葉月・逢魔・幽世にて。
提灯ほんのり薄黄色。
宵闇明るく照らされて。
和太鼓どんどこ祭囃子。
皆々輪になり踊り出す。
喧騒わいわい流されて。
幼子迷い母を呼ぶ。
歩けど歩けど母居らず。
幼子とうとう泣き出した。
気付けば知らぬ道入り。
辺り暗闇何も見えず。
幽かに木の葉がささ揺れる。
不意に笛の音ぴーひょろと。
幼子耳元はっきり聞こえ。
驚き幼子顔上げた。
視線の先にはにんまりと。
破顔一笑浮かべしかんばせ。
宵闇漂う長首女。
幼子すとんと腰抜かし。
悲鳴上げようにも声が出ず。
ただただかんばせ青くして。
怯える以外の事出来ず。
それ見て女は不可思議そうに。
首を傾げてまた笛一吹き。
やがて身体も付いて来て。
幼子撫でよと手を伸ばす。
「危うしゅうないぞ、人の子よ。
泣くな妾が帰してしんぜよう」
驚き固まり動けぬ幼子。
一撫でしてから抱き上げた。
幼子抵抗せずにされるがまま。
女がしきりに問うてくる。
坊は幾つか、いずこから来た?
しかし幼子答えない。
女諦め口つぐむ。
いよいよ提灯見えてきて。
そっと幼子地に下ろし。
「ゆけよ人の子、うつしよだ」
言って莞爾として笑んだ。
幼子ぼうっと女を見つめ。
ありがとうとも言えぬうち。
ぼんやり女はかき消えて。
後には闇が続くのみ。
背後から母の呼ぶ声聞こえ。
幼子くるりと振り向いた。