって決めたのに行きたくないだなんて…
「早々に帰って来る予定なので私の部屋は放置していただいて構いません。掃除も無用です。」
クレマチスの言葉にナツはビクリと肩を躍らされたが何よりも励みになった。
──そっか、解決すれば直ぐに帰って来れるんだもんね。
ありがとう、クレマチス。
使用人に見送られ、ナツとクレマチスの長い長い旅が始まった。