裏154話
「流石のタイミングだねぇ」
ロウィッチを閉じ込め、徐々に収束していく黒い球体を前に宙に浮かぶ『神喰らい』は自らの背後にある虚空に向かって話しかける。
「間に合うかどうかのギリギリで助けるのが本物のヒーローってもんだからな」
すると『神喰らい』の声に反応してなのか、虚空から声がすると徐々に声の主があぶり出しの様に何も無かったはずの空間からにじみ出てくる。
声の主は露出度が高いのか低いのかよく分からない独特の衣装をまとった水色の髪に紫色の目を持った青年であり、青年の背後には青年と同じ色の髪と目に同じような服を着た青年によく似た女性が立っていた。
そして女性の方は先程黒い球体に飲み込まれたはずのロウィッチを小脇に抱えていた。
尤もロウィッチの全身はズタボロになり、虫の息ではあるが。
「確かに本物のヒーローならそれを狙わずにやるけど、チーさんの場合はそれを狙ってやるから趣味が悪いよねぇ」
「上級神なんて言うのは多かれ少なかれ悪趣味だと思うぞ。超好色爺然り、引き籠り太陽神然り、マゾヒズムフィーバー然り、生贄大好きな奴に世界が壊れるほど暴れる奴らまで居るしな。そうそう、中には母親が二十人以上居て全員の願いを叶えようといつも奔走している奴もいたか。と、話がずれたな。他人の趣味なんてどうでもいい話だった」
『神喰らい』と青年……多次元間貿易会社コンプレックスの社長の分身体が話を進めるのに合わせてロウィッチが造りだした仮初の世界が収束していき、最終的には直径にして10m程の白一色の無機質な円柱状の空間だけが残る。
「今回はウチの者が迷惑をかけたな。この通りだ」
「私と戦っている間は自分の法則を弄って自分を社員じゃ無くしてたみたいだし、チーさんが謝る必要はないんじゃない?後、頭を下げるよりもその子の姿を借りる許可が欲しいかなー」
青年が軽く頭を下げるが、『神喰らい』はそんなものは必要ないと言わんばかりに青年と女性を一人の存在と見るような目で自分の要求をぶつける。
「今回の件の間だけで、ウチの品位を汚さないという条件付きなら認めてやる。お前と戦っている間のコイツは社員じゃなかったしな」
「汚いな。チーさん。流石チーさんきたない。チーさん絶対忍者だろ。謝る必要が無いと言った瞬間にこの掌返しだよ」
「やかましい。無期限無条件にしたらお前の事だからコイツの姿で何するか分かったもんじゃねえだろうが」
「しくしーく」
「ハァ……」
『神喰らい』のあからさまな嘘泣きに青年はため息を吐きながらも、一切の前動作無しに世界間転移用のゲートを作り出し、その間に女性はロウィッチの頭から帽子を取ると『神喰らい』にそれを投げ渡す。
「一応古い付き合いだ。格安料金で色々と引き受けてやってもいいぞ?」
「心配しなくても大丈夫。送られてきている情報通りならハッピーエンドに持っていけるはずだから」
「誰にとってのハッピーエンドかは聞かないでおく」
そして青年たちはゲートを通ってこの場から姿を消し、後には『神喰らい』だけがこの場に取り残される。
「まあ、私にとってはハッピーエンドではあるかな?何が幸せなのかは人それぞれなわけだから全員がハッピーでは終われないけどねー」
やがて『神喰らい』は背中から一対の翼を生やすと、この場と外の境界を越えて外に飛び出し、維持する者が居なくなった仮初の場はまるで解けるように無くなった。
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「さてと、あの子の頑張りに報いてあげるためにちょっとのんびりしちゃったし間に合うかなー」
ロウィッチの帽子を被った『神喰らい』は自身の肉体を外見から中身(魔力含む)に至るまで正確にロウィッチの姿をトレースして変化させると、目の前にある巧妙に隠蔽された結界に手を触れる。
ここはR05-I14-C01世界……つまりはパンプキンたちの世界とその外側の境界線上。
ここには時空遷移結界と言う特定のレベルに属する者が触れると三年先に飛ばされる結界が張られていた。
その結界を『神喰らい』は……
「ほいっと」
手首を僅かに捻るような感覚で解除、破壊し、自らよりも遥か先に『塔』を出てこの結界に嵌っていた『管理者』アバドモルがR05-I14-C01世界の中に突入していくのを見届ける。
「次は……こうかな」
『神喰らい』は髪の毛を二本引き抜くとそれらに別行動を取らせつつ、自身はR05-I14-C01世界にあるリーンの森と呼ばれる森に向かって降下を始める。
そして誰にも……それこそリーンの森の中の事ならば全てを認識しているはずの大地の精霊王にすら気づかれずに森の中に着地する。
「さて、イズミは……こっちだねー」
着地した後の『神喰らい』の行動は早かった。
数百の探知方法を同時に展開する事によって天高く浮かぶルナシェイドにアバドモルが侵入して全権を握るのを確認すると同時に、パンプキンたちが結界の中で話をしている事、ウリコにリーン様が憑いている事、そんなパンプキンたちの元にイズミがルナシェイドに行くための装備を二組持って向かっているのを認識する。
「キャッ……なっ!?」
「ヤッホー」
状況を認識した直後に重力を歪める転移魔法によって空間を跳躍して『神喰らい』はイズミの正面に現れ、ワザと少しだけ漏らした本来の気配から目の前に居る人物が『神喰らい』である事を認識したイズミは一瞬の驚きの後一気に顔が青ざめていく。
「それじゃあ、ちょっとお姉ちゃんに協力してもらおうかなー?イズミちゃん」
そして怯えて震えるイズミに対して『神喰らい』は躊躇なくそう言い放った。
一応実力としては
ロウィッチ<イズミ<『神喰らい』≦社長さん
になります。
イズミと『神喰らい』の間にどれだけ<が有るかはさておいて。
なお、リバースの次回は表の戦闘終了後となりますのでお待ちを。