その夜〜ギャル会談〜
宴は終わった。日も落ち、城に闇が満ちてロウソクだけが廊下を照らす。そんなファンタジーな廊下を歩いて俺たちは客室に案内された。
(個別の部屋か。良かった)
少し前に三人とも集められていたからもしかして、なんて考えがよぎったが、さすがに気を利かせてくれたようだ。
隣あった部屋同士の前で「おやすみ〜」と言って各々が部屋に入っていった。
部屋に入る。無音、風の音さえない。
「・・・・・・・・・・・・はあ」
ベッドに腰掛ける。疲れのような泥っとしたものが背中にかかるのを感じる。
この世界は、思ったよりも「剣と魔法のファンタジー世界」だなぁ。というのが初日の感想。
来て半日ほどの時間が経ったが、未だに実感というのは感じてない。まだ夢では、と思う。
なんでこんなことに。なんで俺が。しかも女の子二人も連れて。
「なんで?」
と問いかけた声はベッドに吸い込まれて消えた。ホテルのような優しい反発性を持つベッドだが、答えまでは返してくれないらしい。
いつまでも制服というのもあれだ。脱いで適当に椅子に掛けておく。軽い体になってベッドに潜る。
(旅行みたいな気分だ。・・・・・・多分、相応しくない表現だろうけど)
今日は大変だった。明日も大変だろう。
でももしかしたら、目が覚めたら、いつもと変わらない日常に帰っているかもしれない。
どっちかなぁ、なんて思いながら眠りについた。
***
「・・・・・・・・・・・・はあ」
ほぼ同刻、ため息をつくのは澪。
ぼーっと部屋を眺めて、でも何かが変わる訳もなく。
(この先どうなるんだろう)
と、当然の疑問を持った。今日はなんだか周りが勝手に動くのでそれに合わせていればなんとかなった。
だが明日は? その先は? 分かりようがない。想像さえ出来ない。
「……」
またため息が出そうになったが、どこかで止めておかないと延々と出る気がして抑え込んだ。
夜なんだし、寝よう。明日考えればいい。明日になって、またみんなで考えればいい。
きっと、悠馬だって……。
——コンコン。
それは部屋をノックする音だ。びっくりして体が跳ねた。
誰だろう。悠馬、かな。ドキドキしながら扉を開ける。
「……やっほー」
「煌城、さん?」
「やはは、なんか寝れそうになくって。……澪ちゃんも、じゃない?」
その返事を聞いて――失礼ながら――同じ人間なんだなぁというのが正直な感想だった。とりあえず部屋に招く。
しかしなんだ。私が考え込んでいるのがバレた? そんな”匂い”がしたのだろうか。煌城は良く分からない。
澪はベッドに腰掛ける。煌城は「となりいい?」と言ってくる。「いい、ケド」と了承する。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
そもそもの話だが。
ここの二人は特別接点があるわけではない。澪は幼なじみで、煌城は(暫定)悠馬の想い人、くらいの感じである。
それに、多分お互いに「悠馬と絡みがある」程度の認識のはずだ。だからこうして面と向かって話すのは初めて、だと思う。
「いやぁ、今日はなんかいろいろあったね!」
「ああ、うん。そうね・・・・・・」
言葉が飛んだだけで交わるには至らない。なんとも言えない空気感が漂う。
再び沈黙が訪れる。どっちが悪いかとか言いたいわけじゃない。でも来訪者は煌城なんだから、さっさと要件を言えばいいのに。
・・・・・・なんて言えたら楽なのだが。
「あっ、あのさ・・・・・・!」
意を決したのは煌城の方。要件を告げる。
「二人ってさ、お似合い、だよね」
「え・・・・・・、は!?」
「だってさっき、パーティの時、二人がいい雰囲気だなって思って」
澪が煌城を見ていたように、煌城もまた澪を見ていた。澪視点では、「ちやほやされてんなぁ」程度の視線だったが、向こうは違うようだ。
「二人ってさ、その、付き合ってる、とか?」
「いやいや。勘弁してよ。ただの幼なじみなだけだって」
「幼なじみ? そうなの?」
悪意の無い問いだ。普通に驚いているらしい。まあ言ってないし、当然の反応だ。
今知られてもさして問題はない。でもなんだろう。煌城はなにか、確信しているように詰める。
「でもさ、お互い普通の幼なじみって感じじゃないよね?」
「は・・・・・・!?」
突然飛んできた言刃が首を掠めていく。お互いって言った? 澪は自分の恋心をなんとなく理解しているが、互い? それは悠馬も矢印を持っているということ?
「──いや、それは無いって。だってアイツが好きなのは・・・・・・、アンタ。煌城さんのはずだから」
「えええ!? アタシ!? うっそぉ!?」
と本気で驚いた様子を見せた。立場逆転。今度は澪が詰める番だ。
「だって、傍から見てたらよく分かる。アンタと話す悠馬、鼻の下伸びまくってるし」
「鼻の・・・・・・? 普通じゃない?」
「それにさ、・・・・・・ああ嫌味とか抜きで言うけど、アンタカワイイじゃん。そりゃ悠馬はアンタを選ぶよ」
「カワイイのは、そりゃ頑張ってるから・・・・・・。でも悠馬くんが私を好きなんて・・・・・・」
頑張ってるから、か。周りも見てるし自分磨きも怠らない、と。でも自分に集中しすぎて男子の目線に気付けてないんじゃないだろうか。別にイジメたいわけでもないが、私だって好きな人をたぶらかされるのはいい気分ではない。と澪は思う。さらに重ねて続ける。
「悠馬は、多分アンタが好き。だから、ちゃんと答えてやって欲しいな」
「悠馬くん・・・・・・」
考え込む煌城。言うだけ言った。ちょっと毒っぽいけど、紛れもない本心だし。これで澪の胸の内は晴れるだろう。
・・・・・・なのに。
なんでこんなに息苦しいの?
「ほら、早く寝よ。どんだけ時間があるかわかんないけど、答えを出すくらいまで待ってくれるでしょ」
「ちょ、ちょっと待って!」
押し出す手に抵抗を感じて押すのを止める。
「その、話と関係ない、っていうか別の話なんだけど」
「・・・・・・、なに?」
「お互いさ、名前で呼んでみない? アタシはその方が嬉しい、かも」
「別に、いいけど。まあいつまでも煌城ってのも変か。——アカリ。でいいでしょ」
うんうんと頷く彼女。「じゃそういうことで」と再び部屋から押し出す。今度こそ外へ出た。
恋心が揺れ、定まらない気持ちは分かる。でも、それはどうあっても自分でケリをつけなければならないことだ。
再び満ちる静寂。
「・・・・・・これでいい。アイツが笑えれば、──・・・・・・」
時は過ぎる。
だが澪は・・・・・・、相手に答えを押し付けておきながら、自分は回答しないとした。いっそ、現実を突きつけられた方がマシかもしれない。
なんて。ベッドで一人胸を抱く。




