宴と恋心
「結論から申し上げます。ドラグナーの竜とその駆り手は発見できませんでした。墜落点と思われる場所には魔族の魔法痕跡があった為、その場で撤退術式を発動したものと思われます」
あの後、俺たちは客室に案内され、三人一部屋で腰を休めていた。
大きめのベッドに「わーい」と飛び込む煌城さん。
ソファーに座って靴を脱ぎ、足を延ばす澪。
俺は普通の椅子に腰かけ、持っていた木刀を置いた。
しばらくだらだらと時間を過ごし、日が傾いたな、なんて思っていた頃。部屋がノックされる。
「失礼します! 客人の皆様にも現状の報告を兼ねた説明をされるとのこと! わたくしめが案内をさせて頂きます!」
と、騎士の人が迎えに来た。んでついていった。玉座の間とは違う、また広い場所に案内され、最前列に立たされた。
そして、さっきの報告がシルヴィアさんに行われているのを見ていた。
「現状、敵のドラグナーはあの一体のみ観測できている。であるなら、今回敵に与えたダメージは甚大なはずだ」
そういえばあいつにやられた。みたいな事を言っていたような気がする。それを撤退にまで追い込んだ。結構大きい戦果のはずだ。
「えー、それでだな。本来は異世界の勇者召喚を出迎える祝宴を予定していたが、変更。というかついでに、だな」
え、なんか思ってた流れと違うな。
「敵に一矢報いた! それを──この勇敢なもの達を労おうではないか!」
シルヴィアさんが俺たちの所へきて、んで(なぜか)俺の手を掴んで挙げさせた。なんで?
うおおおお!!と歓喜の雄叫びを上げる騎士たち。
まあ、今までやられっぱなしだった所で一発し返してやった、という爽快感は分からないでもない。はしゃぎたくもなるか。
「どうだ。自分たちが守った者を見るのは」
シルヴィアさんが声をかけてきた。
俺たちが守った。まあそうなんだろうけど、実感はない。だって自分たちの事で手一杯だったわけで。それに、「俺は」何もしていない。
「煌城さんとかたのしそうだし、いいんじゃないでしょうか」
「何故そんな他人事なんだ? お前だって貢献したじゃないか」
何もしてなかったわけではない、が。かといって貢献したかと言われると微妙なところだろう。澪を上手く動かした、といえばそうなのかもしれないが。
「あの時私に尋ねたな。何か出来ることは、と。随分な謙遜だ。あれほどのサポート能力もあったなんて」
サポート? そんな言われる様なことは出来てないはずなんだが。
「あの時、ミオの魔力量が爆発的に上昇した。お前と会話をして、だ。そうさせたのはお前だろう?」
首を傾げるのは心の中だけにした。あんまり「知りません」と言い続けるのは印象が良くない。
もしかして自覚がないだけで俺にもバフを渡せる能力があった。のかもしれない。
「っと。私も失礼する。束の間の祝宴だが、お前たちも楽しんでくれ」
そう言ってシルヴィアさんは別の人の方へ行った。
周りを見る。煌城さんは・・・・・・騎士たちに囲まれている。「訓練場の魔法はどうやって──」「あの防御魔法はどんな構築で──」など、質問攻めにあっている。
それに対して「いや〜よく分かんないんだけど、こう、ぎゅ〜ん、って」みたいな彼女らしい回答をしていた。それを聞いた騎士たちは「おお・・・・・・」と。いやそんな感心するものでもないと思うが。
「やっぱああいうギャルって、どんな世界でもモテるのかね」
隣に澪が来ていた。手にドリンクを持って・・・・・・。
「・・・・・・ワイン?」
「ぶどうジュースだよ」
そりゃ良かった。と一拍おいてから彼女が話しかけてくる。
「・・・・・・あの子がモテるの。ちょっと心配?」
「? 心配、とは?」
「騎士たちって言っても男子なわけじゃん? 内心穏やかじゃないのかな〜って」
「・・・・・・? いや、煌城さんはああいう人望があるタイプじゃないか。むしろ必然というか」
「へぇ〜、そう」
なんだその心理テストみたいなのは。でもまあ、彼女のことが好きなら、穏やかではいられないのかもしれないな。
逆に、澪があんな風に囲まれていたら・・・・・・、うん、ちょっと嫌だな。
「確かに。澪がああなったら、嫌かもな」
「ああって?」
「ほら、色んな人に囲まれて、さ」
「え・・・・・・? ・・・・・・ふーん」
それきり会話が途切れる。澪は前髪をいじったり飲み物を煽ったりと落ち着きがない。
そしてため息、のような深呼吸したのち、俺の背を押してきた。
「なんだよ?」
「あんたもあの中に混じってきなって。多分ちやほやされるよ? あんたの人生にあるかないかのちやほやが」
「なんていうけど。お前なんか顔赤くないか?」
そう指摘するとぷいと横を向いた。
「いいから行ってこいって。私がしばらく一人になりたいの!」
まあ、そういうなら。と澪の元を離れた。ったく、ちょっといい感じで話せてたのに。
***
壁際で一人、宴会場と化した広間を引いて見ていた。色んなところで色んな人が会話に耽っている。これは日常的行われているものでは無い。本当にたまたま、今日迎撃が成功したから、みんな嬉しいのだろう。
(・・・・・・はぁ)
周りにはバレないようにため息をつく。
悠馬を送り出し、彼はおどおどしながらも話についていっている。
そんな彼の隣には、キラキラ眩しい煌城さんの姿があった。並び立つ二人を見て。
(お似合い、じゃん)
と言葉にするでもなく、思ってしまった。頭に抱えた言葉というのは、意思に関わらず反芻するものだ。彼らは・・・・・・。
(・・・・・・。私、ヤな女だ)
自分も、無視できない程度には、彼の事を思っていると自覚がある。
魔法については知らんぷりで通してきた。でも本当はなんとなく感覚は掴んでいた。
掴んだのは最初。私だって魔法を見た事がないわけじゃない。子供の頃に少しは触れている。
もっとキラキラしたものだとかは、少し思い違いを起こしたが。破壊も出来た。なんとなくをここで掴んだ。
でも一番は、「悠馬の負け姿は見たくない」という願いだった。そう強く願ったら、ホントに強くなった。その時にコツみたいなのは掴んだ。
だから本当は、迎撃の時、どうやって攻撃するかは分かっていた。でも。
無知な方が構ってもらえるから。と少し手を抜いた。
悠馬の言う通りに従って、ボロが出そうならそこだけ自分で修正して、と考えた。
ここまでは理想論。
でも発射の直前。煌城さんが体勢を崩し、それを庇いに悠馬が走った。
それを見て、「ああ・・・・・・」と。何か、泥っぽい感情を感じた。
『嫉妬』だ。
向こうを見る。いつもと変わらない、かっこいい悠馬。隣にはそう劣りはしない女の子。
本当に好きなら、ここから見守れよ。
(私には──似合わない)
そう確定しろよ。そうだと納得しろよ。それで終わりだ。
終わり・・・・・・。──何の、終わり?
その先は考えてはいけないと無視、無視、無視。
(悠馬──)
私の胸の小さな火種。大火と化す前に、消してしまいたい。
──好きだよ。悠馬。




